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カバン奪還作戦 2

「おっと今度こそ、ここは通さないぜ!」


 アシノ達の前に仮面を付けた男が立ちはだかる。男が『祭』と書かれたうちわを1振りすると突風が吹いた。


「なんだか知らないけど、ただ強い風を出せるだけかしら?」


 ルーがそう言って挑発すると男も負けじと言い返す。


「それじゃただ強い風をもっと食らってみるか?」


 男がうちわで扇ぎまくると風が吹き荒れる。その風に混じって砂粒、石や小枝がこちらに飛んでくる。


 石がユモトの頬をかすめて出血した。アシノはユモトに命令をする。


「ユモト、防御魔法を頼む!」


「はい!」


 ユモトは魔法の防御壁を張ってその後ろに皆は隠れた。


「いやぁ、裏の道具は楽しいなぁ。勇者アシノが手も足も出ないなんてな」


 アシノは隠れながらビンのフタを打ち、ヨーリィも木の杭を投げた。しかしそれらは風で吹き飛ばされて敵の元まで届かない。


「くそっ、何なんだあのうちわは」


「防御魔法も…… かなり厳しいです」


 負担が高いのかユモトは苦しそうな顔をしている。ルーは精霊を召喚して男に向かわせた。


「私があの男を邪魔するからユモトちゃん辛いかも知れないけど前に進んでいって!」


「わかりました!」


 男はパタパタと余裕そうな表情でうちわを扇ぎ風を出している。モモは何とかして自分も役に立てないかと考えていた。


 モモは防御壁から飛び出し、木の裏に隠れて男の様子を見た。すると若干だが疲れが見えた気がする。


 裏の道具は威力も高いが、その代償として魔力や体力を大きく使う事を思い出した。耐え続ければいずれ男の体力は尽きるだろう。


 しかし、それではムツヤの援護に行くことが出来ない。ムツヤは強いが万が一ということもある。


 ユモトは少しずつ前へにじり寄り、ルーは精霊を出して何度も男に突貫させていた。


 そこでモモは気付いたことがある。おそらく男の意識から自分は完全に消えていることに。


 気配を消して木々の後ろを気付かれないように動いた。そして男の斜め後ろを取る。このまま一気に距離を詰めて剣で斬れば倒せるだろう。


 だが、こんな状況なのにモモの手はガタガタと震えていた。相手は憎いキエーウの一員だったが、自分に人を殺めることができるのだろうかと。


 ふとムツヤに自分が言った言葉を思い出した。『仲間を守るためでしたら私は敵を斬ります』と。


 フーっと息を吐いて、吸い直し。モモは一気に飛び出た。


 モモは剣を右斜め上に構えたまま、静かに、速く、駆け抜けた。


 仮面がコチラを向くと同時にモモは思い切り剣を振り下ろす。


 男は断末魔を上げるまもなく真っ二つになった。上半身がズルリと落ちて下半身がパタリと倒れる。


 モモは返り血を浴びてハァハァと荒い息をしていた。


 いつか人を斬る日が来ると思っていたが、さっきまでの食事を楽しみ風呂に入り、安らいでいた時間がはるか昔の事のように思えた。


「よくやった、モモ」


 アシノはワインボトルを収めて言う。ルーが男の握る裏の道具を回収する。


「モモさん…… 助かりました」


 ユモトは目の前の死体に少し吐き気を覚えながらも気丈に振る舞っていた。


「ルー探知盤はどうだ?」


 アシノはルーに探知盤の様子を聞いた。


「っ!! 反応が1、2、…… 15個もある!! しかも1つの反応に複数重なってるのもあるから」


 恐れていたことが起きた。恐らくカバンの中身を1人1人に複数持たせて散り散りになったのだろう。


「いや、強い武器は持つだけで身を滅ぼす。裏の道具に強いも弱いも無いが、強力なものは持ち運べないだろう」


「そんな! 僕らはどうしたら良いんですか?」


 ユモトがアシノに尋ねると目をつぶって考えた後に言った。


「今の私達では裏の道具持ちと戦うのは危険だ。ムツヤとの合流、カバンの奪還が最優先だ」


「そうねー、1人1人で戦っても負けるのが目に見えてるし」


 モモがぼんやりとしている事に気付いてアシノが言う。


「モモ、お前が居なければ私達は死んでいたかもしれない。感謝する」


 それからアシノは頭を軽く下げて続けた。


「それと嫌な役目を任せてしまってすまない。気持ちはわかるが、今はムツヤと合流する事だけを考えてくれ」


 モモはパンっと自分の顔を叩いてから返事をした。


「はい、急ぎましょう」


 アシノは死んだキエーウの男に片手で素早く祈りをした。モモもそれに習い、皆は先を急いだ。


 恐らくエルフの村から一直線に、一番遠くにある反応がカバンだろう。それを倍以上のスピードで追いかけている点がムツヤのはずだ。


 ムツヤは今、魔剣ムゲンジゴクのレプリカしか持っていない。


 しかし、サズァンから貰ったネックレスと裏の連絡石のおかげで反応が分かる。


「ギルス、ムツヤと繋いでくれ!」


「分かった、ちょっと待ってろ」


 走りながらアシノはギルスに連絡を入れた。しばらくしてムツヤの声が聞こえてくる。


「アシノさんでずか!? 今カバンを持ってる奴を追いかけているんですが、他に道具を持っていった奴もいて!」


「ムツヤ、お前はカバンを取り戻すことだけ考えて走れ!」


「わがりまじだ!」


 ムツヤとの連絡が終わり、石を仕舞おうとした時にちょっと待ってくれとギルスの声がした。


「おい、何人か引き返してきているぞ!」


「僕たちを、倒しに来たんですかね……」


 ユモトの予想は当たっているかわからない。しかし反応が向かう先を見て答えが分かってしまった。


「っ!! そうか、エルフ亜人だから!!」


 ルーの言う通りだ。裏の道具の反応がエルフの村へと近付いて行っている。

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