トッピングはトマトやトウモロコシ等見覚えのある野菜たちだったが、珍しい葉っぱが下に盛られているサラダが前菜として出てきた。
「それじゃあ、いただきまーす」
ルーが言うと共にそれぞれ食事前の祈りを行った。
口に入れて噛むと野菜たちの甘みが広がり、少し酸味のあるドレッシングとよく合った味だ。
そして、珍しい葉っぱは薄いのにシャキシャキとした歯ごたえがあり、食べ心地が良い。
「んー、おいしー!! なんて葉っぱか知らないけど!」
「本当、おいしいですね」
ユモトも食べて驚いていた。ルーは共に運ばれてきた赤ワインに手をのばす。
「うーん、ワインもやっぱり美味しい!」
他の皆も真似してワイングラスを手に取る。深みとコクがあるのに飲みやすく、変な癖が無い。フルーティなワインだった。
「エルフって長命だから、ワイン造りを極めた人の年代物のワインがお手頃価格で飲めるのよ」
「なるほど、エルフのワインが有名なわけですね」
モモは感心して言った。こればかりは他の種族には中々真似できないだろう。
そんな中次々と料理が運ばれてくる。
「お待たせいたしました、本日のスープでございます」
琥珀色に輝くスープには、さいの目状に切られた野菜と肉が入っている。
「スゲー!! どんなスープなんですか?」
「本日は山で取れた鹿やイノシシの骨を香味野菜と共に煮込み、それで作ったブイヨンを使用したスープでございます」
一口飲むと旨味が口の中に広がる。飲めば飲むほどお腹が空くようなスープだった。
ムツヤ達が前菜を堪能してしばらくするとメインディッシュ達が運ばれてくる。
「お待たせいたしました、鴨肉のソテーと森のキノコのパスタでございます」
大皿にいい香りのする料理が運ばれてくる。ユモトはなれた手付きでパスタを皆に取り分けた。
「鴨肉おいしー! やっぱりこの味は野生じゃないと出せないわね!」
噛むほどに味が滲み出る鴨肉と酸味と甘みのあるソースが口の中で幸せのハーモニーを奏でる。
「このキノコ、歯ごたえが独特で美味しいですね」
ユモトは森のキノコのパスタが気に入ったらしい。キノコの香りがパスタにも移り、食べるとその香りが鼻から抜けていく。
ムツヤ達はワインと料理を堪能していた。そして腹も膨れた頃にデザートが来る。
「こちら森の果実のシロップ漬けでございます」
透明なシロップの中に色とりどりの果実が沈んでいるシンプルな料理だ。
その中の木いちごを食べてアシノは目を丸くする。
「うまいな」
「アシノって酒飲みで悪ぶってるくせに甘いもの大好きだもんねー」
無言でアシノはルーの頭を引っ叩いた。
エルフ料理を堪能し終えた頃に店主がムツヤ達のテーブルへやってくる。
「本日の料理はいかがでしたでしょうか?」
「もうサイコーよ! 100点満点!」
ルーは親指をグッと上げて言う。普段おとなしいユモトが珍しく店主に感想を言った。
「とても美味しかったです! どれも美味しかったですけど、特にキノコのパスタが、珍しいキノコでしたね」
「あのキノコはこの付近の森で取れる味の良いものなのですが、日持ちしないので一般には流通しないのです」
へぇーっとユモトは感心する。
ムツヤ達はそのまま会計を済ませて宿へと戻った。
部屋の中は綺麗にしてあり、ふかふかのベッドと化粧台。クローゼットまで付いていた。
「ねぇねぇ、この宿ちゃんとお風呂も付いているみたいよ! 行きましょうよ!」
「昨日温泉に入ったばかりだろ」
ルーの提案にあまり乗り気じゃ無さそうに言っていたが、アシノもそこまで嫌ではない。
「モモちゃんも行くよね?」
「え、えぇ、そうですね……」
この村のエルフは友好的だということを食堂で知ったが、やはりまだ一抹の不安はあった。
「だいじょーぶよ、ヘーキヘーキ。さ、行きましょう!」
ルーはモモの腕を引っ張って立たせる。そしてそのまま隣の部屋まで行きノックをした。
「みんなー、お風呂入るわよー! ヨーリィちゃんおいでー、お姉ちゃんが体洗ってあげるわよー」
「お前が言うと変態的だな」
部屋のドアが開いてヨーリィが出てくる。
「あれ、ムツヤっちとユモトちゃんは……」
部屋を見渡してベッドの所で皆の視線がピタリと留まった。ベッドに寝ているユモトに覆いかぶさるようにムツヤが居たのだ。
「あ、あー…… 何ていうかお取り込み中失礼しましたー」
見てはいけないものを見てしまったとルーは部屋のドアを閉めようとするが、いやいやいやとアシノとモモが部屋に入ろうとする。
「ち、違うんです、これは違うんです!!」
ユモトが声を上げていた。ここで少し時間をさかのぼってムツヤ達の部屋で何があったのか見てみよう。
「すげー! 見て下さいユモトさんふかふかのベッドですよ!」
ムツヤはテンションを上げて言う、ユモトは「そうですね」とニコニコしていた。
ヨーリィは一番左端のベッドにちょこんと座る。ムツヤは右端のベッドに走って飛び込んでいた。
「おー、はねるはねる。すげーっすよユモトさん! ヨーリィ!」
「お兄ちゃんが楽しそうでなにより」
ヨーリィは上半身を反らせてムツヤを逆さまに見つめる。
「あー、いい匂いもするし良いお店ですね!」
こちらの世界に来てから安宿にしか泊まったことのないムツヤは喜んでいた。
いや、この宿も安いのだが、値段にしては上質すぎるのだ。
ムツヤは修学旅行生の様にベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねていた。
そんな時ドアをノックされ、ムツヤはベッドから飛び降りようとしたのだが、予想以上に跳ねてしまい目の前に座るユモトに向かって行ってしまった。
「あ、あぶない!」
ユモトはとっさにムツヤを受け止めようとするが、そのままベッドに2人して倒れてしまう。
「っと、いうことがありまして……」
ユモトが説明するとアシノはムツヤの頭にワインボトルのフタをパコンと飛ばした。
「調子に乗るな、馬鹿」
「すみません……」
ムツヤはすっかりテンションが下がってしまった。