「おーい、ソイツは私達のツレなんだ。手を出さないでやってくれ」
「アシノさん!」
救いの手がやってきてユモトはホッと胸を撫で下ろす。
「おねーさんも可愛いね、どう? 僕らと一緒に」
優男はそんな事を言っていたが、筋肉モリモリマッチョマンの鬼のミシマはその名を聞いてハッとする。
「アシノ、赤髪…… いや、まさかな……」
「そのまさかなんですよ、お兄さん」
いつの間にか3人の後ろに回り込んだルーがそう声を出した。
「うわっ、ビックリした!!」
ミシマの弟分はそう言うも、次の瞬間にはルーの胸元に視線が向かう。
「勇者アシノはキエーウを壊滅させたって聞いたぞ!? 今頃その後始末でもしてるんじゃねーのか?」
「キエーウを倒したから羽根を伸ばしに海まで来たのよ!!」
ルーはえっへんと腰に手を当てて胸を張る。
アシノは噂がもうこんな所まで広まっていることに少し驚いた。
「アシノの事を知っていて、その体付きは冒険者ね!?」
「あぁ、そうだ。まさか勇者アシノのパーティだとは知らず、悪かった」
ミシマがそう言ってすごすごと引き返そうとするが、その3人組にルーは待ったをかける。
「ちょい待ち、ウチのユモトちゃんに手を出しておいてそのまま帰れると思ってるの!?」
「いやー、すいませんでした」
優男はにこにこ笑いながら頭を下げた。
「ここで会ったが百年目!! 勝負よ!!」
「え、俺たち初対面なんすけど……」
弟分が言うのもお構いなしにルーは3人組を指さす。
「勝負って言われても、勇者アシノ相手に勝てるわけが……」
「大丈夫!! 海らしい勝負をするから!! 勝ったら好きな子が遊んであげるわ!!」
「勝手に決めてんじゃねぇ!!」
アシノがルーの頭を引っ叩く。「モジャッ」と言って沈んでいった。
「第1回!! チキチキ海辺のビーチフラッグ選手権!!」
ルーがテンション高めに声を上げる。何だ何だと見物人もチラホラと集まっていた。
「ルールは簡単!! ここから走って先にある旗を取った人の勝利です!! あ、魔法の強化は禁止ね!」
「なるほど、確かに簡単だ」
優男は頷いて言う。勇者アシノのパーティでもこれならばまだ勝算はある。
「ウチからはモモちゃんが行くわ!!」
「へぇ、あのオークの美人さんか…… ならばこっちは僕が行くよ」
そう優男は名乗りを上げた。
「え、わ、私ですか!?」
突然ゲームに参加させられたモモは少し驚くが、それを受け入れる。
「まぁ、分かりました。正々堂々勝負だ」
「はいはい、それじゃ位置についてー」
ルーが言うと、優男とモモの2人は並んで構えた。
「よーい、ドン!」
勢いよく両者走り出す。
「おーっと、ナンパ男くんが少しリードか!? その後ろからモモちゃんが追い上げる!! 勝利の女神はどちらにチュウをするのか!?」
勝手にルーが実況を入れだした。その通り優男が少し先を走っている。
「モモちゃーん、このままだと1日デートよー!!」
そうだ、脳裏にムツヤの顔が浮かぶ。
仲間のためにも、自分のためにも負けられない!!
そんな事を思われていたムツヤだったが、当の本人は男達とプルンプルーン揺れるモモの胸を見てのんきに鼻を伸ばしていた。
「最後の直線に入ったー!! 旗を制するのはナンパ男くんか!? モモちゃんか!?」
旗が射程圏内に入る。両者勢いよく飛び込んだ。そして旗を掴んだのは……
「モモちゃんだー!!!」
モモが天高く旗を掲げる。1回戦目を制したのはモモだった。
「お次はー? スイカ割り対決ー!!」
いつの間にかルーは大きなスイカを2つ用意していた。
「ルールは知っての通り、目隠ししてグルグル回った後、スイカを先に割った方の勝ちでーす」
「なるほど、分かりやすい。ここは俺に行かせて下さい!!」
ミシマの弟分の男が今度は挑戦するみたいだ。
「それじゃこっちはユモトちゃん」
ルーが言うとユモトは驚きの声を上げる。
「え、僕もやるんですか!?」
「当たり前よねぇ」
こちらは勝手にユモトが参戦することになった。
挑戦する2人は、スイカから少し離れた場所に立ち、目隠しをされる。
「よーし、よーいスタート!! それじゃ棒を置いてグルグル10回まわってー!!」
言われるがままにグルグルと回った。ユモトは5回まわったぐらいでフラフラになる。
ミシマの弟分が先に回り終わり、ヨロヨロと歩き出した。
「もっと前だ、そして右!!」
早速、ミシマ達が支持を出し始めた。遅れてユモトもスタートする。
「ユモト、頑張れ!!」
「ユモトちゃーん、もっと前に行って左よー!!」
飛び交うモモの声援とスイカの場所のヒント。
「え、え、どこですかー」
「ちょい右、そして上!!!」
「上ってなんですか!?」
棒を振り上げたままユモトはあっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。
その周りをルーがギャーギャー騒ぎながら歩いていた。
その瞬間、ユモトは足がふらついて倒れそうになってしまう。
ぽよよんと柔らかい感触がする。
「やーん、ユモトちゃんのエッチー!!」
ユモトはルーの別のスイカに思い切り顔を押し付けていた。