「ムツヤ、お前はよくやった。だが、私達にはまだやるべき事がある」
アシノの言う通りだ。自分達はキエーウの本拠地へ向かい災厄の壺を叩き壊さなければならない。
「俺はっ、俺は大丈夫です!! 行きましょう!!」
モモがムツヤを放すと立ち上がり言った。仲間達はそれを見て頷く。
「ウートゴの野郎は倒したんだ。後は壺を壊すだけだな。ムツヤ、先行してくれ」
「わがりまじだ!!」
ムツヤはキエーウの本拠地へ走り出す。その後ろを馬車に乗った皆で追った。
キエーウの襲撃は無い。先程の戦いで大方倒してしまったのだろう。
今は壺を壊すことだけを頭に置いて、それ以外を考えないようにムツヤは走る。
探知盤を取り出して確認をしても、辺りに裏の道具の反応はない。
一方馬車の上でアシノは遠い目をして考え事をしている様だった。
「アシノ何考えてるの?」
「いや、あんな奴でも一応昔は仲間だったんでな」
「そう……」
「どこで道を間違えたんだろうな」
複雑な気持ちだったが、戦いに集中するために目を瞑る。
しばらく走ると探知盤の北側に赤い点が数個浮かび上がった。その場所にキエーウの本拠地はあるのだろう。
裏の道具の反応がある場所へもう少しだけ近づくと、ムツヤの千里眼が使える範囲内になった。
ムツヤは能力を使い、遠くを見る。そこには少し小さめな一軒家が建っている。
キエーウの本拠地と言うのだからもっと邪悪で巨大な建物を想像していたが、これは意外だった。
早速、連絡石を使ってアシノと会話をする。
「アシノさん、見えました。小さな家があります」
「そうか…… 恐らく治安維持部隊へのカモフラージュだろう。気を付けろよムツヤ」
「わがりまじだ!」
ムツヤは魔剣を引き抜いて、それを片手に持ったまま走り出した。
向こうも気付いたのか、フードを被った人影が大勢こちらへ向かって来るのが見える。
数分走り、そろそろかち合うかといった時に遠くから矢が飛んできた。
ムツヤは軽々とかわして反撃を入れようとする。
しかし、その瞬間、魔法を撃とうとした手を止める。
「エルフ!?」
思わずそう口に出てしまった。ムツヤを射ろうとしたのはどう見てもエルフだった。
「うがああああ!!」
剣を構えて走ってくる者達もよく見るとオークにエルフに獣人といった亜人達だ。
「なっ、どうなってんだ!?」
ムツヤは混乱していた。攻撃を避けるのは容易いが、何故自分が襲われているのかがわからない。
1人で考えていても何もわからない、ムツヤは連絡石でアシノに石で話をする。
「アシノさん!! 亜人の人達に襲われています!!」
「多分、操られてるんだろう。そうだ! あのハリセンを使え!!」
「わがりまじだ!!」
ムツヤは剣を納め、代わりに取り出したハリセンを右手に持つ。
襲いかかってきた獣人の頭をそれでスッパーンと叩くと、気を失ったのか地面に倒れる。
「いける」とムツヤは思った。このまま全ての亜人の頭を叩けば良いと。
「そこまでだ」
亜人の群れの中から人間の男が1人出てきた。
その手に握られているものにムツヤは見覚えがある。知能の高い魔物を操ることができる杖だ。
「今すぐ亜人の人達を元に戻せ!!」
「君、状況わかってる?」
男は杖を振る。すると亜人達は互いに向き合って剣や弓を構えあった。
「降参しろ、でなければ亜人達に殺し合いをさせる」
その言葉を聞いてムツヤは血の気が引いた。この状況下でどうすれば良いのか分からない。
「カバンを置いて去れ。10秒やる。10、9、8」
男はカウントダウンを始めた。ムツヤは叫ぶ。
「やめろ、やめろおおお!!!」
「1、ゼロ。時間切れだ」
ムツヤの目の前のオークと獣人の一組が互いに剣を振り下ろした。
目にも留まらぬ速さでムツヤはオークと獣人の間に入り、素手で武器を叩き壊した。
「ごめんなさい!!」
そう言ってハリセンで頭を叩くと2人は地面に倒れる。
「噂以上だ、だが次はそうはいかない。少しでも動けば全員を殺す」
ムツヤは言われて身動きが取れなくなってしまった。冷や汗が吹き出すのが自分でも分かった。
「カバンを地面に置け、このエルフに取りに行かせる。お前は1歩も動くな」
命令を無視して男を睨みつけていると杖を振りかざす。
亜人達が互いに武器を振り上げた。
「わがっだ!!!」
ムツヤが言うとそれは止まる。地面にカバンをドサッと落とすと男はニヤリと笑う。
「戦いなんてしないで始めからこうしとけば良かったんだ」
「やめろムツヤ!!!」
そんな中、ムツヤを止める声があった。アシノだ。
「そのカバンがキエーウの手に渡ったら大変なことになる!!」
「ですが、渡さないと亜人の人達が!!」
アシノは苦虫を噛み潰したような顔をして言う。
「そいつ達は…… 仕方がないんだ!!!」
「そんなっ!!」
ムツヤが言うとアシノ達は皆うつむいていた。
「災厄の壺を壊さなければ全ての亜人が死ぬ。だからっ!!!」
「はいはい、お話はそこまでだ」
男は見せしめとばかりに一組の亜人を斬りつけ合わせた。鮮血が吹き出でその2人は倒れる。