朝になり皆がガヤガヤと降りてきた、ここに来てとある問題が起きる。
勇者のパーティの訓練ということで段々と見学者が出てきてしまったのだ。
確かに、娯楽のあまり無いゆったりとしたエルフの村で、勇者が戦いの指導をしていると聞いたら野次馬も出てくるのが普通だ。
本当ならムツヤ1人に仮想敵をやってもらいたい所だったが、ムツヤの強さが目立ってしまう。
ヨーリィが木の杭を作り出して投げる事は、まだ魔法と言い張れ無いこともなかった。
だが、体が枯れ葉に変わってしまうのはまずい。
そこでアシノはこの状況を逆手に取ることにした。
手の空いているエルフに弓矢を使った攻撃や、魔法の遠距離攻撃をして貰うことにしたのだ。
もちろん、矢には先端に布を巻いて怪我をしないようにしてあるが、気を抜いたら危険な訓練だった。
近接戦闘は精霊を敵として、その奥にエルフ達が居た。
「皆さん、ご協力感謝します」
「いえいえ、どうせ暇ですし」
「勇者様達の訓練に参加できるなんて光栄です!!」
「ありがとうございます、それでは遠慮なくやってしまって下さい」
アシノの合図と共に矢が放たれ、同時にユモトが魔法の防御壁を張る。
散らばる精霊をモモが斬った。それを補助するように防御壁を貼りながらユモトは動く。
ヨーリィは木の杭を投げて3体まとめて倒すと、ナイフを構えて後ろから近寄る1体を斬り捨てる。
「あの小さい子、あの年で相当強いな、さすが勇者様のパーティだ」
勇者というのは便利なものだなとアシノは思う。ルーも攻撃を受ける側で戦闘に参加していた。
伊達にギルドの幹部をやっているわけではなく、防御壁を貼りながら自身の精霊を魔法の雷で粉々に砕いていく。
そんな訓練を朝から夕方までやった。皆ヘトヘトになって宿屋へ戻る。
そして、とある問題がもう1つ起きていた。エルフの若い衆と冒険者が飲み屋で話をしている。
「さて、第2回勇者様パーティーの推しを語る回を始めたいと思います」
湧き上がる拍手。そう、ファンが出来てしまっていたのだ。
「はい、やっぱり小さい背丈と大きな胸がギャップのルーさんが最強だと思います!」
エルフが手を上げて高らかに宣言する。
「お前、本当ロリ巨乳好きだよな」
「いやいや、あの身長であの胸は反則だろ!! しかも子供っぽい性格がまた良い!!」
頷く者たちがチラホラと居た。そこでまた別の冒険者が話し始める。
「やっぱり僕は、王道を往くモモさんだな。礼儀正しく、強く、美しく、健康的な体!! 冒険者の鑑だろう」
「それは一理ある」
またウンウンと男たちは頷く。
「俺はアシノ様だな、勇者だってのに偉そうにしないし、たまに笑う時があるんだけどそれが可愛いんだ」
「なにそれ俺も見たい!!!」
羨ましがる声が上がった。そこでまた手が上がる。
「ヨーリィちゃんも良くない? 何か不思議な感じとお人形さんみたいな完成された可愛さが!!」
「わかる」
っとそこで、酒を飲んでいたエルフがふと声を出した。
「おいおいおい、お前らユモトさんの事を忘れてねーか?」
そこでどよめきが起きる。
「お前知らねーのか? ユモトさんは男だぞ!?」
「男だったら何か問題でもあるのかよ!?」
それは…… と言い掛けて声が止まってしまった。
「可愛いけど男、男だけど可愛い、その脳を混乱させる所が良いんじゃねえか」
「そりゃあ、分からないことも無いけどよ……」
確かにユモトは可愛い。
奥ゆかしいし、顔も可愛いし、いい匂いもする。
「愛があれば種族も性別も関係ない、そうじゃねーのかよ!!」
そう熱く語るエルフ。それを聞いて男たちは感動で涙を流していた。
「そうだ、大事なのは愛だ、俺達が間違っていたよ……」
「分かれば良いんだ……」
その話題の勇者アシノ達は羽根を伸ばそうとして飲み屋の外に居たが。
「今日ここに入るのはやめておこう」
「え、えぇそうね、他のお店にしましょう!!」
先頭で騒ぎを聞いていたアシノとルーはそう提案をする。それをユモトは不思議そうに首を傾げて聞いていた。
もう1軒ある飲み屋へとやってきたムツヤ達は、早速飲み物を頼んで乾杯をした。
「っくー、久しぶりのお酒は身に染みるわぁー」
ルーは目をギュッとつむって酒を味わっている。
「そういや、お前達と初めて会ったのってギルドで酒飲んでる時だったよな」
アシノは思い出して言う。「そう言えばそうでしたね」とユモトは会話に乗った。
「あの時はうるさい新人をマジでシバいてやろうかと思ってたな」
そう言ってアシノはハハハと笑う。
「あの時のアシノは相当荒れてたからねー」
ルーが酒をまたゴクゴクと飲みながら言った。
「まぁ、自分でも今思い返せば恥ずかしい話だ」
「仕方がありませんよ、事情が事情でしたし……」
モモはアシノにフォローを入れておく。そこでふと、ムツヤは気になっていた事を言う。
「アシノさんとルーさんって、昔から一緒に冒険をしてたんですか?」
その質問にアシノは首を横に振って答える。
「違うな、コイツとはただの腐れ縁だ」
「そうなのよねー、勇者パーティには私よりもっと戦い専門の魔術師や召喚術師がいたし」
「へぇー、そうなんですね」
ユモトは意外だなーと思いながらそう口にした。
「魔人の討伐のために組まれたから、仲が良いとか悪いとかを抜きにして、純粋に強い奴らの寄せ集めになるんだ」
「なるほど」
モモは納得して言うが、ムツヤは疑問を持ったみたいだ。
「でも、仲良くない人達と冒険して楽しいんですか?」
「魔人は人類と亜人の敵だからな、討伐に楽しいも何も無いぞ」
そういう物なのかとムツヤは思った。そこですかさずルーが質問をぶつける。
「じゃあじゃあ、今は楽しいの?」
アシノは思わず酒を吹き出しそうになった。
「こんなに仲が良い私達と冒険をしているんだもの、楽しいでしょ?」
「お前な、私が同行しているのはキエーウの件があるからで」
「ムツヤっち!! アシノは私達と仲良くないんだって!!」
「そうだったんですか!?」
ムツヤはショックを受けたようでシュンとしてしまう。
「いや、その、仲が悪いとは思っていないというか」
あたふたとアシノは誤解を解こうとした。そんなアシノをニヤニヤしてルーは眺めている。
「いやん、アシノったらツ・ン・デ・レへぷち!!」
言い終わる前に頭を引っ叩かれてルーは奇声を上げた。それを見てユモトとモモは笑っている。