目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

反乱の勇者 1

-サツキ妄想中-


「アシノ先輩、助けに来ました!」


 サツキは人質として縛られているアシノの元へと向かう。


「サツキか!? 助かった!!」


 アシノは安堵の表情を見せる。


「アシノ先輩……」


「今なら何をしても逃げられませんね? ハグをしても、いやもっとそれ以上の事をしても……」



 現実へと戻ったサツキはよだれを垂らしていた。


 ムツヤ達はそれを見て自分達の方が早くアシノを救出しないと、どのみち大変な事になるのを悟る。


「伝令です。反乱勢力が城の中へと侵入しました!」


 1人の兵士が兵士長とムツヤ達にそう伝えた。そして続けて言う。


「そして、城門を破ったのは勇者トチノハらしき者との事です」


「勇者トチノハ!?」


 兵士長とサツキはほぼ同時にそう言った。


「一体、城で何が起きているんだ……。皆、門を閉めて城へ向かうぞ!!」


 命令を受けて兵士達は急いでその通りに動いた。


「あのー、勇者トチノハってだれでずか?」


 ムツヤが聞くとサツキは答える。


「勇者トチノハはエルフの勇者です。弓と爆破魔法の使い手で、かなりの実力者です」


「まずい事になったわねー……」


 ルーも今回ばかりはどうしようかと頭をひねっていた。


「勇者トチノハ様、ご乱心召されたか!!」


 近衛兵長カミトは大剣を亜人の集団に向けて言う。


「乱心、違いますよ」


 トチノハは何も構えずに右手を前に突き出していた。


「狂ってるのはこの国の方ですよ」


「ここは私にお任せ下さい。トチノハ様は王のもとへ!!」


 屈強なオーク、ネックが前に出て剣を構える。


「随分と格好いいけど、逃さないわよ?」


 近衛兵の魔法使いであるイズミが亜人の集団に重力魔法を掛けた。すると、重さに耐えきれない者は膝を付いて苦しそうにする。


「それじゃアンタの相手はこの俺だ。美人さん?」


 エルフのリーダー格らしき男は、魔法を無効化してイズミに矢を放った。自動で出現する高度な防御壁でそれは弾かれたが、重力魔法を退けられてイズミは冷や汗をかく。


 トチノハが軽々と王の間へ走り去ろうとするのをカミトは追いかけようとしたが、後ろから剣で斬りつけられる。


 とっさに振り向いて剣で受け止めたが、その重い剣で体が後ろに少しよろめく。


 イズミも追尾型の業火を放つが、トチノハの生み出す爆風で相殺されてしまう。


 早く追いかけたいが、後ろから斬られ、射られてしまってはそこでお終いだ。それならば、さっさとこの場を片付けるしか無い。


「行くぞ!!」


 カミトは腕力増加の魔法を使い、大剣を一気にネックへと振り下ろした。が、少しも動じずに受け止められてしまう。


 ネックが剣を持つ力を緩めて、左下に受け流すと、反撃とばかりに袈裟斬りに斬りつける。カミトはフルプレートアーマーだが、大剣で斬られたら、ただでは済まないだろう。


 ところが、カミトは左腕1本でその剣を受け止めた。腕に防御の魔法を掛けていたのだ。そして横薙ぎに剣を振るう。


 ネックは脇腹を少し斬られてしまうも、致命傷にはならない。そしてハハハと笑った。


「やはり戦士の戦いはこうでなければ!! 久しぶりの強者との戦いだ、楽しませてもらうぞ!!」


 カミト達の戦いを尻目に魔法使いのイズミもリーダー格のエルフに応戦をした。


「最速で最短で速攻で片付けるわよ!!」


 ダンっと強く足で地面を踏みつけると、そこから氷の刃が無数に浮かび上がり、エルフの元へ飛ぶ。


「面白いね、俺も真似しちゃお」


 そう言うと、なんとエルフはイズミと全く同じ方法で同一の術を使ったのだ。


 氷の刃同士がぶつかり合って砕け散る。その中から真っ直ぐに矢が飛んできた。


 矢はイズミの腕をかすめて、僅かながら傷を作った。


「ごめんね、若い女の子は傷付けたく無かったんだけど」


「それだったら、おとなしくしていて貰えないかしら?」


 イズミは両手を前に突き出してそこから業火を吹き出した。それと同時にまた地面を踏み込んで、魔力を込める。


 エルフは風の魔法で業火を吹き飛ばしたが、地面から伸びる拘束魔法に足を捉えられてしまった。


「あら、もう終わりかしら」


 そう余裕そうに言ったがイズミは違和感を覚える。これ程の使い手がこんな安い罠にかかるはずがない。


 相手の実力は常にそれ以上にも以下にも見てはいけない。それは死を意味する。


「いや、動く必要が無いんでね」


 エルフが言った瞬間、イズミは目眩がした。フラついて立つことも出来ず、膝を付いて、そのままうつ伏せに倒れてしまう。


「安心してよ、死ぬ毒じゃない。しばらくおやすみなさい、美人さん」


 エルフは矢に毒を塗っていた。それは麻酔薬だ。かすめただけでも、しばらく動けなくなる。


「イズミ!!」


 ネックと剣を交えているカミトは叫ぶ。


「少々貴殿を買い被っていたかな? 戦いの最中によそ見とは」


 そうネックは言うと同時に、カミトを袈裟斬りに斬りつけ、兜の後ろ、隙間へと剣を振り下ろした。


 カミトはドサリと倒れるが、血は吹き出していない。


「死なない程度に峰打ちだ。まぁしばらくは動けまい」


 ネックとリーダー格のエルフは戦いを終えて城の中へと入ろうとする。


「待て!!!」


 それと同時に声が聞こえた。振り返るとそこには勇者サツキ達が居た。


「まずいな、勇者相手じゃ時間稼ぎぐらいしか出来ないぞ」


 エルフが言うとネックは剣を持ち直して返事をする。


「元よりそのつもりだ」


「それ以上動かないでくれよ。こっちには勇者アシノが人質としているんだ」


「くっ……」


「構うな!! やれ!!」


 アシノはそう言うが、ムツヤ達は動けない。そんな中でモモが一言、言葉を放った。


「父……上……?」


「元気そうだなモモ、お前の活躍は聞いているぞ」


 その会話を聞いて思わず皆の視線がモモとネックを行き来した。


「えっ!? えぇー!? モモちゃんのお父さん!?」


 ルーは思わず声を上げる。しかし、モモは固まったままだ。


「キエーウを壊滅させた事、父として同胞として、誇りに思うぞ」


 あれ程までに夢に見た父との再開は、思わぬ形で果たされた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?