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決闘するなよ、俺以外のヤツと 1

 日が暮れてしまったが、まだ明かりを付けなくてもも周りが見えるぐらいの頃、ムツヤ達は街へと着いた。


「着いたぞ、ここがカラスギって街だ」


 アシノが軽く街の名前だけ言う。まばらに光を放っていて、活気のある宿場街といった感じだった。


「どっか適当に宿でも取るぞ」


 衛兵の隣を過ぎるとアシノは頭の後ろで手を組んで歩き出した。


「あの、ムツヤさん。僕もう歩けますんで」


「大丈夫ですか?」


 周りからの視線で恥ずかしさを感じたユモトはムツヤの背中から降りる。


「ありがとうございました」


 ユモトはペコリと1礼してお礼を言う。まだ少し頭がボーッとしているが休めば元気になるだろう。


 先行して歩く皆に少し遅れを取り、追いつこうとした時。ユモトは一瞬フラリとしてしまい、人にぶつかってしまう。


「あっ、大丈夫ですか?」


「す、すみません!!」


 ぶつかった相手の男はユモトが倒れないよう両手で肩を支えてくれた。そして男はそのままユモトの顔を見つめて動かなくなる。


「あ、あの、ぶつかってしまって本当にすみませんでした……」


 ハッとし、慌てて男は手を離す。


「いえ、こちらこそ申し訳無いです。ぶつかったことは気にしないで下さい」


 そう言って視線をそらし男は頭をかいた。ユモトは頭を下げて仲間たちの元へと向かっていく。


 先程、倒れかけたユモトを支えた男は酒場にいた。仲間の冒険者の男と酒を飲んでいる。


「おい、タノベ。お前何かボーッとしてないか?」


 名前はタノベと言うらしい。確かに上の空でいたが、仲間にその事を指摘されても構わずに居た。


 ほんのついさっき、たった数回会話を交わしただけの子の事が忘れられない。


 今まで見た女性と比べても、ひときわ可愛らしい顔、大きな瞳、掴んだ肩の柔らかさ、まるで心地よい音楽を聞いているかのような声。


 俺に天使が舞い降りた! まさにそんな感じであった。せめて名前だけでも聞いておくんだったと後悔する。


「ダメだ、今日は騒ぐ気になれない」


 タノベはそう言って酒を飲んだ。仲間の男の何があったのかという問い詰めにも耳を貸さずにボーッと揚げた芋を食べる。


 そんな中で思わずタノベは飲んでいた酒を吹き出しそうになった。見間違えでなければ目の前を先程の天使が通り過ぎて行ったのだ。


 天使の居るパーティは2つ隣のテーブルに着く。タノベは周りに気取られないようにそのテーブルを意識して見ていた。


「じゃあ乾杯っすね!」


 背丈の割には胸の大きい魔法使いが高いテンションで言う。


「かんぱーい!」


 仲間たちもそれに続いてグラスをぶつけ合う。チラチラ見ていると冒険者のパーティにしてはちょっと異色の組み合わせだった。


 やたら美人のオークにやさぐれた顔をしている赤髪の女。先程の胸の大きい魔術師らしき女に黒いドレスの少女。そして……。


 男が1人。


「おい、急に恐い顔してどうしたお前」


「いや、別に何でもない」


 あの天使とアホそうな男はどういう関係なのかタノベは気になっている。


 30分ほど時間が経ち、タノベも仲間の男もいい感じに酒が回ってきた。


「なぁ、あそこのパーティの女の子達可愛いよな」


「お、そうだな」


 仲間の話に適当に相槌を打つタノベだったが、次の瞬間冷水を掛けられた様に意識がハッキリと戻った。


「俺ちょっと声かけてくるわ!」


「ちょ、ちょっと待て!!!」


 仲間が立ち上がると同時に焦ってタノベも立ち上がってしまった。


「冒険者同士の交流は大事だぜー?」


 ジョッキを持ってウッキウキで2つ隣のテーブルへ向かう仲間を止めようとタノベは追いかけた。


「どうも、こんちゃーす! 自分冒険者です! 皆さんも冒険者ですよね?」


 どうやら酒が回って寝ている赤髪の女以外は男を見つめた。


「やぁやぁ、我が名はルー! スーナの街よりこの地へ来た! そなたたちは冒険者か?」


 すっかり出来上がっている背の低い魔術師らしき女は、そう言って立ち上がった。揺れる胸に思わず視線がちらりと行ってしまう。


「ルーさんですね、俺はフミヤって言います!」


「おい、フミヤ…… やっぱりまずいって」


「あれ、あなたさっきの……」


 タノベは天使と目が合ってしまった。あっと赤面してしどろもどろになる。


「んー? ユモトちゃん知り合い?」


 タノベは(ユモトさんって名前なのか)と妙に冷静に考えているもう一人の自分がいた。


「知り合いっていうか、さっきちょっと……」


「よく分かんないけど一緒に飲みましょーよー!」


 ルーはそう言って自分の隣の椅子をポンポンと叩く。


「どうもでーす、失礼しまーす」


 調子よくフミヤは笑顔でそこに座る、あわあわしているタノベにも指をさしてルーは声をかけた。


「ほら、そこのあなたはユモトちゃんの隣!!」


「え、あの」


「さっきのお礼も言いたいですし…… それとも僕の隣は嫌ですか?」


 ユモトは瞳をうるませて下から見上げている。


「そ、それじゃあ、失礼します!!」


 その視線にタノベは負けた。

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