「あらーセンチメンタルじゃない? センチメンタル小室マイケル坂本勇者アシノって感じ?」
「わけがわからん……」
目覚ましの魔法で時間ぴったりに起きたルーにアシノはからかわれた、ユモトも家のドアを開けて出てくる。
「ふあーあ、おはようございますアシノさん」
「はいはい、おはよう。まだまだ深夜だけどな」
ダルそうにアシノは言う。昼間寝ていたとはいえ流石に眠くなってきた。
「任せたぞ」と言って家の中にアシノは消えていき、静寂の星の下にはルーとユモトだけだ。
焚き火を二人で囲むとおしゃべり好きなルーは早速話を始める。
「何か私も久しぶりにこーんな遠くまで来ちゃったけど、ユモトちゃんはどう?」
「僕はこんな遠くまで来たのは始めてです」
「そっかー」
ルーはたまに見せる優しいお姉さんの表情をしていた。
「ユモトちゃん、覚悟って出来てる?」
そして不意にそんな事を言われ、少しユモトは戸惑った。
だが、焚き火を見つめてしっかりと答える。
「なるべくなら敵も…… 殺したくはありません。ですが皆さんを守るため、キエーウの暴走を止めるためだったら……」
「そっか」
少し思い出してしまう。氷で敵を貫いて絶命させた時の事を。
「僕はムツヤさんに恩があります、それに仲間の皆にも。だから僕はその為に戦うんです」
「1つ聞いて良いかしら」
「はい」
ユモトは何を言われるんだろうとドキドキしてしまう。もしかして怒られるようなことでも言ったかなと。
「ユモトちゃんてー…… そのー、ムツヤっちの事好きなの?」
「ぶっー!!!!!」
変なことを聞かれ、思わずユモトは吹き出してしまった。
「あら、大当たりかしら?」
「な、なにを言ってるんですか!? 僕とムツヤさんは男同士ですよ!?」
「そういう意味で聞いたわけじゃなくて、仲間としてなんだけどー? やっぱユモトちゃんムツヤっちをそういう目で……」
しまった、罠にかけられたとユモトは思う。
「ち、違います、好きじゃありません!!」
「じゃあ嫌いなの?」
ユモトを下から覗き込んでルーは尋ねる。
「い、いや、嫌いなわけないじゃないですか!! ですからその、好きとか嫌いとかじゃなくて、仲間として好きですけど、あとムツヤさんは強くて魔法も上手で尊敬してますけど」
顔を真っ赤にしてユモトはべらべらと早口で話していた。それを見て満足気にルーは笑っていた。
「わかったわかった。からかって悪かったわよ」
うぅー、と言ってユモトは下を向いている。
「でもさー、ムツヤっちって不思議よね。人を惹きつけるというか、いい人だけどおバカな所が放っておけないのかしら」
ムツヤに失礼かもしれないと思ったが、妙に的を射る発言に思わずクスクスと笑ってしまった。
「えぇ、そうですね。ムツヤさんは優しいですけど」
「おバカよね」
ルーがユモトを指差して言った。またハハハとユモトは笑う。
「さーて、交代の時間まで魔法のお勉強をしながら見張るわよー!」
「はい、今日もよろしくおねがいします!」
交代の時間の10分前、ヨーリィはバチッと目を覚ました。
「お兄ちゃん起きて」
魔力の補給のために手を繋いだまま一緒に眠っているムツヤを揺さぶって起こした。
「うーん、おはようヨーリィ」
眠そうにムツヤは起きる。テントを出るとユモトが魔法の訓練をしていた。
「そう、そこでドピュッと出す感じで!!」
「ど、ドピュッてですか!?」
相変わらずルーの教え方は直感的と言うか、下手だった。
「あ、おはようございますムツヤさん、ヨーリィちゃん!」
ムツヤを見てユモトはニコニコと笑って言う。
「交代の時間ね、もー眠すぎ、ねむたにえんだから私は寝るわよ!!」
ルーは椅子から立ち上がって家の中へと向かっていった。
「ユモトちゃんも私の部屋来て寝る?」
「な、何言ってるんですか!!」
終始ユモトはルーにからかわれていた。2人が家へ戻ると静寂が訪れる。
「皆さんを守るためにちゃんと見張らないとな、ヨーリィ」
「そうね、お兄ちゃん」
2人きりで相手が無口の場合、多くは気まずくなってしまうが、ムツヤとヨーリィの場合妙に通じ合う部分があるのかそんな事は起きないようだった。
「そうだ、ヨーリィって普段どんな事を考えてるの?」
「周囲に敵が居ないか、魔力の残量はどうか、主にその2つ」
聞きにくい事もムツヤはドンドン聞いていく。そしてヨーリィも淡々とそれに答える。
「マヨイギさんの事を考えたりはしないの?」
ヨーリィの育ての親とでも言うべきマヨイギの怪物の事を尋ねた。今度はうーんと少し考えて、言う。
「考えることはある」
「どういう事?」
「無事でいらっしゃるか、考える」
「ヨーリィにとってマヨイギさんってどんな存在なの?」
少し間が空く。
「大切な人」
その瞬間ムツヤのペンダントが紫色の光を放って、邪神サズァンとマヨイギの怪物の幻影が現れた。
「さ、サズァン様!? それにマヨイギさんも」
ムツヤは驚いて椅子から立ち上がる。マヨイギは今にも泣きそうな顔を必死に堪えていた。
「サズァン様、今、ヨーリィが…… ヨーリィが私の事を大切な人って……」
「良かったわねぇマヨイギ」
よしよしとサズァンはマヨイギの頭を撫でる。
「お久しぶりですサズァン様、マヨイギ様」
ヨーリィはと言うと特に照れるでも笑うでもなく、いつも通りの無表情で挨拶をした。
「ムツヤは私のことどう思ってるー?」
急に聞かれてムツヤは「えっ」と声を出す。
「俺も…… うーん、サズァン様は大切な人です」
そう言うとサズァンはムツヤに抱きついてヨシヨシと頭をなでた。幻影なのでもちろん感触はないが、ムツヤはデレデレした顔になる。
「うーん、良い子ねー。よく言えましたムツヤ!」
「ヨーリィ、私はいつも見守っているからな」
「はい、ありがとうございます」
ここで魔力が切れたのか、2人の幻影は消えてしまう。
マヨイギはヨーリィと離れてすっかり親ばかのようになっていた。