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リースと共に 3

 ムツヤは荷車も本から召喚し、そこには立派な荷馬車が出来た。


「何かこう、ポンポン召喚されると召喚術師の自信を失いそうね……」


 複雑な気持ちになりながらもルーは馬を撫でてみる。


「良い馬ですね、それに本当に本物みたいです」


 モモは感心して言った。


「すげぇ、こんなごどができるなんて!」


 裏の道具の真価を初めて見たリースは少し興奮気味だ。


 その後、荷馬車は馬の扱いをしたことがあるモモが運転することになった。




 荷馬車の中でムツヤ達は座ってくつろいでいた。アシノは目をつぶって寝ており、ユモトもコクリコクリと眠そうにしている。


 ムツヤとヨーリィは手を繋いで外の景色を眺め、ルーはモモの隣に座って馬の観察をしていた。


 その時リースは思う。「あれ、逃げようと思えば逃げられるんでねぇか?」と。


 今も亜人が憎くないかと言われたらそうは思えない。キエーウには裏切られて戻ることは出来ないが、どこかへ逃げることならできる。


「リース、馬車に酔ってはいないか?」


 大きめの声でモモが言うと考えを悟られたのではと、ビクッとしてリースは答えた。


「あー、あぁー、だいじょーぶだー!」


「そうかー、何かあったらいつでも言うんだぞー」


「随分モモちゃんあの子を気にかけているわね」


 モモの隣に座るルーが言うと「えぇ、まぁ」と短い返事をした。


 馬車に乗ってすっかり日も落ちてきた。途中魔物の群れに襲われもしたが、ムツヤが馬車に乗ったまま石ころをぶつけて壊滅させた。


「よし、ここをキャンプ地とするわよ!!」


 ルーが言うと皆で野営の準備に取り掛かかる。馬車に乗っていただけあり、体力は有り余っていた。


「アシノ、起きなさいアシノ!!」


 アシノはほとんど馬車を寝て過ごしていた。ルーにペチペチ頬を叩かれてやっと起きる。


「なんだ、もう着いたのか?」


「違うわよ!! キャンプの準備!!」


 ふわあっとあくびを1つしてアシノは周りを見渡した。夕焼け空がだだっ広い森を照らして不気味だけど綺麗だなと思う。


 周りに人の気配は無いので今日は便利な魔導書から家をポンと取り出してあっという間に設営は完了だ。


 それを見てリースは目を丸くしていた。


 ユモトは鼻歌交じりに料理を作る。ムツヤはユモトから馬車で教わった魔物避けの結界を試しに行った。


「えーっと、こうしてこうして……」


 次の瞬間森の中がざわめき出し、魔物が次々に奇声を上げながら逃げていった。


「あのアホ…… また何か騒ぎを起こしやがったか!?」


 アシノはワインボトルを構え、モモとヨーリィも武器を構える。リースはえ? え? とオロオロしていた。


「あー、多分ですけど、魔物避けの結界のせいだと思います」


 ユモトが言うとアシノは「あー」と言って納得する。


「で、でもごれっでおがしいでねーか!?」


「えーっと、魔物避けの結界って魔力を使って魔物で言うマーキングを行うんです。魔力が強ければ強いほどより強い魔物、より広い範囲に効くので……」


「ムツヤ殿の魔力ならありえるな……」


 そして、騒動を起こした張本人が帰って来た。


「あれ、皆さんどうじたんですか?」


「どうしたんですかじゃねぇ!! お前は手加減とか限度ってモンを覚えろ!!」


「え、あ、す、ずみまぜん!」


 思わずリースは笑ってしまう。ムツヤは今までの人生観がひっくり返るほど、とんでもない人間だ。もう笑うしか無い。


「いただきまーす」


 いつも通りユモトの美味しい手料理を堪能しながら会話をする。


「今日は流石に夜の見張りを付けるぞ、魔物の心配は無いだろうが、キエーウの夜襲が心配だ」


「それじゃあ見張りはアシノがやってよね、昼間ずっと寝てたんだから!!」


 ルーに何か言い返そうとしたが、バッチリ眠くないし、ずっと眠っていたのは事実なので何も言い返せなかった。


「ずっとという訳にはいかないが、しばらくは私がやる。その後は交代で見張るぞ、寝落ちや不測の事態に備えて私の後は2人1組だ」


 アシノが言い終えると、意外にも最初に名乗りを上げたのはヨーリィだった。


「私は魔力の維持があるからお兄ちゃんと一緒のほうが合理的」


「それもそうだな、よし、私の次はムツヤとヨーリィだ」


 それを聞いたモモが少し残念そうな顔をしたのをリースは見逃さなかった。


「私はユモトちゃんに色々教えながら起きてるわ」


「え、あっはい!!」


「何よー、私じゃ不満なの? 特別にイケないこと教えてあげようと思ったのに」


「い、イケないことって何ですか!?」


「そんじゃルーとユモト、モモとリースで決まりでいいな」


 アシノがルーをスルーしてその場を取りまとめた。構っていたらこのまま夜が明けてしまう。


「はい、私は構いません。リースはどうだ?」


「わ、わたすも別に大丈夫だけど……」


 食事の後はそれぞれ寝る準備をするだけだ、アシノは1人家の外で椅子に座っている。


 アシノは夜空を見上げて風を感じていた。全てを失ってから感情が鈍くなったと思っていたが、今は心地よさを感じている。


 思えばこの数ヶ月間とんでもない目に会い続けていた。


 あのクソ女神のせいでビンのフタをスッポーンと飛ばす能力しか使えなくなり、酒場で荒れた生活をしていた。


 そうかと思えば突然、裏世界に住む人間が現れて、魔人とではなくキエーウと戦うことになり。


 自分はムツヤの事をどう思っているのだろうか、アホだとは思うが。


 不謹慎かもしれないが、死んだように生きていた時とは違い、毎日刺激のある日々を送れている。


 冒険者になりたての頃の希望と期待に満ち溢れた感情には程遠いが。


 ムツヤに巻き込まれる形でこんな所まで来てしまったが、それが良かったのか悪かったのかはよく分からない。


 私は何がしたいのだろう。今度はそんな事を自分に問いかけてみる。


 一番したいことと言ったら能力を取り戻すことだ。


 だが、おそらくそれは出来ない。だとしたら私には何ができて何をしたいのか。


 そこまで考えてアシノは自嘲する。こんな事を考えるなんて飲みすぎたかと。


 丸く光る月に思わず手をかざしてみた。

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