「ちょうど良かった。決闘で賭けるものを忘れていましたので」
タノベは一歩前に出てすぅっと息を吸って一気に話した。
「ユモトさん! もし俺が勝ったら、明日1日デートして下さい!」
ユモトは何のことか一瞬分かりたくなく、ポカンとしていたが徐々に顔が赤くなっていった。
「で、デートって! だから僕は」
ルーは何かを言いかけたユモトの口を塞いでタノベと話す。
「ちょっーとユモトちゃんと相談させてもらって良いかしら?」
「わかりました」
ムツヤ達はタノベから離れていったん闘技場を出てひと目のつかない所へ来た。
「ど、どうしよう…… あの人本当に勘違いしてる」
ユモトは両手で顔を覆って言う、ルーとアシノは目で会話をし、ユモトに語りかけた。
「思うんだけどさー、これムツヤっちが負けてユモトちゃんが1日デートしてあげれば全てが丸く収まる気がするんだけど」
「そんなぁ!」
ユモトは当然、抗議しようとする。ムツヤもルーの意見には反対だった。
「ユモトさんに迷惑は掛けられません、やっぱり俺が戦って勝つしか」
そこまで言いかけた時に「まぁ待て」とアシノも説得を始めた。
「相手は決闘を申し込むぐらいだから多分そこそこ腕に自信があるみたいだ。体格を見ても強そうなのはわかる。そんな奴を無名のムツヤが倒しちまったら目立っちまうだろ?」
「で、ですが……」
ユモトは半分泣きそうになっていた。モモは見ていられなくて視線をそらした。
「ムツヤっちが負けて、ユモトちゃんがデートして、こっぴどく振る。これでオールオッケーよ!」
あっという間に昼が過ぎ、決闘の時間の30分前になった。ムツヤとタノベは仲介人の前で正式な文書を持ちお互い何を賭けるか書いた紙を交換する。
ムツヤは文字が書けなかったのでルーに代筆してもらった。
「俺は負けませんよ」
タノベがそう言って右手を差し出す。その行為が一瞬分からずボケーッとしていたが、ハッとしてムツヤは手を握る。
そして、お互い別々の待合室へと向かう。ムツヤは緊張してドキドキしていた。
ファンファーレが鳴って闘技場の職員がドアを開ける。外の眩しい光が差し込んで一瞬目が眩むが、ムツヤはアリーナへ歩いて出た。
先程までとは比べ物にならないぐらいの観客が居て「うわあああああ」と歓声が上がった。
タノベは周りの客達に手を振る余裕がある。闘技場慣れしているのだろうか。
ムツヤとタノベは審判の近くまで歩き、剣を抜く。
審判が手を上に上げて、下げた。試合開始の合図だ。
まずはお互い間合いを取ってにらみ合いが始まる。タノベは左手に魔力を込めて火の玉を数発、牽制に打った。
ムツヤは左回りに走りそれを避ける。その先に火の玉と共にタノベが走り出して斬りかかった。振り下ろされる剣をムツヤも剣で受け止める。
がら空きになったムツヤの腹を目掛けてタノベは蹴りを入れた。ムツヤは食らってよろめき、後ろに数歩下がる。
そこにタノベは跳躍するように2歩大きく踏み出して横薙ぎに斬りつける。ふらめきながらもムツヤは剣で受け止め弾き返す。
「ムツヤさん大丈夫ですかね……」
演技とはいえ劣勢のムツヤを見てユモトはハラハラしていた。
「大丈夫だ、少しもダメージ受けてないよアイツは」
アシノはムツヤの戦いを見て言う。心配よりも初心者みたいな動きが上手くなっている事に感心した。
ムツヤが反撃に走り、タノベに向かって袈裟斬りをする。それをタノベは下から切り上げて弾くとムツヤの手から剣が飛んでいき、地面へ落ちた。
「勝負あり!」
審判がそう叫び試合を止めると、ファンファーレが鳴って勝者を讃える。タノベは剣を天高く掲げて会場からは拍手が鳴り響いた。
タノベは剣を鞘に収めるとムツヤの元へ歩き、右手を差し出す。両者は握手をして試合が終わった。
ムツヤの闘技場での戦いが終わり、夜が明けて朝になる。
ユモトはこの世の終わりみたいな顔をしてガタガタ震えているが、ルーはニコニコ笑顔だった。
「ダイジョーブダイジョーブ。私達もずっと後を付けて見てるから!」
「ルーさん楽しんでません?」
ユモトがムスッとして言うとルーは視線をそらす。
「ソンナコトナイヨー」
あ、絶対楽しんでるなと皆が思った。
ユモトが待ち合わせの場所に向かうとタノベの姿があったが、隠れて眺めているルー達はその姿を見て驚愕した。
「え、何あの格好……」
珍しくルーが引いている。タノベはダメージ加工が施されたボロボロのズボンに白のインナーと青いジャケットを羽織っていた。
「何あれ、何なの? 何か戦いでもあったの? 何であんなボロボロなの!?」
「あー、アレは王都で流行ってる、わざとズボンをボロボロに加工した奴だ」
アシノが言うとルーは信じられないといった声を出す。
「何でそんなのが流行ってるの!? 意味わからないんですけど!!」
「えー? カッコよくないですか?」
ムツヤが言うとモモが「えっ」と言って振り返る。
「あれはだな。男はカッコいいと思って履くらしいが、女受けは物凄く悪い不思議な服だ」
「あれが…… カッコいいのですか?」
「私にも良さは分からんが」
モモは絶対ムツヤには履かせないと誓っていた。その横でルーは腕を組んで何かを考え出した。
「んー、でもユモトちゃんは男だし、ある意味正解? いやでもデートでアレは清潔感が…… あーもう頭がこんがらがってきた!!」