「道具の試し打ちにはもってこいって所か、私達も引き返すぞ!」
アシノの号令に皆で返事をし、来た道を急いで戻る。村に戻ると当然だがエルフ達はざわついている。
「あぁ、勇者アシノ様!!」
宿屋の女将がアシノ達を見つけて言う。
「先程は本当に、本当に申し訳ありませんでした!!」
「いえ、悪いのは全てキエーウです。それより奴らが引き返してきています」
「治安維持部隊はどうなりました?」
ルーが尋ねると宿屋の娘カノイは浮かない顔をする。
「駐在の3人の方達は…… 亡くなっていました。後は応援を待つしか無いと……」
それを聞いてエルフ達はざわつく。アシノは大声で群衆に聞いた。
「相手は相当強いです。戦える覚悟のある冒険者や傭兵が居たら協力して頂きたい。もちろん報酬は払います」
それに名乗りを上げた冒険者がいた。それは見覚えのある顔だった。
「困っている人は見過ごせません!!」
正義感が強く、そしてユモトを女だと勘違いしてデートまでした男。タノベだ。
「あ、タノベさん!?」
「ユモトさん…… またお会いしましたね」
2人はちょっと気まずそうだったが。
「報酬が出る上に勇者アシノ様と共に戦ったなんて自慢できるなら俺も戦いますよ」
タノベとコンビを組んでいるフミヤもそう言って前へ出た。
他にもチラホラと冒険者やエルフの腕に自信があるものが名乗り上げてこちらの戦力は総勢20名ほどになった。
探知盤の反応がコチラに近付いて来ている。今はこの戦力で迎え撃つしか無い。
「非戦闘員の皆さんは戦いが終わるまで家に鍵を掛けて絶対に外に出ないで下さい」
アシノが指揮を取り、住民を避難させる。
「我々が前に出て迎撃をします。皆さんは取り逃してしまったキエーウの戦闘員を頼みます」
「分かりましたアシノ様!!」
裏の道具や体が枯れ葉に変わるヨーリィ等をあまり見せたくないのでアシノ達は村から少し離れた場所で迎撃をする事にした。
移動しながらルーは探知盤を眺める。
「アシノ、どうやらこっちに向かっているのは5人みたいね」
「そうか、ともかく相手が裏の道具の使い方を分かってしまう前に叩き潰すぞ」
「わかりました」
ユモトは杖をギュッと強く握って返事をする。モモも覚悟を決めた目をしている。
「そろそろかち合うわね」
ルーが言ったと同時に矢が飛んできた。
反応できたのはヨーリィとアシノだけだ。
ヨーリィはナイフで矢を弾く。その矢はくるくると周って上空へ吹き飛び。
全員が目を疑った。空中で矢は先をコチラに向けてピタリと止まり、また弓で射った様に飛んだ。
ユモトが前へ出て魔法の防御壁を準備しようとするが間に合わない。それを庇うようにヨーリィが飛び出ると、矢はヨーリィの右肩に突き刺さった。
「大丈夫か!? ヨーリィ!!」
モモは矢を受けて後ろに尻もちを着いたヨーリィに声をかける。
「大丈夫」
短くそう返したヨーリィの右肩はパラパラと枯れ葉に変わっていった。
そして、何か糸で引っ張られているかの様に矢はぐぐぐと独りでに動き出し、ヨーリィの肩から抜けた。
そのまま矢はまた何処かへ飛び去ってしまう。
「何アレ……」
アシノはすぐ皆に指示を出した。
「ユモト!! 照明弾頼む! ルー!! ボーッとしてないで皆で背中合わせになって矢を迎え撃つぞ!!」
「!! あぁ、そうね」
しばらくその場は静寂が支配し、木々の葉が風でこすれる音だけがしていた。
そんな中突然ビュンと音がしてユモトの張った防御壁にカァンと矢が当たる。弾かれた矢はまた空中で矢先をコチラに向け直して飛ぶ。
ルーの精霊が射抜かれてしまい、そのまま地面に突き刺さった矢はまた飛び去っていった。
「私の仮説だけど、あの矢って敵に突き刺さるまで何度でも向かってくるって感じ?」
「あぁ、私も同じことを思った」
「そうと決まればたくさん精霊を召喚して的を増やすしか無いかしら」
魔力や体力は温存しておきたいが、そうも言っていられない状況だ。
ルーは詠唱を始めた。そこに待ったをかけたのは。
「待って、ルーお姉ちゃん。私に考えがある」
意外にもヨーリィだった。
アシノ達から離れた場所に、不思議な矢を打つ弓の使い手が居た。だが、男には弓矢の心得が無い。代わりに千里眼が得意な、主に偵察部隊の人間だった。
「いやー、面白いなこの矢はよー」
男は鼻歌交じりに言った。放った矢は少女を射抜いた後に背中の矢筒にストンと戻る。
「正直、ボロっちい弓と1本だけの矢なんて渡された時は期待はずれだったが」
矢を背中から取り出して弓につがえて、弦を引き絞る。
「適当に打っときゃ当たるんだもんな」
ビュンと放たれた矢はまた森の奥へと消え、木々を避けてアシノ達を襲う。その様子を男は千里眼で見ていた。
次は精霊を射抜き、また戻る。
「これがありゃ俺に敵はねーな、ハハハ」
シュパッと矢を射つ、次は誰に当たるか。出来ればオークか勇者アシノを倒して手柄を手に入れたい所だが。
命中したのは矢の気配を察知して、前に出た少女の左太ももだった。
話には聞いていた体が枯れ葉に変わる少女だ。
「盾になろうってのか、健気だねー」
矢はまた独りでに動いて抜ける。そして誤算。
少女が矢を右手でがっしりと掴んでいた。戻ってくる矢と共に無表情の少女は空を飛びコチラへ向かってきた。
「ちょ、ちょっと待て、そんなのアリかよ!?」
千里眼で見ていた男はパニックになり、思わず反対方向に走り出した。
もう少し冷静さを持って弓と矢筒を捨てるという選択肢を選んでいれば長生きできたのかもしれないが。
「うわああああああ!!! こっちに来るなああああ!!!!!!」
文字通り矢のような速さで少女が飛んでくる。左手にナイフを構えて。どれだけ走ろうが無駄だった。
矢筒へ矢が戻ると同時に少女は左手のナイフで男の首を切りつける。
声にならない悲鳴を上げて男は必死に切り口を抑えていたが、動脈を切られているので出血が酷い。もう助からないだろう。
失血のショックで気を失った男の弓矢を少女は回収した。