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災厄の壺 5

 ムツヤは屈んでウートゴの足元に蹴りを入れるが、それは飛び退いて躱されてしまう。


 魔剣ムゲンジゴクに魔力を込めて炎の斬撃を飛ばす。


 ウートゴはムツヤにも匹敵する速さでそれを避け、5体に分身した。


 東洋の術で全てに実体があることは、アシノに教えてもらったので知っている。それぞれがムツヤを取り囲んで手裏剣を投げた。


 ムツヤがダンっと足元を踏んで土壁を呼び出すと、ザクザクっと土壁に手裏剣が刺さる。


 この中のどれか1つが本物の裏の道具のはずだと、ムツヤは近くの1枚を手に取ろうとした瞬間。


「無駄だ」


 止まっていた手裏剣がグルグルと回り始めた、わずかだがムツヤは手のひらを切ってしまう。


 手を握りしめて回復魔法を使ったので傷はすぐ塞がったが、外の世界に出て初めてまともな『攻撃』によってムツヤは傷を負った。


 ウートゴはしばらくムツヤを眺めて、その後ケタケタと笑った。


「かすっただけで死ぬ毒を塗っておいたんだがな、なるほど、お前には効かないようだ」


 ムツヤの体は裏の道具や裏の魔物による毒以外ほぼ効くことが無い。


「諦めて降参しろ!!!」


 だが勝機はある。ウートゴはそう思った。この眼の前のガキは確かに強い、恐らくは自分よりもずっとだ。


 しかし、殺すということを未だにためらっている。ならばそこを突けばいい。


 3体の分身が背中の刀を抜いてムツヤに走り寄った。1体はそのまま真っ直ぐ来て袈裟斬りをする。


 ムツヤはそれを剣で受け止めると、空いた左手でみぞおちを殴る。体に仕込んである鉄板にあたったのでそこまで手応えは無い。


 まだ、残る2体が両側からやってくる。いったんムツヤは剣をしまって集中した。


 両腕をそのまま斬りかかる分身へと横に伸ばす。すると、ムツヤの手から衝撃波が出て分身を吹き飛ばした。


 遠くから手裏剣とクナイが飛んでくる。ムツヤは飛び退き、地面を転がり、逆立ちのようになり、片手だけの力で空へ跳んだ。


 ウートゴはしめたと思い空中で身動きが取れないムツヤの軌道を読んで手裏剣を投げた。


 しかし、それはムツヤの罠だった。月明かりに反射したそれを見てムツヤは空中に魔法の壁を作り、それを蹴る。


 手裏剣はムツヤを追尾するが、ウートゴの元に飛びながら剣で弾き飛ばす。


 ムツヤは片手に力を込めてウートゴを思い切り殴り飛ばそうとした。


「だからお前は甘いんだ」


 殴り飛ばしたのは分身だった、それと同時にムツヤの後ろに本体が現れ、刀をムツヤの背中に突き刺した。


 ――


 ――――


 ――――――――


 ムツヤと一緒に行動していたヨーリィは何をしていたのかと言うと、キエーウのメンバーに囲まれていた。


 ナイフと木の杭を構えて応戦の意思を示す。ヨーリィだけでない、他の仲間たちも同じ状況だ。


 アシノ達は皆行動を共にしていたが、主戦力であるはずのヨーリィとはぐれて厳しい状況である。


「こんな奴ら、私の精霊で倒してあげるわ」


 ルーが精霊を召喚してキエーウのメンバーに牽制をする。


 モモは剣と盾を構えて、ユモトも杖を強く握りしめた。


 アシノは馬車の上に乗ってビンのフタをそこら中に飛ばす。


「かかれー!!!」


 その声と同時にキエーウ側が攻め込んでくる。ルーの精霊は強く、何人かは既に動けないように痛めつけていた。


 弓兵がアシノを狙い始め、馬車から飛び降りた。


 その瞬間、膝に矢を受けてしまい、アシノはゴロンと地面に寝転んでしまう。


「っぐ、ちくしょう!」


 膝から矢を引き抜いて傷の治る薬を飲んだ。みるみる内に傷は塞がったが、無駄遣いは出来ない。


 ユモトが魔法の防御壁を張り、皆その中へと隠れた。


「え、なんか私狙われてない?」


「そりゃ召喚術師本体を狙うのは当然だろ」


 ルーがギャーギャー騒ぎながら逃げ回っていた。アシノは追いかける人間に2、3発ビンのフタを当てたが、急所でない限り敵を鎮めるのは難しい。


 モモがその中へ割って入り、剣を構えた。


 ジリジリと寄ってくる2人向かってこちらから走り始める。


 姿勢を低く飛び出して、1人を下から袈裟斬りにし、唖然としているもう1人の腹に蹴りを入れて倒す。


「バインド!!!」


 すかさずユモトが拘束魔法をして2人を縛り上げた。


(モモもユモトも確実に強くなっている。それに連携も上手い)


 アシノがそんな事を思っている間にも、敵の数は精霊の攻撃によって減っていく。ルーはこれでも上級の冒険者だったのだ。


「ギャー!!! 死ぬうううう!!!」


 騒いでうるさい事以外はだが……


「あらぁん、やだわん、こんなになっちゃって」


 聞き覚えのあるオカマの声を聞いてアシノはそちらに目線を向ける。


「お前はキエーウのオカマ!!!」


「失礼しちゃうわ!! ウトナちゃんよ!!」


 挨拶代わりに精神を混乱させる杖からビームを発射させ、アシノ達はそれぞれ隠れてやり過ごした。


「このっ」


 岩陰に隠れながらモモはウトナに向かって石を投げる。


「あいたっ、何すんのよこのメス豚!!!」


 命中するとウトナは怒り出す。今がチャンスとユモトは電撃魔法を放った。


「無駄よっ!!」


 軽々と防御壁で弾くとユモトに向かって杖を振り、慌ててユモトは木の後ろへと隠れる。


「はぁーあ、今回の作戦は私やる気ないのに嫌んなっちゃうわ」


「どういう事だ!?」


 アシノが聞くとため息まじりにウトナは答えた。


「だって、私の目的は可愛い亜人ちゃんを集めてハーレムを作ることよん。その亜人ちゃんを滅ぼすなんて本当は嫌よ」


「だったら、お前は何故戦うんだ!!」


「それがね、本部のこわ~い人達の命令なのよん、ホント嫌になっちゃうわ」


 ウトナはくねくねしながら言う。これほどの実力者を無理やり従わせる本部とは何なのだとアシノは考える。


「あらやだ、喋りすぎちゃったわ。そろそろ仕留めてあ・げ・る♡ 食らいなさいプリティビーム」


「無駄」


 そう一言だけ言って皆の前に飛び出た人影がある。ヨーリィだ。


「ヨーリィ、無事だったのか!!」


 モモは安堵して言う、それにコクリと1つうなずいて木の杭とナイフを構える。


「やだもー、枯れ葉のお嬢ちゃんじゃない」


 ヨーリィにはあの光線が効かない。ウトナは右手を前に出して炎の魔法を放つ。


 軽々とそれらを避けるヨーリィ。元いた場所には燃え盛る火が広がった。

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