ユモトはタノベの元へ小走りで行く。
「すいません、待たせちゃいましたか?」
「いえ、俺も今来たばっかりの所です」
タノベは笑顔で答える。実は1時間以上前から待っていたことは誰も知らない。
「えっと、その、今日はよろしくおねがいしますね!」
ユモトがはにかんで言うとタノベはドキッとしながら返事をする。
「いえ、こちらこそ」
「真面目か! 二人共真面目か!!」
ルーは隠れながらツッコミを入れていた。
「と、とりあえず、その、お茶でも飲みながらお話をしませんか?」
「そ、そうですね、良いですね!」
ギクシャクしている男2人を見てルーはモヤモヤしている。アシノは興味無さそうに腕を組んで見ていた。
タノベとユモトは身長差があり、歩幅も違う。今はタノベの歩みにユモトが無理して合わせている感じだった。
「歩幅は女の子に合わせなさいよ!! いや、ユモトちゃん男だけど!!」
ギャアギャア騒いでうるさいのでアシノはルーの頭を抑えつける。そんな時、タノベはやっとユモトが歩きづらそうにしている事に気付いた。
「あ、すみません。歩くの早かったですか?」
「いえ、僕が遅いだけですから気にしないで下さい」
やってしまったとタノベは後悔したが、気持ちを切り替え思い切って言ってみる。
「あの、もし嫌でなければ、本当に嫌でなければで良いんですが…… 手を繋いでも良いですか?」
えっとユモトはキョトンとした顔をする。タノベは「しまった、まだ早かったか」と思うが。
「えと、恥ずかしいですけど、それぐらいでしたら」
心のなかでタノベは狂喜乱舞した。
「えっと、その、じゃあ、失礼します!」
そう言ってタノベはユモトの手を握ろうとした。手が触れた一瞬ユモトはビクリとしたが、手を握り返す。
「あの、何か恥ずかしいですね」
クスクスとユモトは笑う。タノベは女の子の手はこんなにも柔らかいものなのかと勘違いをしたまま感動していた。
「なーにが『恥ずかしいですね』よ!! 見てるこっちの方が恥ずかしいわよ!!!」
ルーは帽子の上から頭を掻きむしっていた。
だが、見ているこっちの方が恥ずかしいという意見にはモモもアシノも同意見だった。
「あのタノベという男、悪い人では無さそうですね。騙しているようで少し
モモは純粋な2人を見ていると何だか心が傷んだ。
「いや、ユモトは何度も『自分は男だ』って言ってただろ。勝手にあっちが喧嘩ふっかけてきて、勘違いしているだけだ」
「確かにそうですが……」
そんな事を言っている間に2人は手を繋いで歩き始めた。
ムツヤ達も隠れながら後をつける。しばらく歩くとタノベは足を止めた。
「酒場で聞いたんですけど、この店のモンブランケーキと紅茶が美味しいんですって。良かったらこのお店に行きませんか?」
「あ、はい! 甘いもの好きなんで楽しみだなー」
楽しそうに2人は店の中に消えていく。
「ふーん、ちゃんとお店の下調べはしてるのね、そこは評価してあげるわ!」
「お前はどこから目線で何を言っているんだ?」
腕を組んでうなずくルーにアシノはツッコミを入れる。その時ルーはちょっとした悪巧みを考えた。
「大勢で行ったら目立っちゃうからムツヤっちとモモちゃんの2人で偵察してきたらー?」
「いやいやいや、ムツヤ殿と一緒に行ったらそ、それってデデ……」
「仕方ないわねー、それじゃ私と行こうかムツヤっち!」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてルーはムツヤを店に誘う。
「ち、ちが、ま、待って下さいルー殿! 行きます、私が行きます! 今ものすごくモンブランが食べたかったんです!」
「そう、じゃあ私達は別のお店で待ってるから、いってらー!」
ルーはバイバイと手を振る。
「わがりまじだ、それじゃ行きましょうかモモさん」
「えっ、あの、はい!」
見るからにモモは嬉しそうな顔をしている。ルーは腕を組んでうんうんと頷いていた。
「おい、ルー。アイツ等あれで偵察になるのか?」
「何とかなるっしょー! それじゃ私達も適当に何か食べに行きましょー」
ルー達が何処かへ行った頃、ムツヤとモモは店内に入る。見渡すと女性客と男女のカップルが多い店だった。
「いらっしゃいませー! お2人様ですか?」
「え、あ、あぁ、そうだ」
モモは普段の堂々とした態度は何処へやらといった状態になっている。
「ご案内いたしますねー」
そう言われて通された席はちょうどユモトの居るテーブルが見える席だった。
それを聞いてモモは「うえぇ!? ええええ!?」っと顔を赤くして言葉にならない声を出す。
ユモトとタノベは店に入る前に言っていた通りモンブランケーキと紅茶を注文していた。
「あ、あの、わ、私達も何か注文をしましょうか?」
「そうですね、モモさんはモンブランが良いんでしたっけ?」
「そ、そうですね!」
店の雰囲気と目の前にムツヤが座っていることにモモはソワソワと落ち着かずにいる。
「それじゃあ俺も一緒で良いかな」
テーブルに置かれた連絡石に触れると店員がやってきた。ムツヤはモンブランケーキと紅茶を注文する。
「そういえばモモさんと2人きりで食事をするのって久しぶりですね」
「そうですね!」
モモは短い言葉でしか受け答えが出来なくなっていた。
「初めて一緒に冒険者ギルドで食べたペペカグ美味しかったなー」
そんな事まで覚えているんだと何だかモモは嬉しくなった。
「そうでしたね、何だかつい最近のような、ずっと昔の事のような、不思議な感覚です」
「いろんな事がありましたからねー」
と、ここでモモは気付く。自分達のやるべきことはタノベの監視であり、おしゃれな喫茶店でムツヤ殿とお茶をすることではないと。
「っと、ムツヤ殿、ユモトがどうなっているか見ておかなくては」
「あーそうでしたね」
2人はユモトのテーブルに聞き耳を立てた。楽しそうなお喋りが聞こえる。
「僕、こんなおしゃれな喫茶店に来たの初めてかもしれません」
「そうですか、ならば来てよかったです」
「はい、ありがとうございます!」
そう言ってユモトは笑顔を見せる。眩しくてタノベは直視できずに視線をそらしてしまった。
「何かいい雰囲気ですね」
モモは見て言った。その光景は、店内にいる誰もが男2人でお茶を飲んでいるだなんて見抜けないだろう。