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とりあえず、海へ行こう! 1

 ルーが散々駄々をこねたのでギルスはコーヒーを1杯入れてやる。


 喫茶店で働いたことは無いが、店に来る客に出していたので中々の腕前だ。


「最初からこうしとけば良かったのよ」


「礼も言えんのかお前は」


 コーヒーにミルクと砂糖をアホほど入れてルーは飲み始める。


「それで、あんたはこれからどうするの?」


「どうするも何も、俺は死んだことになってるし、裏の道具の研究が出来ればそれで良い」


「まぁ、それで良いって言うんなら良いんだけどねー」


 ふーんとルーは興味なさそうにコーヒーをすすっていた。


「それにキエーウの残党がまだ裏の道具を持っているかもしれないだろ? その監視もな」


「そうよねー、私もそれが気がかりなの」


 はぁっとルーはため息をつく。


「一応、戦闘に特化した道具は、この前の戦いで全部使ってきたと思うんだけど、まだ裏の道具は謎が多いからねー」


「とりあえず、お前達にはまた冒険がてら探知盤の石を埋めていってもらう」


 ギルスが言うと、ルーはふと気付いたことを口にする。


「そう言えば警邏けいらの姿が見えないけど」


「魔人の調査と、キエーウが消えたことによって亜人の過激派が活発にならないか監視だってよ」


「みんなどうして仲良くなれないのかしらねー」


「まったくだな」


 よっと椅子から立ち上がり、ルーは決めポーズをしてからギルスに言う。


「海に行ったらお土産ぐらい持ってくるわよ! イモガイとかスベスベマンジュウガニとか!!」


「毒じゃねーか!!!」


 それぞれが思い思いの日を過ごし、翌日冒険者ギルドに集まる。


 勇者アシノのパーティという事もあり、やたら注目されてしまい、ユモトは身を縮こませていたが、アシノは堂々としていた。


「それじゃ、行くか」


「はい!」


 ここから東に約100キロ、馬車で4日ぐらいの場所に海はある。道中は念の為に探知盤の石を埋めながらの旅だ。


 早速馬車を走らせて、街道沿いの街を目指す。ムツヤはすっかり気分が上がっていた。


 海までは道が出来ていて、街もあるので野宿はせずに済みそうだ。


 そして、道中何事もなく、4日目の朝、景色を眺めるムツヤが大声を上げる。


「あれって! あれって海なんじゃないですか!?」


 遠くに見える一面の青、ムツヤの言う通り海だ。


「うわー、僕も海って始めて見ました」 


「私も、初めて見ますね、あれ全部水なんですか」


 落ち着いて言っていたが、ユモトもモモも内心ではテンションが上がっていた。


「あらー、良かったわねー。お昼は皆で泳ぎましょうか?」


 ルーが提案するとユモトは少し暗い顔をする。


「あの、僕泳いだこと無くて……」


「私は川で泳いだことならありますが、あんなに大きな水で大丈夫なのかとちょっと怖いですね」


「大丈夫大丈夫、どうにかなるって!」


 ルーがそう励ますと、一行は海目掛けて馬車を走らせた。


 近付くにつれて香る磯の匂いと、ザザーンと聞こえる波の音。


 憧れの海の見える街へやって来た。


 馬車を預けて街の中へ入る。そこは、スーナの街とは違った活気があった。


「すっげー!!! 魚がたくさん!! それに海が見える!!」


 道沿いの店を見るとムツヤは子供のようにはしゃぐ。


「ひとまず宿を取るぞ」


 アシノはそんなムツヤを尻目に冷静だ。


 海は何度も見てきた。今更珍しいものでもない。


 奮発して海の近くの大きな宿屋を目指す。世界を救ったとも言えるムツヤへ、アシノからのささやかな褒美のつもりだ。


「立派な宿ですね」


 ユモトは思わず口にした。モモも頷く。外装だけでなく、内装も立派で、アシノは男女別に大部屋を2つ取った。


 宿の前には海が広がり、大勢の人が海水浴を楽しんでいる。


 備え付けの更衣室があり、そこで着替えて海までいけるらしい。


「さっそく恒例のカバンの中身チェックー!!!」


 部屋の中でルーがそう言いながらムツヤのカバンに手を突っ込んだ。


「水着でろ水着でろ、出たー!!!」


 ポンとビキニの水着が出てきた。


「お前、こういうのも拾ってたのか!?」


「はい、塔で見付けたものは全部拾ってまじだ!!」


 スケベ根性は無いのだろうと分かってはいたが、アシノもモモも複雑な気分である。


「あ、そうだ。男子は部屋から出ていってー。後でのお・た・の・し・み♡」


 残った女性陣はルーが次々と出した水着の中から自分に会うサイズの水着を選んで更衣室へ向かった。


「おっまたせー!」


 更衣室から出てきたルーはシンプルな黒のビキニ姿だった。不健康的な白い肌とのコントラストが映えている。


「やっぱ水着って言ったらこれでしょー!!」


 前かがみで胸を寄せると、それに合わせてムツヤの鼻の下も伸びた。


「ったく、そんな派手なの着やがって」


 アシノはと言うと、上はワインレッドでクロスデザインの水着を着ており、下は水色の短いキュロットのような感じで、いつもの服装と少し似ている。


「あ、あの、私には似合わないんじゃ……」


 そう言っておずおずと出てきたモモはピンクのワンピース型の水着を着ていた。


「可愛いですよ、モモさん」


「あっ、えっ、ありがとうございます……」


 ムツヤの言葉にモモは顔を赤くして礼を言う。


 その後ろからヨーリィが出てきた。


 紺色の全身を覆う水着で胸の部分には白い横長の長方形があり、ヨーリィと名前が書かれている。


 無表情のヨーリィの代わりにルーが騒ぐ。


「似合ってるでしょ!? しかも白い部分は着ると名前が浮かび上がるみたいなの!!」


「へぇー、ヨーリィも似合ってるよ」


「それで、ムツヤっちとユモトちゃんの水着なんだけど」


 ルーが言うと全員が目をそらした。何だかユモトは嫌な予感がした。


「はい、ムツヤっちはこれ」


 ムツヤに手渡されたのは、なんてこと無い普通の青い海パンだった。


「はい、ユモトちゃんはこれ」


 ユモトに手渡されたのは、なんてこと無い普通の水色オフショルダーのビキニだった。


「って、ちょっと待って下さい!!」

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