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偽装ランデブー大作戦 2

「あ、えっと、そ、外、晴れてよかったですね」


 タノベは2人きりになった緊張からかガタガタと震えている。バイブレーションタノベだ。


「そうですね、気持ちの良い天気です」


 視線を外に向けながら柔らかくユモトは微笑む。その時ちょうどユモト達2人の席に紅茶とケーキが届く。


「うわぁー、美味しそう!」


 目をキラキラと輝かせて言う。タノベはそんなユモトを眺めていた。


「それじゃ頂きましょうか」


「はい、いただきます!」


 ユモトは紅茶を1口飲んでからモンブランケーキを食べる。口の中に広がる甘みと栗の風味で幸せな気分になった。


「このケーキ、とても美味しいです!」


「それは良かったです」


 本当に良かったとタノベは胸を撫で下ろす。


 一方その頃ムツヤ達のテーブルはというと。


 緊張でバイブレーションモモになっていた。紅茶を持つ手がガタガタと震えてこぼれそうになっている。


 この2人はいつも通りだ。


「あの、ユモトさんご趣味は?」


 タノベはお見合いのような質問をしていた。「うーんそうですねー」と視線を上に向けてユモトは答える。


「お料理ですかね、後は魔法の勉強です」


「お料理ですか! 良いですね!」


 他に何か話題を考えなくてはとタノベは頭を回転させていた。


 そうだ、1番聞きたい事があったとタノベはユモトにたずねる。


「ユモトさんは、どうして冒険者になったんですか?」


 聞かれてユモトは「そうですねー」と言った後に答えた。


「僕は、お父さんが冒険者で、昔から冒険に憧れていたんです」


 タノベはユモトの話を一字一句聞き逃すまいと真剣に聞いている。


「それで、僕は生まれつき体が弱くて、信じられないかもしれませんが、つい最近まで寝たきりでした」


「そんな事が……」


「そんな時に、ムツヤさんが特別なお薬をくれて、病気が治ったんです」


 少し都合のいい話だがユモトが嘘を言うとも思えずタノベは黙って聞く。


「それで…… その後一緒に冒険することになって。モモさんやムツヤさんには頼りっきりで。何とか僕も頼られるような存在になりたいと今は思っています」


 話し終えるとユモトは恥ずかしそうにはにかんで笑う。その話を聞いてムツヤに対して持っていた悪い印象は消えていった。だが疑問が1つ残る。


「ですがそのムツヤさんは『ハーレムを作る』なんて言ってましたが」


 タノベが言うとユモトはクスクス笑いだして言った。


「それは誤解です。ムツヤさんは皆で仲良くすることがハーレムだって勘違いしているんです」


「なるほど……」


 一口紅茶を飲んでタノベは色々と考え出る。モンブランケーキを口に運ぶと甘さが広がったが、考え事のせいか繊細な味は今はわからない。


 その後タノベはユモトを連れてジュエリーショップに服屋、魔法具店に人気のアイスクリーム屋等、入念に調べたデートスポットを周った。


 ユモトの喜んだり笑ったり、困った顔を見る度に、もっと違ういろんな表情が見たいと思う。


 そして、楽しい時間は過ぎて日が傾き始めた頃、2人は街の時計台がある公園のベンチに座っていた。


「今日は楽しかったです! ありがとうございました」


 笑顔でユモトは言う。夕日に照らされたその顔は胸に来る可愛さである。


「あの、ユモトさん! 急な話で申し訳ないのですが、もしよければ俺と一緒に冒険をしてくれませんか?」


 頭を下げてタノベはユモトに頼んだ。


「……ごめんなさい、僕にはまだやらなくてはいけないことがあるんです」


 期待はしていなかったが、頭の上から断りを入れられるとタノベは胸がギュッとした。


「会ってすぐですみませんが、俺はユモトさんが好きです。女性にここまで好意を抱いたことがありません!」


 しばらく黙っていたが、ユモトは口を開く。


「前にも言ったと思うのですが、僕は男です。勘違いさせてしまった事は謝ります!」


「俺は、俺はどうしてもその事が信じられない、ユモトさんの事を疑いたくないですが、男だなんて……」


 2人共言葉を失ってしまった。気まずい沈黙が流れる。そんな時に騒がしい馬鹿が登場した。


「どーもー、愛のキューピットルーちゃんでーす」


「る、ルーさん!?」


 ユモトは驚いて声を上げる。そんな事はお構いなしにルーはとんでもない事を言い出す。


「どうしても信じられないなら、2人でお風呂に行ってくれば良いじゃない!」


 タノベとユモトはポカーンとしていた。そしてほぼ同時に顔を赤くした。


「お、お、おふっ、何を言っているんですか!!!」


 ルーにタノベは慌てふためきながら言う。ユモトは恥ずかしそうに下を向いている。


「大丈夫大丈夫、街の温泉に入ってくるだけよ。男同士なら問題ないでしょ? 裸の付き合いってやつよ!」


 タノベの頭の中はグルグルと色んな考えが回り、やがてショートした。


「わかりました、そこまでいうのなら」


 抑揚のない声でタノベは言う。


「私達も温泉入りたかったのよねー、ほら、一緒に行きましょー」


 茂みの影からゾロゾロと出てきたムツヤ達一行と共にタノベは温泉へ向かった。


「ユモトちゃん何かあんまり乗り気じゃない?」


 沈んだ顔をしているユモトを見てルーは聞く。


「あの、お風呂や温泉は好きなんですが、その、何故か周りの人の視線が……」


 女性陣は「あー……」と声を出す。男湯でユモトがどの様に見られているのか何となく想像がついてしまった。


 また前の時みたいにカバンを盗まれそうになる危険性を考えたが、ギルスからの連絡が無いということは裏の道具持ちは居ないだろう。


 それに、ここではフロントの前に鍵付きのロッカーがある。騒ぎになればすぐ分かるはずだ。


 温泉浴場の前まで着くとタノベはゴクリとつばを飲み込む。そして例によって例のごとし番頭に「そっちは男湯だよ!」とユモトは止められていた。


 身分証明書を見せて仲間と説明をすると疑いの目を向けながらもユモトは男湯に入れた。


 そして、今更になって気付く、身分証明書をタノベに見せれば良かったのではないかと。


「温泉楽しみですねー」


 ムツヤは嬉しそうに言いながら服を脱ぐ、タノベとユモトはちょっと気まずく服を脱げないでいた。


 しかし、自分は男だ、どうにでもなれとタノベは服を脱ぎ始めた。


 同時にユモトもローブを脱いだ。黒いインナーと白い肌の絶妙なコントラストをタノベは横目で見ていた。


 そしてインナーも脱ぎ去り、下着に手を掛ける。


 一糸まとわぬユモトを見てタノベは言う。


「パオオオオオオオオオオオオンンンンン!!!!!!!!!」


 それが彼の最後の言葉になり、タノベは気を失ってしまった。

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