目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

因縁 1

 ムツヤ達一行は宿場街を出て次なる街へと向かう。キエーウに対抗するため、探知盤の石をスーナの街を中心にして時計回りに埋めていく為だ。


「あの街はさっさと出るつもりだったが、思わぬ足止めを食らったな」


「すみません、僕のせいで……」


 アシノが言うとユモトは身を縮こませて申し訳無さそうにした。


「いや、だいたいはムツヤのせいだ」


「すみません……」


 今度はムツヤがペコペコ謝っていた。しかしアシノは口ではそう言っているが実際の所あまり怒ってはいない。


 みんな心身共に疲労が溜まっていたので、しっかりとした宿で休む事は必要なことだった。


「次はクロースという村だ」


 アシノが言うとモモは浮かない顔をした。ルーはそれに気付いて言葉をかける。


「クロースはエルフが多い村だけど、あそこのエルフは他の種族にも友好的だから心配しなくても大丈夫よ! 多分」


「いえ、大丈夫です」


 モモは短く返事をした。ムツヤは何のことか分からなかったので首を傾げている。


「オークとエルフは昔から何かと因縁があるんだ」


「そうなんですか」


 ムツヤはアシノに説明をされてもいまいちピンと来ない。


「まぁ、何百年も前の話だ。つってもエルフは長命だから生きている間に争いを経験した奴もいるかもしれんが」


「もう平等宣言がされてから100年も経つのよ? 大丈夫よ」


 この時、ムツヤ達はまた大きな争いに巻き込まれることを知らずにいた。


 半日ほど歩いてムツヤ達はエルフの多い村であるクロースに着いた。入り口のエルフの衛兵に呼び止められて身分証を見せる。


 モモは自分の番になった時少し緊張したが、特に嫌な顔もされずに村へ通された。


 それよりむしろアシノの身分を知って衛兵は驚いていた。


「俺、エルフの人って初めで見だがもしれません」


 ムツヤが少し興奮気味に言うとアシノは説明をしてやる。


「あぁ、エルフはあまり生まれ故郷を離れることはしないからな」


 ムツヤはお得意の千里眼を使ってそこら中のエルフを眺めていた。そして疑問を持つ。


「エルフの人って耳が長い人ばかりだと思っていたんですけど、そうじゃない人もいるんですね」


「エルフは耳が長いものだってイメージがあるけど、意外と人間と同じ様な耳と長い耳が半々ぐらいなのよ」


 ムツヤは「へぇー」と言って歩き続ける。宿屋を見つけてそこへ立ち寄った。


「いらっしゃいませー」


 長い金髪の美しいエルフが出迎えてくれた。


 ムツヤはにへらとデレデレした顔になる。それを見てモモは咳払いをしたが、アホのムツヤは気付く様子は無い。


「3人部屋を2つ取りたいのですが、空きはありますか?」


 アシノが言うとニコッと笑って答える。


「はい、ございます。ご案内いたしますね。カノイ、お客様をご案内して」


「はーい、お母さん」


 そう言って出てきたエルフは人間の見た目で言えば二十歳前後だろう。そしてお母さんと言われたエルフもそれぐらいの年に見える。母子というより姉妹にしか見えない。


「こちらのお部屋と、お隣のお部屋。そして2つ隣のお部屋が空いております」


 カノイと呼ばれた金髪のエルフが笑顔で案内をしてくれた。


 ムツヤの視線がカノイの開かれた胸元に行っていることにモモは気付き、ぐぬぬと小さく声を出す。


「お客様、お食事はもうお済みでしょうか?」


「いいえ、まだ食べてないわ」


 ルーが答えると、カノイは嬉しそうに言った。


「それでしたら、この宿と併設して食堂がございますので是非そちらをご利用下さい! 私の父が料理長をしているので」


「その案、乗ったわ!」


 ルーは親指をグッと立てて言う。ムツヤ達も空腹だったので特に反対する理由は無かった。


「ありがとうございます! お店までご案内しますね!」


 ムツヤの裏の道具以外の持ち物を部屋に置くとカノイの後を付いて歩く。と言っても宿屋の真横にあるのですぐだったが。


 カノイが扉を開けてムツヤ達は中へと通される。20人ぐらいが入れる中規模の食堂だ、チラホラと客が座っている。


「お父さーん! お客様よー」


「はい、いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


「それではごゆっくりお食事をお楽しみ下さい。失礼します!」


 頭を下げてカノイは去っていった。ムツヤ達はウェイトレスが持ってきたメニューに目を通す。


「なるほど、エルフ以外の種族向けの料理も普通にあるんですね」


 ユモトはメニューをパラパラと見て言ったが、ルーはちょい待ちとユモトを止める。


「エルフの村に来たんだからエルフ料理を食べるべきでしょ! 郷に入れば郷に従えって言うでしょ?」


「確かに、そうそう食べられる機会もありませんもんね」


「あのー、エルフ料理っでどんな料理なんでずか?」


 ムツヤが尋ねると待ってましたとばかりにルーはうんちくを語り始めた。


「エルフってのはね、狩猟民族だから山で取れた動物やモンスターのお肉、その他にも山菜やキノコなんかを使った料理が多いわ!」


「気になりまずね」


 ムツヤが言うと同時に「よし、決まりっ!」とルーは言う。


「エルフ料理を色々頼んで皆で食べましょう!」


「あー、まぁそれでいいわ。腹減ってるから何でも」


「何でも良いならアシノはイノシシの骨でもしゃぶってなさい!」


 真顔でアシノはルーの頭をスッパーンと叩くとルーは「ポペチ!!」と言ってテーブルに突っ伏した。


「あのー、注文良いですか?」


「はーい、只今お伺いします」


 ユモトはウェイトレスにエルフ料理を何品か頼んだ。


「あっ、それとオススメのワインも5人前! 後はヨーリィちゃんにぶどうジュースを1つ!」


 起き上がったルーはワインを注文した。エルフの作るワインは美味しいことで有名なのだ。


「かしこまりました、お作りいたしますね」


 そう言うとウェイトレスは厨房に消えていった。


 店に入ってからずっとソワソワと回りを見渡していたモモにルーは気付く。


「モモちゃん、大丈夫よ。ジロジロ見てくる人なんていないでしょ?」


 ルーの言うとおりであった。


 客は食事や会話を楽しんでおり、オークのモモを煙たそうにする者は居なかった。心配は杞憂に終わったようだ。


「お待たせいたしましたー」


 しばらく待つと料理が運ばれてきた。どれどれとムツヤ達はテーブルに置かれていく料理を見つめる。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?