「やめろ!!!」
ムツヤは怒りに任せて男を殴り飛ばそうとするが、別の亜人達がその間に入って互いに剣と斧を構えた。
「勇者様の言う通りにするか? それともカバンをこっちによこすか?」
ハッと笑って男は続けて言う。
「お前はこの亜人達を見捨てるか?」
「ムツヤ!! 行け!!」
アシノが叫ぶが、ムツヤはそのまま立ち尽くしていた。
「できません……」
「何を言ってんだ!! どの道このままじゃ亜人は死ぬんだぞ!!!」
「それでも、それでも目の前の人達を見捨てることなんてできません!!」
「ならばそのまま大人しくしておくんだな」
1人の亜人をムツヤの元へと向かわせてカバンを回収しようとする。その一瞬のスキを待っていたのだ。
音もなくヨーリィが飛び出し、男の首に木の杭を投げた。それは深々と刺さり、ムツヤは思わず目を背けた。
「が、がぼぼぼぼぼ」
あふれる血で断末魔がかき消される。亜人達は拘束が解けたようで地面に倒れ込んだ。
ムツヤは斬りあった亜人達に回復薬を掛けた後、男の元まで走り、杖を奪い、拘束魔法を掛けて。
回復薬を振りかけた。
「ばや、びゃんびやん!!!」
男は血を吐いた後奇声を上げて傷が治る。
「甘いんだな、君は」
男はハハハハと笑って言う。ムツヤの後ろからはアシノ達が近づいてきた。
「コイツの注意をこっちに向ける為に一芝居うったんだ。お前なら目の前の亜人を見捨てるような事はしないと思ってな」
そう言った後に「すまなかったな」とアシノはムツヤに詫びた。
「そうだったんですか……」
ムツヤはホッとして言う。そんな中、男が一言言葉を放った。
「いいさ、俺の役目は…… 時間を少しだけ稼ぐことだからな」
「どういう事だ?」
アシノが言うと同時に強い魔力をムツヤとユモト、ルーは感じ取った。
「何か来るわ!!!」
小屋の窓がギィっと開いて中から青い光がムツヤ目掛けて一直線に伸びる。流石のムツヤも光の速度は避けることが出来ない。
「ぐあああああああ!!!」
「ムツヤ殿!!」
「ムツヤさん!!」
光を浴びたムツヤは地面に片膝を付いた。
そして、小屋から周りの森から、ぞろぞろと人が出てくる。
「はじめまして、ムツヤくん。私がキエーウのリーダー、ダクフだ」
細身の男が話しながら小屋から出てきた。そして片手に持つものを見てムツヤは驚く。
「お前、それは……」
「あぁ、これは2つしか無くてね。1個は下等な亜人に使ってしまったよ。無駄遣いだったかな」
「ムツヤ、あの道具が分かるのか?」
アシノが聞くとムツヤは頷いて答える。
「アレは…… 魔物の能力を奪う道具です!!」
「能力を奪う……?」
ダクフが会話に割って入ってきた。
「へぇ、そんな道具だったんだ。亜人に使ったら死んじゃったから殺す道具かと思ってたよ」
クスクス笑いながら言うダクフにムツヤ達は怒りを覚える。
「あの道具と同じものは無いのか? 能力とやらを奪い返すことが出来るかもしれない」
「ありますけど…… 発動に1時間はかかりまず…… でも奪った能力は時間が経てば戻ります!! 魔物の場合はですけど……」
アシノは今までにない危機感を感じていた。こちらの切り札であるムツヤが能力を奪われたと言っている。どこまで何を奪われたのかは未知数だが。
「やれ」
ダクフが言うとキエーウのメンバーがこちらへ飛びかかってきた。
ムツヤは応戦しようとするが、いつもの様なメチャクチャな動きができず、まるで体に数百キロの重りが付いているかの様だ。
それでも何とか応戦しているが、どう見てもムツヤの分が悪そうだった。仲間達はそれぞれ援護を始める。
「おのれぇ!!!」
モモが飛び出てムツヤと背中合わせに立つ。
「モモさん!!」
「お前達!!! そのまま下がってこい!!」
アシノはビンのフタをパァンと打ちながら言う。ルーは精霊召喚の準備をしている。次に動いたのはヨーリィとユモトだった。
「轟け、雷鳴よ!!!」
ユモトが魔法を使い、敵を3人ほど感電させて倒す。
ヨーリィはムツヤ達の周りをグルグルと周り、ナイフで敵を斬りつけ、木の杭を投げて数を減らした。
「あの死体人形を狙え!!」
ダクフが言うと弓兵と魔法使いが一斉にヨーリィを狙う。そして、1発右腕に火の魔法を貰ってしまい、枯れ葉に変わる。
いつもならすぐに再生するのだが、何故だか再生が始まらない。魔力切れだ。
「ヨーリィ!!」
「ヨーリィ引け!!!」
ヨーリィの異常に気付いたムツヤとアシノが叫ぶ。命令通りヨーリィは走ってアシノ達の後ろまでやって来た。
「はーい、ここからは私に任せて」
ルーが精霊を数十体召喚してムツヤとモモの元に向かわせる。キエーウとの乱戦状態になり、そのスキにムツヤ達もアシノの元へ引いた。
「君たちなんてね、ムツヤくんが居なければただの烏合の衆なんだよ!!!」
ダクフがこちらに向かって走りながら言う。
ムツヤは荒い息をしながら剣を構えるが、何故だか柄の部分が熱く感じる。そして手から火が生まれた。
「あっ、ムツヤ!! 魔剣を握るな!!」
言われた通り魔剣を地面に捨てるとすかさずユモトが水魔法で手の火を消した。酷い火傷だったが、回復薬を掛けたら何とか治る。
皆がムツヤの能力を奪われていることを実感する時間すら与えずに、ダクフが剣を持ってルーの元へ近づく。
「ルー!!!」
ルーは肝を冷やしながらもとっさに防御壁を張る。が、ダクフはその壁ごとルーを斬りつけた。
防御壁にヒビが入り、剣先がルーを袈裟斬りにする。
「ああああああ!!!!!!!」
ルーは叫んで地面へ倒れた。