「それじゃあ行ってきます」
「えぇ、どうかご武運を」
ムツヤはモモの言葉を聞き終えると風のように森を駆け抜けていく。
「私達も布陣するぞ」
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ムツヤは千里眼を使い、周りの状況を確認しながら森の中を南に向けて走り続けていた。
ふと気配を察知して足を止める。凄まじいスピードだったので、足元からは土煙が上がった。
探知盤を取り出すとやっぱりだ、点が3つこちらへと向かってきていた。裏の道具持ちを仲間の元へ通すわけにはいかない。
点の方へと走り出し、しばらくすると、接敵するかといった頃合いになる。
瞬間、小さい何かが大量にこちらへ向かってきた。
小さい球体状で短い手足のようなものが生えている。とっさにムツヤは雷の魔法でそれらを迎撃した。
しかし、それらは黒焦げになることもなくムツヤの元へ集まりだし、まとわり付く。
魔物ではない。人工的に召喚された何かだと思い魔剣ムゲンジゴクを取り出して豪火とともに切り裂いた。
すると今度は小さい何かが消え去るが、次々とやってきてはムツヤに体当たりをし、まとわり付きキリがない。
ムツヤは足で魔法を一気に発動させた。
ムツヤを中心に火柱が上がり、辺り一帯を燃やし尽くす。
終わったかと思ったが、まだだった。小さい何かはまだまだ現れてムツヤへと向かってくる。
1つ気づいた事があった。この小さい何かがムツヤに触れると僅かながら魔力を奪われる。そしてその魔力で分裂をしていた。
無限とも言える魔力を持つムツヤにとって、この小さい何かはまさに天敵である。
ムツヤが珍しく小さい何かに苦戦している頃、それを見つめる3人の影があった。
「ウートゴ様の言ったとおりね。この精霊はアホのムツヤに効くわ」
1人は小さい何かを召喚している女の召喚術師だ。やはりこれらは、ムツヤの予想通り人工的に召喚された精霊だった。
ダメ押しとばかりに女召喚術師は左手に裏の道具の杖を持ち、右手には砂粒を持って詠唱を始める。
すると、右手の砂粒が小さい精霊となってムツヤの元へ飛んでいった。
「次は俺の番だ」
キエーウの男がそう言うとムツヤの足元から触手が出てムツヤの足元を捉えようとする。
だが、飛び跳ねられてそれは躱されてしまう。
「おいおい、しっかりやれよー? トドメは一度きりなんだからな」
裏の道具は一通り使ったことのあるムツヤだが、使い道や使い方が分からないものは多くあった。
今回、ムツヤが手こずっている小さい精霊を召喚する杖もそれだ。
本来ならば砂で強力な精霊を召喚できるはずの杖だったが、使用者の技術が無いために小さい精霊しか召喚が出来ていない。
しかし、物とは使いようで、今回は逆にそれがムツヤへの有効打となっている。
ムツヤ1人であれば一生かかっても思いつかなかったかもしれない使い方だった。キエーウも着実に裏の道具の研究を進めているらしい。
さて、そんな事を知らないムツヤはとりあえず剣と手から火を出し続けて精霊を駆逐していく。
塔での戦いばかりで、初歩的な精霊の召喚解除魔法を知らないことが仇となった。
着地し、足で魔法出そうにも触手が邪魔をしてくる。捕まった後引きちぎれればいいが、正体不明の敵と戦うのにムツヤは警戒をしていた。
そう、ムツヤの未知なる敵への警戒心の強さも今回は足を引っ張っている。
この触手は仮に捕まったとしてもマヨイギと戦ったときのように、ムツヤの脚力なら余裕で逃げられるのだが……。
しかし、敵もムツヤをまだまだ甘く見ていたようだ。
人間離れした速さで飛び回り豪火を辺りに散らすムツヤを見て「本当に勝てるのか?」といった不安が少しずつ生まれる。
「くそっ、なんて奴なの!!」
女召喚術師は次々と砂粒を依代に精霊を呼び続けた。流石に仮面越しの額に汗もかいてくる。
「クソックソッ、止まりやがれ!!」
触手でムツヤを捉えようとする男も苦戦をしていた。
「やっぱ、一筋縄じゃいかねぇってワケか……」
ムツヤに何らかの方法でトドメを刺そうとしている半円状の刀を持つ男は、しびれを切らし初めていたが、どうすることも出来ないでいた。
そんな何もかもが異次元で無茶苦茶な戦いが5分ほど続いた時、やっと進展があった。ムツヤが地面に着地し、何故か動かなくなったのだ。
「しめたっ!!」
そのスキを逃さずに、触手でムツヤの足、そして次に手を拘束する。ムツヤは抵抗の1つもしない。
「よっしゃ、後はあいつの首を吹き飛ばすだけだ!!」
ずっと長い刀を握りタイミングを図っていた男は一気に魔力を込めてムツヤ目掛けて弾けるように飛んだ。その姿は青い閃光に見える。
この刀は魔力を込めると、雷が走りありとあらゆる障害物を破壊しながら使用者と共に一直線に飛んでいく裏の道具だ。
ただ、例によって熟練の戦士であるこの男でさえ魔力不足かつ、完璧に使いこなせてはいないので、使用は1度きりだ。2度目は無い。
木をなぎ倒しながらムツヤに近付く閃光。
ムツヤはそれを知ってか知らずか触手に縛られ、小さい精霊が全身にまとわり付いて小さい山のようになっている。
「死ねぇ!! 亜人の味方が!!!」