目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

災厄の壺 2

 魔法の障壁を貫通してやってくるナイフ達をムツヤは避けて、もう一度障壁を壊そうと一撃を入れる。


 だが、またそれは弾かれてしまう。


 その時ふと、ムツヤは思い出した。田舎を守る結界に似ていると。


「オラァ!! 逃げろ逃げろ!!」


 何十本と自分を狙って飛んでくるナイフにムツヤは苦戦を強いられた。


 あの障壁をなんとしても突破しなければならない。障壁は段々とドーム状に広がり、少年とナイフ投げの男を完全に包んだ。


 それならば下からだとムツヤは地面を足で強く踏んで土を岩に換えて突き刺す魔法を使った。


 ちょうど男の真下に発動させたが、何かに当たって岩が突き出ることが出来ない。地面にも障壁が張られているのだろう。


 次の手を考える、1つだけ強い攻撃方法があったが、移動しながらでは使えない。立ち止まって魔力と気を貯める必要があるのだ。


 しかし、ナイフの雨がそれを許さない。飛んで転がり走り、かわすしかない。


 ムツヤもやむを得ず似たような魔法の障壁を張った。これでナイフは完全に防げるが、代わりに動くことが出来ない。


 向こうの魔力切れを狙うかと考えていたが、援軍がやってきてしまった。またムツヤは障壁を消して応戦をする。


 ナイフを避けながら蹴って殴って人数を減らす。今までムツヤは人を殺すことが怖くて本気を出せずに手こずっていたが、今は違う。


 完全に本気なのに苦戦をしていた。それほどまでに裏の道具はかけ合わせ次第で凶悪になるのだ。


 またムツヤ相手にナイフが飛んで、魔法の障壁を張ろうかと思った次の瞬間。


「させません!!」


 別の人間が障壁を張った。それは見覚えのある後ろ姿、ユモトだった。


「ユモトさん!!」


 ムツヤは魔法の障壁で無数のナイフを受け止めるユモトに向かって叫んだ。


「ムツヤ殿、ご無事ですか!?」


 武器を構えた他の仲間達も後ろに待機している。


「ムツヤ、私達はどうすればいい!?」


 アシノが言うとムツヤは一瞬で考えた。普段はアホだが戦いに関しては経験の違いから頭の回転が早い。


「皆さんは隠れていて下さい。ユモトさんあと30秒だけ耐えて下さい!!」


「わ……かりました……」


 障壁を張るユモトは苦しそうだったが、その後ろでムツヤは呪文を唱えながら気を貯めている。


 相手もムツヤが何かをする気だと察し、攻撃の手を更に強めた。


「これならどうだ!!」


 ナイフ投げの男は腕をメチャクチャに振り回してユモトの障壁をぶち壊そうとしている。


「ユモトちゃん、修行の成果が出ているわね」


 そうだ、ユモトは修行中雨のように降り注ぐ矢を受け止め続けたのだ。


 あと15秒、もしユモトが倒れてしまった時に備えてルーが待機をしていた。


 障壁の色が少し薄くなり始めた、もう限界かと思われたが。


「はああああああああああ!!!!!」


 ユモトは持ち直した、そしてあと5秒。


 4、3、2、1、ムツヤが赤いオーラを纏いながら敵めがけて一直線に放たれた。 



 ムツヤはナイフよりも早く敵の障壁までたどり着き、拳を叩き込んだ。


 すると、そこを中心にヒビが入り、障壁は粉々に砕け散った。


「コイツ、マジか」


 言い終わる前にナイフ投げの男へ蹴りが炸裂し、男は吹き飛んで動かなくなった。


 障壁を張る少年は、それが砕けるとともに地面に倒れる。


 膨大な魔力を使ったからか、虫の息だった。


「ユモト、動けるか?」


「はい、何とか……」


 ムツヤは少年とナイフ投げの男から裏の道具を回収した。男は骨がそこら中折れていたがまだ命はある。


「ムツヤ!! 次の敵を頼む、私達も後から追いつく!!」


「はい、わがりまじだ!!」


「ムツヤ殿ご武運を……」


 モモの言葉に頷くとまた森の中へと走り出した。


「!! 私の残した精霊がやられたわ」


「ムツヤと一緒に敵を倒し続けるしかないわけか……」


 キエーウの残党は誰も動かなかった、ユモトが疲れている今、無理に拘束の魔法も必要ないだろう。


 アシノ達はまた馬車に乗りムツヤの後を追いかける。


 ムツヤが走る先には、またキエーウの連中がいた。剣を抜いて応戦をする。


 1人あたり3秒もかからず次々にムツヤは敵を倒す。だがそこに、鎖とトゲ付きの鉄球が飛んできた。


 ムツヤはこの攻撃を知っている。バッとその飛んできた方向を見ると本を開いた女が1人。


 モモの持つ無力化の盾と同じものを構えて鉄球に備える。


 飛んでくる鉄球を受け止めようとした瞬間、それは急上昇し、螺旋を描きながら落ちてきた。


「ぐっ」


 その軌道はムツヤの動体視力を持っても受け止めるので精一杯だ。体に直撃はしなかったが、危ない所だった。


 あの鉄球使いの女は前に会った時よりも確実に成長をしている。一気に距離を縮めるのは危険だ。


 ムツヤがどうしようかと考えている所にアシノ達が到着をした。


 モモを見るなり、鉄球使いの女は激昂する。


「醜い豚め、また会ったな。今度こそ殺してやる!!」


 挑発に乗らずに冷静にモモは言葉を返す。その間も女は鉄球を生き物のように目の前でブンブンと振り回している。


「何故お前はそこまでオークを憎む」


「ハッ、他のキエーウのメンバーと同じよ、私の家族は醜い豚の盗賊団に殺されたわ!!」


 その生い立ちを聞いてモモの頭にリースの姿が思い浮かんだ。


 オークは人間からの差別が未だに酷く、盗賊や強盗といった犯罪に走る者も少なくない。


「それは本当に気の毒だと思うし、申し訳ないと思う。だが亜人を皆殺しにするのは間違っている!!」


「黙れ!! お前達は皆殺しだ!!」


 そう言って女は鉄球をモモの元まで飛ばす。隙きができたとムツヤは女に飛びかかろうとするが、なんと鉄球がもう1つ飛び出してきた。


 モモもムツヤも無力化の盾でそれを受け止めた、早く倒さなければキエーウに取り囲まれてしまう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?