ムツヤは魔剣『ムゲンジゴク』のレプリカを持ち、敵の群れに突っ込んでいった。
王には東の国の実力者だと言うことにしてあるので、多少動きが良くても不審がられないだろう。
前線にいる魔物を思い切り縦に斬ると煙となって消えた。この魔物は普通の武器でも倒せるみたいだ。
ここはサツキと仲間達に任せ、ムツヤはその奥にいる甲冑のような甲殻を持つ人形の魔物へ向かう。
一気に駆け寄ると一突きに魔物を串刺した。また煙になって消える。
今回は裏の道具でしか倒せない敵は居ないのかと思ったその時。
竜が現れた。
空を飛び、こちらに一直線に向かってくる。千里眼で見ていた兵士達も叫びだす。
「竜です!! 翼竜が現れました!!」
「翼竜だと!?」
兵士は翼竜だと言っていたが、ムツヤ達が倒したことがあるそれとは違っていた。
竜は火を吐き、ムツヤの千里眼で見ると、背中に人影が見える。
「何アレ!!」
魔物と戦っていたルーも思わず遠くの空を見上げた。
「りゅ、竜ですか!?」
「何故ここに!!」
ユモトとモモも動揺する。3分ほどで竜は上空を旋回するまで近付いて、地面へと着地した。
既にサツキとカミクガは竜の元へ駆け寄っており、剣を構えている。
ムツヤが飛び出して、竜の足元を斬りつけた。が、剣は分厚い表皮に弾かれる。
肉は裂けなかったが、ムツヤの馬鹿力で叩かれた衝撃は凄まじいものだったらしく、竜は咆哮を上げて暴れ始めた。
「ムツヤさん、ここは私達に任せて下さい」
サツキは前に躍り出てムツヤへと言う。
「わがりまじだ!!」
ムツヤはまた別の攻撃の効かない魔物を探すためにその場を引いた。
サツキは無数の風の刃を作り出して翼竜にぶつけた。生まれる風圧で竜の皮膚にピッピッと切れ目が入る。
翼竜の背に乗る魔物らしき者は手綱を引いて、空中へと退避させた。
そこでカミクガが飛び上がり、翼竜の腹に魔剣を突き刺す。
表皮には軽く傷を負わせる事しか出来なかったが、雷が翼竜を焦がした。
その雷は翼竜の体表を走り、背中に乗る魔物を感電させる。魔物は滑り落ちて地面に激突し、煙となって消えた。
コントロールを失った翼竜はサツキ達に向かって火の玉を連続して吐くが、風の刃とぶつかると相殺され、憎き敵に届くことは叶わない。
着地すると、僅かながらに地面が揺れるのを感じた。風の刃を飛ばすだけでは埒が明かないと思ったサツキはカミクガに命令をする。
それを聞き終えると、カミクガは一直線に翼竜へと走り出した。火の玉を躱し、近付くと、今にも噛み砕こうと首を伸ばしている。
右手に構えた魔剣に最大限の魔力を込めて翼竜の足元へ投げて突き刺した。そこから溢れ出る雷が翼竜を痺れさせて動きを奪う。
サツキは双剣を構えて一気に距離を詰めて翼竜の首めがけて振り下ろす。
風の刃で抉れるように翼竜の首が弾け飛んだ。
「す、すごい……」
ユモトは戦いながら横目でその様子を見ていた。他の仲間達も同じだ。
千里眼持ちの兵士もその戦いに見とれていたが、ハッと我に返り、戦いが終わったことを報告する。
しかし、それは無駄に終わった。肉眼でも見えるその戦いに他の兵士も我を忘れ見入っていたのだ。
「これが試練の塔を突破した勇者様の力なのか……」
兵士長も思わずそうひとり言を呟いた。
その頃ムツヤはと言うと、攻撃の効かない魔物を見つけるために剣を振るっていた。
だが、どの敵も普通に倒せてしまい、ムツヤは肩透かしを食らう。
「どうだ、見つかったか?」
「見つかりません」
アシノからの連絡にムツヤは答える。
「そうか、気を抜くなよ」
「はい!」
そんな会話があった、その時だった。
魔物がどこに現れてもすぐ対応出来るよう開けっ放しだった街の城門が突如として閉められ、ムツヤ達と兵士は外に取り残される形になる。
「何事だ!!」
兵士長が叫ぶも門番からは返事がない。不審に思っていると外壁の上から人間がドサリと落ちる。
「なっ!!」
目を疑った。兵士長が見たもの、それは……。
オークとエルフだった。
何が起きているのか分からないが、怪我人が出たことだけは確かなのでクサギは落ちてきた門番達に駆け寄る。
重傷だが、幸い息はあった。杖を握って回復魔法を掛けながら、キッと外壁の上を見る。
オークとエルフはもうその場には居なかった。クサギは考える。
第一に考えられるのは、変身した魔物だろう。混乱させるために魔人の指示でこんな事を起こしたのかと。
「すぐに門を開けろ!!!」
指示通り兵士達は門を開けようとするが、固く閉ざされていた。
門の内側では何が起きているのかと言うと、オークやエルフといった亜人達が閉じた門の後ろに更に杭を打ち付けている。
異常な事態に気付いた兵士が近寄って止めようとした。
「おい、何をやっているんだ!!!」
走り寄る兵士にエルフは矢を放つ。肩を射抜かれ、その場にうずくまってしまった。
「異常事態だ!! 市民の一部の様子がおかしい!!」
「魔物のせいかもしれん。命を奪わぬよう制圧せよ!!!」
王都内の兵士を率いる男はそう命令を下したが、武器と殺意を持った者相手にそれは難しい事だ。
生け捕りは殺すことよりも数倍難しい。
だが、兵士が集まったことにより、門の前からは亜人達が消え去った。
急いで杭を抜こうとする兵士達だったが、遠くから矢の雨が降り注ぐ。
兵士達は非現実のように矢の雨がスローモーションに見えた。