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これからのこと

「記憶よ離散しろ」


「これでひとまず全部か…… 長かったな」


 ムツヤがキエーウのメンバーの記憶を消し飛ばしていると、すっかり夜が明けて朝になる。


「後は治安維持部隊に連絡を入れて、こいつ達を引き取って貰うだけだ」


「本当に終わったんですね……」


 モモは安堵して言う、本当に長い一夜だった。


「いや、逃げた奴らが復讐しにくるかもしれん。まだキエーウとの戦いは完全に終わったわけじゃない」


 アシノが言うと皆、気を引き締め直したが。


「だが、とりあえず一段落って所だな。皆よくやった」


 続けて言ってニッと笑った。皆もアハハと笑う。そして荷馬車に乗って近くの治安維持部隊の屯所を目指す。


「なぁ、ムツヤ。お前はこれからどうするんだ?」


 アシノが聞くとムツヤはうーんと考える。


「そうでずね、冒険がしたいです!! こっちの世界の見ていない場所を見て、色んな物を知って!!」


「そうか」


 そう言ってフッとアシノは笑う。


「私も、もしよろしければこれからもお供させて下さい」


「いいんでずかモモさん!? よろしぐおねがいじまず!!」


「あの、僕も良いですか?」


「ユモトさんまで!! ありがとうございまず!!」


 ムツヤはモモとユモトに礼を言った。ルーはうーんと何かを考えている。


「私も着いていきたいけどー、ギルドの意向次第かしら。それに裏の道具の研究もあるしー」


「そうでずか……」


 ムツヤは少し残念そうだった。まぁこれからの事は兎にも角にも一度スーナの街へ帰ってからだ。


 近くの治安維持部隊の駐屯所へ行くとアシノが「私に任せろ」と言って昨夜起きたことを虚偽を混ぜながら報告する。


 その間、ムツヤ達は別室に通されて休んでいた。駐屯所の隊員は忙しい日が始まることだろう。


 大規模な部隊が出立するのを見送り、ひとまずエルフの村へと戻ることにした。


 エルフの村ではムツヤ達を見かけると、村総出でささやかながら凱旋を祝福してくれた。


「アシノ様、キエーウはどうなったのですか?」


 エルフの村長が尋ねるとアシノは答える。


「えぇ、リーダーのダクフは死にました。それに幹部やメンバーも多く拘束したので、今頃は治安維持部隊が逮捕している頃でしょう」


「流石勇者アシノ様だ!!!」


 皆が勇者アシノを讃えているが、その勇者は浮かない顔をしていた。


 宿屋に着くと、皆それぞれ荷物を置いてから、音の妨害魔法を張って話をする。


「キエーウと決着もついたってのに浮かない顔してるわねアシノ」


「あぁ、これはムツヤの手柄だ。本来ならムツヤが称賛されるべきなのにな」


 アシノが言うとムツヤは首を横に振った。


「元はと言えば俺のせいでこんな事になって、アシノさんは手伝ってくれました!」


「そうよー、それに災厄の壺を壊したのはアシノなんだから、アシノが世界を救ったってのもあながち間違いじゃないわ」


 アシノは「そうか」と言って顔を左下に向ける。


「そんな事よりお風呂入って疲れを癒やしましょう!!! お風呂よお風呂!! そして寝る!!!」


「そうですね、もう疲れました」


 ハハッとモモは苦笑いをして言う。


 皆は風呂に入り、食事をし、思いっきり寝た。


 そんな中、ムツヤは1人眠れずにいた。隣で手を繋いでいるヨーリィがそれに気付いて言葉をかける。


「お兄ちゃん、眠れないの?」


「いや、まぁね」


 ムツヤにしては難しそうな顔をしているので悩み事らしい。


「その、皆がいる前では言えなかったけど。俺はこの世界に居て良いのかなって」


「どういう事?」


「俺が居なければキエーウとの争いで傷付いたり…… その、…… 死んだりした人も居なかったんじゃないかって」


「それはお兄ちゃんの責任じゃない」


「そうですよムツヤさん!!」


 いきなりユモトが体を起こして言ったのでムツヤはビクッと驚く。


「あ、いえ、あの、盗み聞きするつもりは無かったんですけど……」


 ユモトは毛布を持ってもじもじとしている。


「前にもお話しましたが、僕がこうして生きているのはムツヤさんのおかげなんです!! ムツヤさんはキエーウも倒して、沢山の人を救いました!!」


「ユモトさん……」


「そう、お兄ちゃんは、たくさん助けてる」


 ムツヤは何だか恥ずかしくなって毛布に顔を突っ込んだ。


「これからはムツヤさんの冒険を始めましょう?」


「そう……ですね。そうですね。ありがとうございますユモトさん、ヨーリィも!」


 朝になり、エルフの村を出発する準備ができる。


 ムツヤ達はもう一度リースの墓の前へ来ていた。


「リース、終わったぞ……」


 モモは目を閉じながら言う。キエーウとの戦いが終わったことを報告すると、馬車に乗る。


 村人たちは馬車が見えなくなるまで手を振って送り出してくれた。

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