「待てルー!! カバンがアイツ等の手に渡ったらどうなるか分かってんのか!?」
アシノに咎められたルーだったが、ナイフを突きつけられているエルフを見て他の方法を考えてみても代案が無い。
「ムツヤ、走ってアイツを倒せないか?」
「やだわぁん、ひそひそ話なんて。ちょっとでも変な動きをしてみなさい。この子は死ぬわ」
ムツヤ達はキエーウの連中を睨みながら立ち尽くすことしか出来なかった。
「ほら、カバンをこっちに投げなさい」
ムツヤは苦い顔をしながらバッグを肩から下ろして放り投げた。キエーウのメンバーがそれを拾って立ち去っていく。
「カバンは渡したわよ。開放しなさい!!」
「駄目よ、もうちょっと遠くに逃げるまで待っていて貰うわ」
すぐに追いかけてカバンを取り戻せたらという甘い考えは打ち砕かれた。
「ただ待っているってのも暇ね、お喋りでもしましょうか?」
ウトナはそう言ってムツヤを見る。
「お前なんかと話すことはない!!」
「あらぁん、釣れないわぁん。でもね、聞いてくれるだけで良いのよ?」
そして勝手に話し始めた。
「エルフは長命だから無駄に知識をもっているわ。そして自分達が1番賢い種族だと思い他の種族を見下すの。それはさっきわかったでしょう?」
「それを言ったらあなた達こそ何なの? 人間が1番だと、おごり高ぶって、そんな変な仮面まで付けて」
ウトナの言葉にルーは言い返した。
「他種族が居るからこんな争いが起こるのよ? 人間が選んだ者以外きれいサッパリ殺しちゃえば、今こんな争いも起きてないわ」
「お前らはつくづく1か0かでしかモノを考えられないんだな。人間同士でも争いも戦争も起こるし、他種族とも分かり合うことができる」
今度はアシノが言い返すが、ウトナは鼻で笑った。
「まぁいいわ、あなた達とお喋りしても無駄みたいね。それじゃこの子は返してあげる」
宿屋の夫妻が安堵した次の瞬間だった。ウトナは短剣をカノイの背中に突き立て、一気に押し込んだ。
「えっ」
カノイは痛みよりも先に自分の腹から生えた金属を理解できない様子で眺めていた。そして思考に痛みが追いつくと。
「ああああああああああああ!!!!!!」
叫んでその場に四つん這いになり、横に倒れた。キエーウの連中は何処かへ去っていく。
ムツヤ達は急いでカノイの元に駆け寄って傷を見る。これは致命傷だろう。
「ユモト、回復魔法を使うふりをしろ、私が短剣を抜いて薬を掛ける」
「あ、はい!」
小声でアシノは耳打ちをし、ユモトは杖を光らせて回復魔法を使うふりをした。
アシノが短剣を引き抜くとドクドクと血が流れ始めた。仰向けにし、傷口に薬をかける。
「ぷ、ぷぺらんらん!!」
奇声を上げてカノイは上半身を起こした。
「傷は治したが、出血が酷い。しばらく大人しくしているんだな」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
宿屋の女将は泣きながら礼を言う、他のエルフは魔法の見事さに舌を巻いていた。
「このような回復魔法を…… あなた方はいったい……?」
「私はアシノ・イオノンと言います」
「アシノ……!? 勇者アシノ様ですか!?」
「えぇ、まぁ」
少し恥ずかしげにアシノは答える。だがゆっくりしている時間はない。
「私達はキエーウを追います。あなた方は治安維持部隊の本部へ緊急の信号を送って下さい」
「わっ、わかりました!」
立ち上がってアシノは言う。
「時間との勝負だな、急ぐぞ!」
仲間達はそれぞれ返事をした。まだカバンは探知盤に映る距離にある。
「アシノさんすみません!」
「何だムツヤ!」
「服を着てきても良いですか?」
そう言えばムツヤはまだタオル1枚腰に巻いただけだった。
「あぁ、そうだったな……」
ムツヤの着替えを待つ間にアシノはギルスに連絡を入れることにした。周りに人が居ないことを確認し、長距離でも会話ができる連絡石に魔力を込める。
「こちらギルス、何かあったか?」
「あぁ、最悪なことが起きた。カバンをキエーウに奪われた」
「なんだって!?」
アシノはギルスにさっき起きた出来事を手短に話す。
「わかった、ギルドマスターにも伝えておく。探知盤の反応も監視をして何かあったら報告をする」
「頼んだ」
ちょうど会話が終わる頃ムツヤがやってきた。
「ムツヤ、お前は俊足の魔法を使ってとにかくカバンを追いかけろ。途中邪魔があっても無視しろ、私達は後から付いていく」
「わがりまじた!」
そう言うとムツヤは風のように走り去っていく。
エルフ達はさすがは勇者アシノの仲間だなと思った。
「それじゃ私達も急ぐぞ!」
みんな返事をし、走ってムツヤの後を追いかける。
一方その頃、先行して走るムツヤの前に仮面を付けた男が現れた。
「おっと、ここは通さな」
言い終わる前にムツヤは男の横を通り過ぎていった。
そしてギルスからアシノへ連絡が入る。
「探知盤の裏の道具の反応が2つに増えた。1つはカバンだと思うが、もう1つは裏の道具を何か取り出したみたいだぞ。もうすぐかち合う。注意しろ!」
「わかった」
アシノ達は武器を構えながら走る。すると突然、強い風が吹き荒れた。