玉座の間、イグチは王の隣に立ち、アシノは片膝を付いて報告をしていた。
「勇者トチノハが謀反を起こしたと聞いているが、真か?」
「はっ、私は人質に捉えられてしまい面目次第も御座いません」
「トチノハの奴め……」
王は肘掛けをドンッと殴って言う。
「して、何故やつは、ここまで来て撤退をしたのだ」
「恐らくは、勇者サツキ様達が思ったよりも早く到着して動揺したのでしょう」
「うむ、確かにそうかも知れぬが」
髭を触りながら王は納得がいかない感じに言った。
「まったく、本来であれば魔人と闘うべき時に謀反を起こすとは、恩知らずめが」
「えぇ、仰る通りで御座います。我が王」
イグチが言うとまた不機嫌そうに王は話す。
「それで、奴らの要求はキエーウのメンバーの処刑と囚人の解放だったか」
「はい、私が直接聞き及んだのは、キエーウのメンバーを裁判無しで速やかに処刑すること。亜人の囚人をすぐに解放することでした」
「キエーウはともかく、その様な要求が通るはずも無いだろう。馬鹿馬鹿しい」
「仰る通りで」
王は頭を悩ませる。魔人に勇者の裏切りに、隣国との緊張状態。問題は山積みだ。
「勇者アシノよ、下がって良いぞ。私はこれからイグチと共に、議員達と話をする」
「はっ、かしこまりました」
アシノは立ち上がり、敬礼をすると玉座の間を後にした。
ムツヤ達は騒然としている街を抜けてホテルに帰っていたが、戻るなりモモが言った。
「申し訳ありません、しばらく1人で考えさせて頂けませんか?」
その言葉を受けて、ルーも女子部屋からムツヤ達の部屋へやってきていた。
ユモトに淹れさせた紅茶を飲んで、クッキーをモシャモシャと食べている。
ムツヤはヨーリィに魔力を送りながら、ユモトはソワソワしながらモモの心配をしている。
「まさか、モモさんがお父さんとあんな形で再開するなんて……」
「反乱軍だもんねー」
ユモトの言葉にルーはため息をついた。
「モモさん大丈夫でしょうか」
「大丈夫……。ではないでしょうね」
「そうでずよね」
ムツヤもどうして良いのか分からず下を向いた。
「モモちゃんってお母さんが居なくて、今はお父さんが唯一の親御さんでしょ? そりゃショックよね」
「でしょうね……」
ユモトは自分自身とモモを重ね合わせて考えていた。
自分も母親がもう居ない。それで唯一の親である父とあんな形で再開を果たしたらと思うと……
「こればかりはモモちゃんが気持ちの整理をつけるまで待つしか無いわよね」
「えぇ、そうですね」
そこまで言うとルーはベッドに倒れ込んで言った。
「考えてても仕方ないから私は寝る!! 疲れた!!」
そんなルーを見てユモトは笑っていたが、次の瞬間。
「はっ、か弱い少女が2人、密室、飢えた野獣。何も起きないはずがなく……」
「何も起きませんよ!!!」
モモは1人ベッドに腰掛けてうなだれていた。やっと会えた父がまさか国へ剣を向けるなんて。
キエーウを倒して、人間と亜人が仲良く生きていける未来を想像していたのに、今度はこんな事になるなんて。
悔しさと虚しさで涙が一筋出てしまった。私はどうすれば良いのだろう。
そんな時、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。アシノだ。
「あれ、モモお前だけか?」
部屋を見渡してルーが居ないことに気付くとアシノは言う。
「えっと、その」
「この非常事態に……。またどこか遊びにでも行ったか?」
「ち、違うんです。私がしばらく1人で考えさせてほしいと言って、それで!!」
ルーの名誉を守るためにモモが言うとアシノは「あー……」っと声を出した。
「そうだったか、それは悪かった」
「いえ、良いんです」
「1人で考えたいって言ってる所悪いが、1人で考えるとろくな結論にならないぞ。特に疲れている時は、だ」
「えぇ…… そうですよね」
モモはそう言ってうつむく。
「あいつ等は、馬鹿が多いが、悪い奴らじゃない。話せば何かスッキリするかもしれないぞ」
「わかりました」
「先にあっちの部屋に行っている。来たくなったら来ればいい」
「はい」
モモは無理に作った笑顔でアシノを見送る。
男子部屋のドアが開いてバツが悪そうにアシノが入ってきた。
「あー、悪い。隣の部屋に入っちまった」
「せっかく私達が1人考えるムードを作ったのに、全く台無しにしてくれる女よ!!」
ルーがそんな事を言うと、アシノは無言でルーの額をビンのフタで撃ち抜いた。
「いだああああ!!! え、ヘコんでない? 骨ヘコんでない!?」
「モモさんどうでしたか?」
ユモトが聞くとアシノより先にルーが喋りだした。
「えっ、ユモトちゃんスルー? スルーなの!? いつからそんな子になっちゃったの!?」
「モモはだいぶ精神的に参っているみたいだな」
「やー!!! 無視しないで!!!」
「モモさん大丈夫ですか……」
「ムツヤっちまで!?」
ルーはベッドに倒れてジタバタとしていた。
「何か考え事があるなら相談しろと言っておいた」
それを聞いてルーはハッと起き上がり、ムツヤを指差す。
「モモちゃんが悩みを相談した時の為に、男子諸君に女の子のお悩みにどう答えれば良いか指導したいと思います!!」
「どう答えればいいかでずか?」
ムツヤがアホっ面で言うと「そうよ!!」とルーは返す。
「これはモテたい男子諸君にも聞いて欲しいわ!!!」
「まずムツヤっちユモトちゃん、モモちゃんから相談を受けたらどうする?」
「一緒に考えます!」
「そうですね、僕も一緒に考えて何か解決策を……」
ユモトがそこまで言いかけた所でルーが叫ぶ。
「この非モテー! 違うだろー! 違うだろ! わかってないよ! 女心をわかってないよ!!」
「ど、どういう事ですか?」
ユモトがあわあわとしだすと、ルーは咳払いをして話し始めた。
「っていうか、ユモトちゃん心はちゃんと男の子なのね……」
「なっ、僕はちゃんと男です!!」
「まぁいいわ、女の子が相談をしてきて解決しようとかアドバイスしようとか思う男は…… モテません!!!!」
「えぇー!?」
ムツヤとユモトが驚きの声を上げる。
「じゃ、じゃあどうすれば!?」
ムツヤが聞くとフッフッフとルーは笑う。
「それはね、相談されたら『わかる』とか『大変だったね』とか共感する言葉を並べるのよ!!」
「で、でもそれじゃ悩みの解決にならないんじゃ……」
ユモトが言うがルーは止まらない。
「うっせぇわ! 女心を分からない男子は言う通りにしときなさい!!」
「アシノさん、本当にそうなんですか!?」
ムツヤから聞かれ、アシノはそっぽ向いて言う。
「まぁ……。そいつの言うことは合ってるよ」
「お、女の人の心って難しいですね」
ユモトは困ったように笑ってそう言った。