「えっと、突然お邪魔して申し訳無い。俺はタノベと言います」
軽く自己紹介をすると返事が帰ってきた。
「こんばんはー、俺…… じゃなかっだ、わだしはムツヤって言いまず」
酔っ払った上に訛っているが、敬語を使っている辺りいいヤツなのかもしれないなとタノベは認識を改める。
「私はモモだ。訳合って今はムツヤ殿の従者をしている」
オークの女はそう言う。従者をしているとはどういった事情なのだろうかと少し考えた。
「ヨーリィです、ムツヤお兄ちゃんの妹です」
あまり似ていない兄妹だなと思った。短く言うとヨーリィはアスパラガスをむしゃむしゃ食べ始める。
「えっと、ユモトです。よろしくおねがいしますね!」
美人ぞろいのパーティだが、やはりタノベにはユモトが一際輝いて見えた。
「どうもどうも、よろしくお願いしまーす! 所で皆さんはどういう集まりなんですか?」
フミヤは酒を飲みながら尋ねる。すると一瞬空気が重くなった気がした。
「そんなのどうだっていいでしょーよー!」
ルーはフミヤの背中をバンバンと叩く。
「そ、そうですね、僕たちはただの冒険者の集まりですよ」
明らかに何かをはぐらかされている事にタノベは疑問を持ったが、知り合ったばかりの相手達に深入りはやめておこうと何も聞かないことにした。
その後は他愛のない話に花を咲かせたる。冒険者の面白話に笑ったり心配した顔をしたりするユモトにタノベはより惹かれ始めていた。
「それじゃあ皆の夢って何なの? 俺は冒険者としてお宝を探して一攫千金当てること!」
フミヤは自分の夢を語り始めた。見ているこっちが恥ずかしいとタノベは視線を持っているジョッキに移す。
「私もお金持ちになりたーい!!!!」
ルーは両手を上げて騒いでいる。
「私はムツヤ殿の夢を叶えることだ」
モモは酔って少し赤くなった顔のまま目をつぶって言った。
「私は大切な人を守ること」
珍しくヨーリィも話に乗っかった。意外なことにムツヤ達の視線が集まる。
「その大切な人ってルーお姉ちゃんの事かなー?」
うざ絡みに対してヨーリィはジュースを飲んでスルーをした。
「え、えーっと、僕は…… いえ、僕もムツヤさんに恩返しがしたいです。なのでムツヤさんの夢を叶えてあげることですかね」
ユモトもぽやんとした顔をしながらもじもじと言う。
「まー、恩返しってんなら私もムツヤっちに借りがあるし、それが返せるまで付き合おうかな」
腰に両手を当ててルーは胸を張る。やたら慕われているムツヤにタノベとフミヤの2人は少し嫉妬をした。
それで当の本人はと言うと泣き上戸なのも手伝ってみんなの言葉に涙を流して感動していた。
「う、うええええみなざああああんんんん」
「それで、ムツヤさんの夢ってのは何なんですか?」
ここまで応援されるムツヤの夢がタノベは気になっていた。涙を拭き終えるとムツヤはキリッと前を向いて言う。
「はい、俺の夢はハーレムを作ることです!!!」
ムツヤ達のテーブルには静寂が流れた。
「は、はは、面白い冗談っすね」
若干引きながらもフミヤは言った。しかしムツヤは首を振って否定する。
「冗談じゃありません、本気で思っています!!」
フミヤもタノベも言葉を失った。モモが慌てて止めに入る。
「ムツヤ殿!! だから人前でハーレムと言ってはいけないと言ったではありませんか!!」
「そうですよムツヤさん! 変な誤解をされてしまいます!」
ユモトもあわあわと焦っていた。こんな状況に追い打ちを掛けるかのようにルーはとんでもない事を言い始めた。
「まー、私はムツヤっちに借りがあるしー。どーしてもって言うなら良いかなー?」
酔っ払って歯止めが効かなくなっている。フミヤとタノベは完全に固まっていた。モモは頭を抱える。
「あ、あの、まさか、ということは、ユモトさんも……」
タノベは表情が固まったまま言う。
頭の中ではこの美女たちをはべらせた上でゲスな笑いをしながらユモトを抱き寄せているムツヤの図があった。
「いえ、違います!! っていうか誤解です! それに僕はそもそも男ですし」
ユモトは事実を言っているのだが、タノベの頭の中では、嘘をつきなれていない清純な乙女が思いついた下手な嘘でムツヤを庇っているようにしか見えなかった。
「ユモトさん! そんな下手な嘘をついてまで!!」
「だから誤解なんですって!!!」
タノベは激怒した。必ず、かの変態色魔の男を除かなければならぬと決意した。
「あなたに闘技場での決闘を申し込みます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが皆をそんな欲望で騙し、ハーレムを作ろうとしたからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。明日にでも戦います。真剣も使います。闘技場にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 闘技場でに負ける楽しみにしておいて下さい! いいですね!」
酒の勢いも手伝い義憤に駆られ、立ち上がってタノベはムツヤに対して決闘を申し込んだ。店内に静寂が訪れて皆がこちらのテーブルを見ている。