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40日間 2

「さてと、キエーウの本拠地が分かった所だが……」


 アシノはそこまで言ってチラリとユモトとモモを見る。


「今度は最終決戦だ。戦いの方法は2つある」


 皆がアシノの話を真剣に聞いていた。それを分かった上でアシノは話す。


「まず1つ目、有志の冒険者と治安維持部隊を集めて総攻撃をかける。これはまぁ両陣営、死人が結構出るだろうな。それに裏の道具のことが公になる」


 死人と聞いてムツヤはゴクリと生唾を飲んだ。


「2つ目、私達だけで奇襲をかける。ムツヤを行かせれば向かうところ敵なしだ」


「アシノさん、俺が戦います!」


 思わずムツヤはそう言ったが、まぁ待てとアシノは話を続ける。


「その場合、ユモトとモモは冒険者ギルドで戦いが終わるまで保護を要請する」


「待って下さいアシノ殿!! 私では力不足なのは承知です! ですがっ!!」


「モモ、そしてユモト。前にも言ったが、お前達はその年にしては充分強い部類だ。技も心もな」


「だったら」とモモが言いかけたがアシノは目でそれを抑え込んだ。


「今回は事情が違う、ムツヤの弱点は私達なんだ。私達が人質に取られればムツヤはあっさり降伏するだろう」


 アシノの言う通りだ。ムツヤは仲間を盾にされたら何も出来なくなるだろう。


「もし着いてくると言うのならば…… 全員に条件がある」


「条件…… ですか?」


 モモが言うとアシノは頷いた。


「私達の誰かが人質に取られたとしても、ムツヤは助けに来ない。敵の条件を飲まないという事だ」


 それを聞いて部屋は静寂が支配する。その重い空気の中でモモは発言をした。


「私は構いません、覚悟しています。元より戦わねば亜人の未来に関わることです」


「そうか、他はどうだ?」


「まー、ここまで来ちゃったらギルドの幹部としても行くしか無いわよね」


 ルーがそう言ってウィンクをする。


「私はどの道お兄ちゃんから離れられない」


 ヨーリィは相変わらずの無表情のまま言った。そして残るはユモト。


「ユモト、無理をしなくて良いんだ。ムツヤと旅がしたいならこの一件が終わってからでも良いだろう?」


 アシノは優しくユモトに語りかけた。


「僕は、僕は……」


 ユモトは思う。強大な敵と戦う恐怖と足手まといになってしまう情けなさ。






「僕も、僕も行きます!!!」


 しっかりとアシノを見つめてユモトも決意をした。ふっとアシノは笑う。


「決まりだな、何も私達だけでキエーウ全員を倒そうってわけじゃない。ムツヤにひと暴れして貰っている間に、自分の身を自分達で守れれば良いだけだ」


 アシノは立ち上がってモモとユモトに言う。


「まぁ、そうと決まれば修行だ。残り39日、余裕を持って行くとして32日としよう。その間厳しい修行をさせて貰う」


「はい!」


 2人は元気よく返事をした。もう戦いへの覚悟は決めている。


 エルフの村へしばらく滞在させてもらうことを村長と宿屋の主に報告すると、快く受け入れてくれた。


 早速アシノとルーの指導の元で特訓が始まる。


「まずは自分自身が強くなることが第一だ。その後に仲間同士での連携を取る練習をする」


「はい!」


「基礎体力づくりと言ったら相場は決まっている」


 皆は動きやすい格好に着替えて村外れに集合していた。


「走るぞ!」


「ちょ、ちょーっと待ったアシノ! なんで私まで走るの!?」


 ルーはここまで着いてきて待ったをかける。


「ルー、お前も研究だーって言って運動不足だろう?」


「いや、確かにそうかもしれないけど!」


「研究はギルスに任せておけ、苦楽は共にしよう。私達、仲間だろう?」


 アシノが笑顔で言うとルーはガタガタと震えていた。


 走り込みをすると、案の定最初に音を上げたのはルーだ。


「もうらめぇ…… 死んじゃう……」


「お前なぁ……、最近まで寝たきりだったユモトでさえまだ頑張ってるんだぞ!」


 ユモトも苦しかったがハァハァ言いながら走っている。


「だって疲れるし胸も痛いんだもん、アシノと違って大きいんだもん!! 邪魔なのよ!!」


 瞬間、アシノの何かが切れる音がした気がして、皆はピューッと走って逃げていった。


「え、アシノ? ちょっ、ワインボトルは駄目、ワインボトルは駄目だって!! ちょっと皆!? ヘルプミー!!!」






「ずびまぜんでじだ!!」


 泣きながらルーはアシノに謝っていた。その間も皆は走り続ける。


 ムツヤは汗の1つも流さずに先頭を走り、次にヨーリィも表情1つ変えずに走っていた。


 この2人は走り込みをする意味があるのかと疑問に思うモモとユモトだったが、それぞれ精一杯ムツヤに着いて行く。


 モモは体力があるので余裕があったが、ユモトは遅れ気味だった。その後を涙と鼻水を垂らしながらルーが走っている。


「よーし、走り込みはここまで」


 そろそろ良いだろうという頃合いでアシノが号令をかける。


 助かったーとルーは倒れ込んでハァハァ言っていた。


「次は武器の素振りだ」


 それを聞いてまた絶望した表情になるルー。プルプル震える足で逃げようとするがアシノに襟首を掴まれてしまう。


「私は召喚術師だから!! 素振りとか無いから!!」


「敵が接近してきたとっさの時に必要だろう? 師匠から習わなかったのか?」


 アシノの笑顔にひいぃと悲鳴を上げる。


 魔術師や召喚術師は敵に接近された場合、杖か短剣を取り出して、牽制をし距離を取るのが相場だ。


 それぞれ剣や短剣、杖を持って素振りをする。ムツヤはニッコニコの笑顔でルーは死にそうな顔で。


「なーんでムツヤっちそんな楽しそうなのよー」


 息を上げながらルーはムツヤに尋ねてみる。


「何か仲間と一緒に修行って嬉しくて!」


「えぇー……」


 モモは真剣に素振りをしていた。もっと強くならねばとブンブン剣を振っている。


「モモ、一生懸命なのは良いが、型がズレている。まずは型通りに出来るようになることを目標にするんだ」


「申し訳ないアシノ殿」


 本来ならば杖の格闘をルーがユモトに教えるべきなのだろうが、肝心のルーはひぃひぃ言っている。

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