「飛んで行っちゃったけど大丈夫かしら……」
あまりに急のことでアシノ達はヨーリィが飛んでいった方角を見つめることしか出来なかった。
「ヨーリィなら多分、上手いことやってくれているだろう」
念の為、防御壁を張り続けているユモトの代わりにルーが探知盤を見る。
「ヨーリィちゃんが飛んでいった方向に2つ反応が向かっていってるわ!」
「よし、私達も行くぞ!」
森の中で既に事切れている男、そのそばにはヨーリィが居た。男から裏の道具である弓矢を回収し1人で立っていた。
ヨーリィは探知盤を持っていなかったが、森の中を進む不穏な気配を察知している。
アシノ達は大きな音を聞いて立ち止まった。メキメキという大木が倒れる音だ。それが何度も聞こえてくる。
「この音は……」
モモが言うとアシノが推測を答える。
「多分だが、裏の道具を持って調子に乗ったやつが暴れてるんだろう。急ぐぞ!」
音の鳴る方へ皆走る。そして言葉を失った。
まるで大嵐でも通り過ぎたように木々がなぎ倒されている。
「ヨーリィ! 何処だ!」
アシノが大声を出すが、返事はなく。人影が1つコチラへ向かってヨロヨロと歩いてきた。
「ごめんなさい、魔力が尽きた」
ヨーリィだった。モモが走って抱きかかえるとヨーリィが表情を作っていた、今まで見たことが無いような苦しそうな顔だ。
「おいおい、イモってんじゃねーぞ!!」
ヨーリィの後ろから声が聞こえる。それと共に木がコチラに向かってメキメキと倒れてきた。
「暴れ過ぎですよ」
もう1つ声が聞こえる。最低でも2人敵がいた。アシノはユモトに命令をする。
「ユモト! あっちに向かって照明弾を打ち上げろ!」
「はい、わかりました!」
パスンパスンとユモトが照明弾を打ち上げると、その光に照らされた人影が見えた。どちらもキエーウの証である仮面を被っている。
1人は刀身が2メートルはあろうかという両手剣を持ち、もう1人は棺桶の先を尖らせた様な大きな盾を持っていた。
「やれやれ、まだこの裏の道具達の能力を理解していないというのに……」
盾を持つ男がそう言うと、剣を持った男が笑って答える。
「そうか? 俺は分かったぞ?」
そして両手剣で木を切りつけたが、刃は空を切る様にすっと通り、木は何事も無かったかのように立ち続けていた。
「切れ味がメチャクチャ良い! それだけで十分じゃねーか!」
木の切れ目より上を蹴り飛ばすとグラっと揺れて倒れる。
「面倒だな、遠距離で片付けるぞ」
アシノはパンパンとワインボトルをフタを飛ばし、ユモトとルーも遅れて魔法の氷や雷を飛ばす。
「これはさっき偶然分かったことなのですがね」
盾を持つ男は盾の先端を地面にザクッと突き刺した。すると盾が何十倍にも大きく膨張し、全ての攻撃を弾く。
「地面に突き刺すと、大きくなる。他にも何か能力はあるのかもしれませんが」
「へぇ、一筋縄では行かなそうね」
ルーは余裕そうに言ったが、内心焦っていた。何か攻撃の手立てを考えなければと。
「とにかく奴らを近付けさせない。それしか無いな」
アシノはパンパンとワインボトルのフタを飛ばしながら言った。
しかし、フタも氷や雷の魔法も全て巨大化した盾に弾かれてしまう。
「いったん打ちやめだ。剣を持つ方の男がしびれを切らして特攻してきた時を狙うぞ」
小声でアシノが言うとルーとユモトは頷いた。
「なんだぁ? 弾切れかぁ? そんじゃバッサリ切ってやるよ!」
「待て。明らかに誘いこまれているでしょう」
盾を持つ男は冷静だ。睨み合いが続くかと思われた時にヨーリィがモモに話しかける。
「モモお姉ちゃん、さっきの弓矢」
そうかとモモは気が付いた。ヨーリィが抱きかかえる弓矢に手を伸ばしてみる。触れたが特に痺れや痛みは感じない。
モモは弓の心得も多少はある。矢をつがえて弓を引き絞り、敵へと放った。ビュンと勢いよく矢は飛んで盾にカツンと当たった。
そして、弾かれると空中でピタリと止まり、また弓で射られたように盾に向かって飛んだ。
「これは…… すこしまずいですね」
カツンカツンと何度も同じ行動を繰り返しているだけだが、そのせいで盾を小さくする事が出来なくなってしまった。
「よくやった、モモ!」
「グッジョブモモちゃん!」
アシノとルーは振り返ってモモに言う。敵はと言うと猛っている。
「あーもう面倒くせぇ!! ぶった切ってやるよ!!」
そう言って剣を持つ男が盾の後ろから飛び出ると、矢はそちらに向かって飛んだ。
「くそっ!!」
男は悪態をついて、また盾の後ろへと隠れた。矢は盾に当たり、ギリギリの所で男は攻撃をかわせたようだ。
「何か策はねーのかよ!?」
剣を持つ男はイラ立って仲間に聞いた。
「今、考えているので少し待って下さい」
時間を稼げるのはアシノ達にはありがたかった。カバンを取り返したムツヤがこちらへ来てくれれば一転攻勢に出られる。
「提案が1つあります」
キエーウの2人は小声で話し合う。すると剣を持つ男はニヤリと笑った。
「それは…… 試す価値がありそうだな」
男は盾で矢の射線から身を隠しながら後ろで木を斬りまくった。メキメキと木が倒れる音が聞こえた。
「出来たぞ!」
そう叫ぶと矢が弾かれると同時に盾を小さくし、盾を持つ男は後ろへと走り出す。その先にあるのは倒れた木々だ。
矢に追いつかれる寸での所で2人は倒れた木の裏に身を隠した。すると飛んだ矢は深々と木に突き刺さる。
「ぶった斬ってやるぜ!!」
剣を持つ男は木ごと矢を真っ二つに切った。すると矢は動かなくなってしまう。
「いよっしゃ! うぜぇ矢はこれで終わりだな!」
そう言って木を飛び越えて前に躍り出た。裏の道具をいとも簡単に破壊され、ユモトは動揺する。
「精霊よ、アイツを倒しちゃいなさい!」
ルーが強めの精霊を作り、特攻させた。
「無駄無駄ァ!!!」
男はたった一振りで3体の精霊たちを消し飛ばす。
だが、その後ろから飛んでくるアシノのワインコルクが顔面に当たった。
「いってぇ!! 地味にいてぇ!!」
「油断するからですよ」
盾を持つ男はやれやれと地面に盾を突き刺して巨大化させ、仲間を守る。