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亜人を呪わば鉄球地獄 3

 鉄球が盾に触れるとゴトリと音を立てて地面に落ちた。また本持ちの女はイライラして鉄球付きの鎖を本の中へ引き戻す。


 恐らくだが、無力化の盾に触れると1度鉄球を戻さなくてはいけない様だ。そう思わせる敵の罠かも知れないが……。


「死ねぇ!! オーク!!」


 より威力を強めて鉄球が発射される。


 しかし、敵はモモを狙っている為、軌道の予測はさっきよりもしやすかった。


 モモは盾を構えてしゃがみ、身を小さくし、鉄球を受け止める。その隙きを逃さずアシノとルーはワインボトルのフタと太い氷柱を発射した。


 鉄球を戻して弾こうとするが、本持ちの女は間に合わない。アシノのワインボトルのフタを数発喰らい、怯んだ所へ右肩に氷柱が突き刺さった。


「あぐぅ!!」


 肩を抑え、その場に膝を付いて、左手で氷柱を引き抜くと同時に女は地面に倒れた。そこで、ヨーリィは風のように走り、女の元へ向かう。


 敵が残り数発の矢を放ったが、それらを全てかわして女の持つ本を取り上げた。


 こちらの勝負はついたかと思ったその時、ムツヤと戦っていたウートゴが一瞬視界から消えてヨーリィの後ろに立つ。


 そしてそのままヨーリィを刀で斜めに斬りつける。上半身と下半身が真っ二つにされ、地面へ落ちた。


「ヨーリィ!!!」


 ムツヤは叫んでヨーリィの元へと駆け寄った。モモとアシノ達もそれに続いて反対方向から走り出す。


 ウートゴは本を取り上げ、女を担ぐと恐ろしい速さで走り逃げた。


「ごめんなさい、お兄ちゃん」


「今治すから待ってろ!!」


 ヨーリィの2つに別れた体は枯れ葉に変わりだしている。ムツヤはそれをくっつけて魔力を送った。


 ルーは探知盤を取り出す、赤い点は確かに遠くへと離れていった。


「どうやら本当に逃げたみたいね」


 全員致命的な怪我は無かったが、ユモトは魔力の使いすぎで座ってハァハァと息をしている。


 ヨーリィは無表情のままムツヤの魔力を貰い再生をしていた。


「モモ、今回は助かった」


 アシノがモモに近付いて感謝の言葉を言う。


「本当、モモちゃんが居なかったらやばかったわ。あ、もちろんユモトちゃんもよく頑張ってくれたわ」


 ルーはユモトに近付いて脇の下を引っ張って横にさせ膝枕をする。


「え、ちょっ、ルーさん!?」


「横になって休んだほうが良いわ、ムツヤっちー。何か甘いもの頂戴、魔力の回復には甘いものよー」


「そうですね、わかりまじだ」


 体が完全にくっついたヨーリィは立ち上がる。まだ手を握ったままだが、ムツヤと共にユモトの元へ歩いていった。


「何か…… そうだ、この飴なんてどうですか?」


 ムツヤは白くて長い棒状の飴を取り出す。


「ナイスムツヤっち! ほらユモトちゃーんお口アーンして」


「えぇ、でも……」


「いいから早く!」


 ルーは飴をユモトの口へと近づける。その先端が緋色の唇へ触れると勘弁したのか舌を出してチロチロと舐め始める。


「んっ、ミルク味ですね…… 美味しいです」


 グイグイとルーは飴を押し込む、溶けた飴がユモトの口から溢れて白いスジを作った。


 ユモトは目を見開いてんーんーとうめき声を上げる。


「やめろバカ!!!」


 アシノがルーの頭を引っ叩くと「ぽぱい!!」と変な声を上げた。


「ムツヤ、魔力が一気に回復するポーションでも無いのか?」


 アシノがムツヤに聞いてみると当たり前のように「ありますよ」と返事が来たが、ルーが待ったをかける。


「ムツヤっちならまだしも、ユモトちゃんが魔力を一気に回復させたら体中の魔力のバランスが狂ってショック死しちゃうわよ!!」


「確かに、危ないかもしれませんね」


 ユモトもあははと苦笑いをする。魔力は普通に売られているポーションを使っても回復を促進させるだけで、急な回復はしないのだ。


「んなことは知ってるけどよ、コイツなら副作用なしで回復するモンでも持ってんじゃないのかって聞いてみただけだ」


 一応アシノはムツヤが取り出したオレンジ色の薬を受け取って眺めてみる。そしてルーに渡した。


「ちょっと舐めてみていい?」


「おう、死ぬなよ」


 好奇心に負けて手のひらに1滴薬を垂らし、ルーは舐めた。瞬間ビリビリとした感覚が口の中に広がった。


「うえええええ、純度高すぎ!!! 水ちょうだい水!!」


 ルーはバタバタと騒ぎ始め、ムツヤが水を渡すと一気に飲み干す。


「あー、確かにこれは効くわ。でも研究してから使ったほうが良いかもね」


 ルーは口から水をこぼしながら言う、仕方ねえなとアシノはユモトに尋ねる。


「次の街まで後ちょっとだ、ユモト歩けるか?」


「は、はい大丈夫です!!」


 大丈夫と言うがユモトの顔色はあからさまに悪かった。


「ムツヤ、おぶってやれ」


「わがりまじだ」


 アシノに言われ、ユモトが遠慮するより早くムツヤは背負い上げる。


「ユモト、無理な時は無理と言うのも大事だぞ」


「あ、えっと、すみません……」


 そう言ってユモトはムツヤの背中に顔をうずめて抱きついた。何故かいい匂いがするがユモトは男だ。


「モモは大丈夫か? ヨーリィも平気か?」


 アシノは他の仲間の無事も確認した。


「はい、私の怪我はもう治りましたので」


 モモは胸に手を当て言い、ヨーリィも返事をした。


「私はもう体を維持するだけの魔力は貰った」


「それじゃ出発するか、日が暮れるぐらいには街に着くからな」


 予定時間よりはだいぶ遅れたが、ムツヤ達は街を目指して歩き出す。

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