ムツヤは魔剣『ムゲンジゴク』を携えて天高く飛び上がった。そのまま魔物の群れの中へ落ちていき、地面に剣を突き刺す。
周辺に業火が巻き上がり、敵を瞬時に溶かす。敵がムツヤを囲むが、回転しながら次々に切り裂いていった。
「出ましたねぇ、青い鎧の冒険者」
クスッとカミクガは笑って。直線上の敵を切り裂きながらムツヤの元に近付く。
それはルー達にとって予想外の行動だった。適当に暴れさせて離脱させようとしていたが、このままではまずい。
逃げろと言いたいが、この数相手にムツヤ無しでは厳しい。
ルーは精霊を召喚しながら次の策を考える。
「ルー殿! このままでは……」
「分かってるわ、だけど今は目の前の敵に集中して! 大丈夫、ムツヤっちなら何とかしてくれるわ」
カミクガは敵を切り裂いて、ついに青い鎧が少し見える場所までやってきた。
ナイフに雷を込めて刀身を長くし、一気に目の前の敵を片付ける。するとはっきり目視が出来た。
「見付けましたよぉ、青い鎧の冒険者さん」
だが、敵は止まってくれない。カミクガの後ろから魔物が襲いかかる。
それを後ろ足で蹴り上げて消し炭にすると、青い鎧の冒険者と背中合わせになる。
「お話は後で聞かせてもらいますのでぇ、今は一緒に戦いましょ」
ムツヤとカミクガは互いに目の前の敵を一掃していく。
業火を上げて、電気を散らして、圧倒的な戦力だった。
「負けてらんないわね」
ルーは精霊を召喚してくさび形に並ばせる。その後ろにモモが居て、精霊が討ち漏らした敵を切り捨てる。
更に後方からはユモトの支援攻撃。ヨーリィは遊撃隊として接近戦や遠距離攻撃で数を減らす。
しばらくすると周辺の魔物は殆ど殲滅し終わり、ルーが連絡石に向かって話しかけた。
「ムツヤっち、逃げて!!」
兜の中に忍ばせた連絡石からその言葉が聞こえると、ムツヤは明後日の方向に走り出した。
「待ってくださーい、私とお話しましょう……よっ」
そのムツヤを捕えるためにカミクガも走り出した。ムツヤの速度にピッタリとくっついている。
ムツヤの走り方は砂埃を上げて力強い、彼女のそれは静かに迫る閃光だ。
「悪いようにはしませんよぉ、勇者サツキが話があるってだけですぅ」
ムツヤは更に加速する。だがカミクガもそれに合わせて加速した。
目にも留まらぬ鬼ごっこをルー達は見守ることしか出来なかった。
一方でアシノとサツキはというと、門の前に兵士と共に並び、魔物を待ち構えていた。
「カミクガから連絡がありました。魔物の群れと遭遇したようです」
「そうか」
アシノは偽装されているワインボトルに手を掛けながら言った。
それからしばらくして、サツキの元にまた連絡が来る。
「!! 青い鎧の冒険者が出たそうです! ただいまカミクガが追跡しています」
「わかった」
動揺を悟られないようアシノは返事をする。それと同時に千里眼を使う兵士が声を上げた。
「敵襲!!」
「やはり、遠くの敵は揺動でしたか」
「そうみたいだな」
サツキは長剣と短剣を引き抜いて戦闘の用意をした。
「弓兵構えー!!!」
目視できる距離まで近付くと兵隊長が号令を掛けた。ジリジリと魔物との距離が近付く。
「放てぇー!!!」
ビュンビュンと飛ぶ矢が魔物たちを消し飛ばしていく。だが、数が多く、こちらへと向かってくるモノも多く居た。
「私が行きます、皆さん続いて下さい!!!」
サツキが風の様に飛び出して言った。その後を兵士達が雄叫びを上げて続いていく。白兵戦の始まりだ。
サツキは舞うように双剣で魔物の群れを散らしていく。
後ろでは兵士達が剣や槍で魔物に応戦していた。
アシノは何も出来ない自分がもどかしく思えたが、仕方がない。
その最中、空を飛ぶ魔物が召喚された。大きなコウモリのようなそれは王都を目指して飛んでくる。
「まずい、王都に……」
サツキはひとり言を言うが、目の前の敵達も無視は出来ない。
「弓兵構え、1匹も逃すな!! 放て!!!」
兵隊長の号令と共に矢が放たれるが、それらはコウモリをすり抜けて明後日の方向へと飛んでいく。
「なっ!!!」
兵たちに動揺が広がる。その中の1匹が急降下し、1人の兵を鋭い爪で切り裂いた。
断末魔を上げる間もなく兵は絶命する。その様子を見て更に動揺は広がる。
「アシノ様、マジやばくないっすか!?」
サツキの仲間である聖女クサギが言う。アシノは考えていた。物理攻撃が効かない相手には魔法攻撃がセオリーだ。
その事は兵隊長も知っていたので、魔法兵に号令を掛けた。
「怯むな、魔法兵!! 攻撃だ!!」
地上から炎や雷が打ち上がる。それらは確実にコウモリを捉えていた。
しかし、また、すり抜けた。
別のコウモリがアシノとクサギの元へやってくる。
「くっ、この!!」
クサギが防御壁を貼ると、それにコウモリは激突して怯んだ。アシノはやけくそ気味にワインボトルのフタをパァンと飛ばす。
その瞬間、コウモリの体に穴が空いた。そして煙となって消える。
「アシノ様!?」
クサギだけでなく、他の兵士達もアシノを見た。当の本人はポカーンとした表情で突っ立ている。
「流石アシノ様!! 他の奴らも頼みますよ!!」
「お、おう」
ワインボトルのフタを飛ばす練習だけはずっとしていた。自分でも半信半疑ながら空を飛ぶコウモリに次々に飛ばす。
命中すると同時にコウモリは消えていく。何だかわからんが聞いているのでヨシとするしかない。
「防御壁を展開しろ!! アシノ様の援護をするんだ!!!」
絶望的な状況から一変して兵士達の士気が上がる。アシノは考えていた、何故自分の攻撃だけ通るのかと。
だが、今は目の前の状況をどうにかすることが先決だ。両手にワインボトルを構えてアシノは上空に撃ち続けた。
防御壁に次々と突撃してくるコウモリにアシノは狙いを定めてワインボトルのフタをパァンと飛ばし続けた。
やはり、次々にコウモリは消し飛んでいく。やがて、あらかたコウモリは始末できたが、上空を飛んで何匹か王都の中へと入ってしまった。
「私は街に飛んでいった奴らを倒します。ここは任せました!!」
アシノはそう言って王都の中へ入る。避難勧告のおかげか、いつもは賑わう王都に誰一人として外を歩くものは居なかった。
自分自身をエサにして、襲いかかるコウモリにカウンターでビンのフタをパァンと飛ばす。
その様子を住人達は窓から見ていた。
小さいフタは目に見えなかったため、まるでアシノが未知の魔法でコウモリを倒しているように見えた。
アシノは空を見上げてコウモリを追い続ける。
(なんでコイツが効くのかわからんが、今はこれで倒すしか無いな)
頭の中で何故自分の攻撃だけが通用するのかを考えたが、答えが出ない以上、今は戦うしか無い。