目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

亜人を呪わば鉄球地獄 2

 刀身の反った細身の刀をウートゴは取り出す。そして次の瞬間ムツヤは目を疑った。


 ウートゴは目の前で3人に増えたのだ。思わずムツヤは走るのを止め、警戒をする。


「ムツヤ!! それは東の国の魔術だ!! 気を付けろ、全員実体がある!」


 アシノはそう叫んでムツヤに警告した。仲間たちはユモトが貼った防御壁で遠くから放たれる矢を防ぎながらゆっくりとムツヤの元へ進む。


「ムツヤくん、俺と友達にならないか? 君の力と裏の道具があればキエーウは世界の頂点に立てる。亜人を皆殺しにした後、君は英雄として夢のハーレムも作れるぞ」


 真ん中にいるウートゴがムツヤへそう語りかける。


「亜人の人達を殺すなんて絶対に間違ってる!!」


 剣を構え、ムツヤは言った。


「多種族だから他の種族と争う、国があるから戦争が起こる。キエーウは世界で知能を持つ種族を人間で統一し、優しい世界を作ろうとしているんだよ」


「詭弁ね、同じ人間同士だって争い合うし、別の種族とも分かり合えるわよ」


 ルーは冷ややかに叫んだ、それを聞いてクククとウートゴは笑う。


「それならば、昨日街を襲ったトロールとも分かり合えるとでもいうのか?」


「トロールは亜人じゃないわ!!」


 それを聞いてウートゴは更に高く笑う。


「どうして亜人じゃないんだ? それは『人間』が亜人じゃないと決めたから、それだけだろう?」


「トロールは知性が無いから魔物なのよ、そんな事も知らないのかしら?」


「その知性って奴の境界線はどこなんだ? そんなモノ時代や情勢で変わるだろう? 面倒だと思わないか?」


 ムツヤは難しい話はよく分からなかった。ただ、目の前の男は自分の大事な仲間や、出会った亜人の人々を傷つけようとしている事だけはわかる。


 剣を斜めに構えてムツヤはウートゴに突っ込んでいった。


 恐ろしい速さでウートゴと剣をぶつけ合う。そんなムツヤの左右に分身が立ち、斬りかかる。


 ムツヤは後ろに飛び跳ねてそれをかわすが、ウートゴは太い鉄の針を何十本とムツヤに投げた。


 着地すると同時にムツヤは足に魔力を込めて地面を踏んだ。すると土が盛り上がって壁を作り、針は全てそれに受け止められる。


 ハイレベルな戦いを横目に見ながらユモト達も防壁の魔法陣で矢を弾きながらムツヤの元へジリジリと歩み寄った。


 その防壁目掛けて矢以外の何かが飛んでくる。鉄球だ。


 ルーはまずいと思った。ユモトの防壁だけでは確実に防ぎきれない。とっさに十体ほど精霊を召喚し、鉄球の飛んでくる方向に1列に並ばせた。


 1体2体と次々と精霊が崩されるが、鉄球の速度は遅くなっていく。しかしまだ防壁で防げるかといった所だ。


 防壁が崩されたら身を隠す場所がないここで、降り注ぐ矢の餌食になってしまう。そんな時モモが防壁の前へと飛び出た。


「モモさん!!」


 ユモトが叫ぶがモモは盾を構え、精霊の後ろに並ぶ。そして目の前の全ての精霊が崩れ去った後、鉄球を盾で受け止める。


 鉄球は止められたが降り注ぐ矢は防ぎきれない。ヨーリィが木の杭で数本撃ち落としたが、モモは膝に矢を受けてしまった。


「ぐぅっ」


 痛みにうずくまるモモ。ユモトは急いでモモを防壁の内側へと入れる。


「モモお姉ちゃん、ちょっと我慢して」


 そう言うとヨーリィはズボッと矢を引き抜いた。また痛みで声を上げるモモ。


 モモはムツヤから受け取っていた回復薬を飲む、すると傷は一瞬にして綺麗に消えた。


「ああいう捨て身のやり方は私がやる。って言いたい所だけどもう再生する魔力が少ない」


 ヨーリィの言葉を聞いてモモは自分がやるしか無いと決意した。そこにまた鉄球が飛んでくる。


「私が皆を守ります」


 モモは立ち上がり、防壁魔法の中から盾を付けた左腕だけを出して正確に鉄球を受け止めた。


 さっきは勢い余って飛び出てしまったが、最初からこうやれば良かったなとモモは思う。


 こころなしか、飛んでくる矢の量が減ってきた。おそらく相手の矢も尽きかけているのだろう。


「小賢しいんだよ!!」


 鉄球の飛び出る本を持った女がそう叫んでモモ達に近付く。ユモトは汗をかいて息を荒くしている。こちらの防御魔法も限界が近い。


 何とかムツヤと合流することが出来れば勝機があるが、数十メートル先があまりにも遠く感じる。


 ムツヤは戦いながら魔法の飛び道具で本持ちの女を牽制しようとするが、それはウートゴに邪魔をされた。


「させないよ、君は俺と戦うんだ」


 そう言ってムツヤのカバンに手を伸ばす。ハッとしてムツヤはその手を左手で弾き飛ばした。


 敵の狙いはムツヤの命ではない、カバンさえ奪えば勝ちなのだ。


 アシノは薄くなった防御魔法の内側からワインボトルのフタをパンパンと乱射する。それに続きルーは電撃の魔法とヨーリィは木の杭を狙いをつけて投げた。


 それらの攻撃を本から飛び出た鉄球と鎖を回転させて敵は弾く。


「何アレ!? あんな事もできるの!?」


 ルーは驚きの声を上げた。


「無駄口叩くな、とにかく打ち込め!!」


「ごめんアシノお姉ちゃん。木を作る魔力がもう残ってない」


 ヨーリィはどうやら弾切れになってしまったらしい。そしてユモトも膝をつく。


「ごめんなさい、僕も…… もう……」


 防御魔法も完全に消え去ってしまった。ルーが代わりに張る前に鉄球が飛ぶ。


 そして、モモは皆の前へ飛び出た。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?