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王都の皆には内緒だよ! 2

「このパーティでキエーウを壊滅させたなんて…… 信じられません!!」


 立ち上がり、サツキは言う。それを見てアシノは唐突にこう返した。


「そこまで信じられないなら、お前ムツヤと軽く戦ってみろ」


「アシノ殿!?」


 モモは思わずそう言ってしまった。ムツヤ殿とはいえ相手は勇者だ、何かあってはまずい。


「お前が勝ったら…… そうだな、まぁお前の言い分を何でも聞いてやるよ」


 その言葉を聞いてサツキはアシノの方を振り返った。


 サツキの顔を見て思わずアシノはギョッとする。顔を赤くしてよだれを垂らしていたのだ。


「あ、アシノ先輩…… 私が勝ったら何でも言うこと聞いてくれるって今言いましたよね?」


「いや、お前の言い分を聞くとは言ったが……」


「言質取りましたよ!? 勇者に二言はありませんよね!? ムツヤさん、覚悟して下さい!!」


 ハァハァと興奮しながらサツキは双剣を構える。アシノは身の危険を感じてムツヤに言った。


「ムツヤ!! 本気でかかれ!! 私がヤバい!!」


「は、はい!!」


 軽く勝負をさせるつもりが、思ったより面倒な事態になってしまいアシノはため息を漏らす。


 両者は武器を構えて向かい合った。


「はーい、それじゃ見合って見合ってー? はっけよーいのこった!」


 ルーが言うと同時に2人は剣をぶつけ合った。キィィンと金属音が鳴り響く。


 サツキは右手左手と交互に剣で斬って突いてを繰り返すが、ムツヤにのらりくらりと躱されてしまう。


 そのスピードは段々と上がっていき、目で追えない速さになる。


「マジかよ、あんなの避けるなんて……」


「これは本当に青い鎧の冒険者かもしれませんねぇ……」


 信じていなかった訳ではないが、目の前の攻防を見てクサギもカミクガも信じざるを得なくなる。


「やりますね、でもこれならっ!!」


 サツキは刃に風を纏わせた。これで刃が触れなくても、体をかすっただけで切り傷ができる。


 流石にムツヤも後ろに大きく引いて、手から業火を打ち出した。


「なっ、詠唱無しであの大きさ!? マジパネェ!!」


 だが、サツキも勇者。剣を振り回して風を起こし、その業火を吹き飛ばした。


 ムツヤは風を受けながら、魔剣に炎を纏わせて突進する。


 サツキは双剣を交差させてそれを受けるが、あまりの衝撃に弾き飛ばされた。


 ここからはムツヤが一転攻勢になり、魔剣を振るい続けた。サツキは一振り一振りを剣で受け止めるが、その剣も熱を帯びてきた。


 熱と衝撃に耐えきれずバキンと音がして剣が折れる。


「ふふふ、少し加減をしていましたが。その必要は」


 サツキは剣を捨てて両手を天に掲げた。


「無いようですね!!」


 その両手は何かを掴んだかのように握りしめられていたが、モモ達は何が起きたのか分からなかった。


 アシノとムツヤ、そしてサツキのパーティだけが何が起きているのか理解できた。


「サツキ!! いくら何でもそれは……」


 クサギが言うが、もはや止められない。


「いきます!!」


 その長い髪をなびかせて、サツキはムツヤに向かって飛び上がる。


 ムツヤはサツキの手に握られている何かを見切って避ける。


 先程まで居た地面には大きな穴が空いていた。


「ほう、これが見えますか」


 サツキが手にしているのは風の刃だ。魔法で手から超高速の風を吹き出している。


 この刃は翼竜の首も軽く落とせてしまう。


 更に、動きも先程と比べてより早くなっていた。足からも風を噴出させて機動力を高めているのだ。


「ちょっ、サツキ!! マジでその人死んじゃうから!!」


 サツキも殺すつもりは無かった。すんでの所で止めるつもりだったが、次の一振りにムツヤは。


 なんとこちらに猛スピードで走ってきた。


 まずい、止めきれない。そうサツキが思った時だった。手の風の刃が止まる。


「なっ!!」


 ムツヤは片手で出した防御壁で風の刃を受け止めていた。


 詠唱も無しに、しかもたった片手で止められてしまったサツキは混乱をする。


「そこまでだ、それ以上は殺し合いになっちまう」


 アシノが止めて手合わせは終わった。


「それで、ソイツの反則みたいな強さは分かったな」


「……、分かりました」


 不服そうだがサツキは返事をした。


「それで、何でこんなに強い人を隠してたんですか? アシノ様」


 不思議そうにクサギが聞くとアシノは答える。


「あぁ、この国の戦争の道具にされない為だ。ムツヤ自身も、裏の道具も」


 それを聞いてサツキ達は納得がいった。今この国と隣国は緊張状態にある。


「裏の道具って、そんなに凄いものなのですか?」


「そうだな…… 私達は一時期キエーウに何個か裏の道具を奪われたのだが」


「それ、メチャヤバじゃないっすか!?」


 驚いたクサギにアシノは頷く。


「とんでもない武器に道具。例えば世界中の亜人を滅ぼす毒を撒き散らす『災厄の壺』もあったな」


「おとぎ話だと思っていましたが、実在したんですか!?」


 話のスケールが大きすぎてサツキ達はいまいちピンと来ていなかった。


「ともかくだ、ムツヤの持つ裏の道具は使い方によっては世界を何回も滅ぼすかもしれん」


「そんな危険なものが……」


 サツキが神妙な顔をしているところにアシノは話しかける。


「で、だ…… お前達にも裏の道具を使ってもらう」


 それを聞いて数秒間沈黙が流れたが、いやいやいやとクサギが喋り始めた。


「そんな危険なもん私達が使って大丈夫なんすか!?」


「昨日の襲撃で攻撃が通じないコウモリのバケモンがいただろ? ソイツ等に何故か知らないが裏の道具は効いたんだ」


「つまり、そういう魔物を倒すためにですかぁ?」


「その通りだ」

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