「YO! YO! そこのお二人さん熱いねー、私も仲間に入れてちょうだいよー」
何だこの酔っぱらいと振り返ったらルーがそこに居る。
「ルー殿……」
完全に酒に飲まれているルーを見てモモはため息交じりに言う。
「今日は皆のおかげでぇーイタガの街を守ることがれきましたぁ!!!」
そう言って1人でパチパチ拍手をした。
「特にムツヤくん、君は素晴らしい、君が居なければこの街は大変なことになっていました」
突然に褒められてムツヤは少し照れる。そして次の瞬間ルーは思いもよらぬ行動をとった。
ルーは座っているムツヤに抱きついた、急だったものでバランスを崩し、ムツヤは押し倒される。
「ムツヤっちがぁ、どーしても、どーしてもって言うなら、私がお嫁さんになってあげる」
酔っているせいなのか、急に妖艶な笑みを浮かべてルーが言う。
ムツヤは何を言われているのか、何をされているのか判断するのに完全に固まり、モモはそんな2人を見て固まっていた。
すると何処からともなくパァンという音がしてワインのコルクがルーの額に直撃する。
「ひびゃぶ!!」
「人の恋路を邪魔する奴はワインのコルクで気絶しろ」
倒れてそのまま動かなくなったルーをアシノはズルズルと引っ張っていった。
またムツヤとモモは2人きりになった。そしてムツヤがモモにたずねる。
「あのー、モモさん。『こいじ』ってなんですか?」
「え、あ、え、あ、あの、あのですね、いや、それは、アシノ殿の勘違いです!!」
慌てふためくモモを不思議そうにムツヤは見つめた。
「勘違いなんですか、でも知らない言葉なので意味を教えて下さい」
「えー、あー、恋路と言うのはですね、男性と女性がお互いを好きになるっていうか、なんというか」
モモの言葉を聞いてムツヤはちょっとシュンとする。
「あの、俺はモモさんのこと仲間で好きだと思っていたんですが、モモさんはそうじゃなかったんですね……」
「ち、違います。そういう意味じゃなくて、友達とか仲間とかの好きって感情じゃなくてですね、もっと別のあの……」
深呼吸してモモは言った。
「恋路というのは、その人と付き合いたい…… 結婚がしたいみたいな感情のことです」
「なるほど、それじゃアシノさんは勘違いしてますね。俺は人間でモモさんはオークですもん。オークの人は人間を好きにならないんですよね」
モモはそれを聞いて少しムッとした。その勢いからかムツヤに聞いてみる。
「ムツヤ殿はハーレムを作るのが夢なのですよね」
「はい!」
モモが尋ねるとムツヤは目を輝かせて返事をする。ムツヤがハーレムというものを誤解している事はこの際置いておく。
「その、誰か1人の女性と恋をして、その…… 結婚するなんて事は考えていないのですか?」
その質問にムツヤはうーんと腕を組んで唸ってしまう。
「誰かと1人よりも、今みたいにみんな大勢で一緒に居た方が楽しくないですか?」
「それはそうですけど……」
モモも村を出て大変な毎日を送っているが、楽しいという気持ちは心のどこかにあった。
「俺は皆といつまでも一緒にいたいんですよ」
笑顔でそう言われるとモモも今は説明をやめておこうと思った。全ての騒動が終わって、その時ムツヤに決めてもらおうと。
「そうですね、皆いつまでも一緒に居られたら…… それは素晴らしいことです」
「ムツヤさーんモモさーん。デザートのタルトどうですか?」
ユモトはハチミツのタルトを持ってこちらに歩いてきた。
「やーん、わだしもたべだああい」
そんなユモトにルーは抱きついて、思わずバランスを崩しそうになる。
「お前はおとなしくしてろ!」
アシノがユモトを支えてルーにデコピンをした。「へぷち」と声を出してルーはおでこを押さえた。
「お兄ちゃん、魔力が足りなくなってきた」
音もなくいつの間にか隣に座っていたヨーリィはムツヤの手を握る。
モモは思わずフフッと笑ってしまった。
「モモさん、どうしたんですか?」
ムツヤが言うと意地悪っぽくモモは返す。
「内緒です」
「えー! どうしてですか?」
「どうしてもです」
こんな仲間と一緒の日々がいつまでも続けばいいとモモは思っていた。
一方その頃、冒険者ギルドではトロールの群れと魔人に勝利した事よりも、謎の青い鎧の冒険者の話題でもちきりだった。
「あの青い鎧を着てたアイツって何者なんだ?」
「俺だって知りてぇよ。あんな戦い方、勇者でも出来ねぇだろ」
酒を飲みながら冒険者たちは謎の人物の考察をする。
「アレだけ強かったら相当有名なはずだろ? でもわざわざ正体隠すなんて何か訳ありなんじゃねーのか?」
冒険者はああでもないこうでもないと話をしていた。
ムツヤ達は孤児院での食事の片付けを手伝うと、宿屋へ戻って寝ることにした。
駆けつけた冒険者達はギルドや住民の善意で家に泊めてもらっていたようだが、ムツヤ達は予約をしていたので宿屋で休むことができる。
昨日の戦いが嘘のように気持ちのいい朝が出迎えてくれた。
冒険者と治安維持部隊はトロールの死体の片付けをしていたが、ムツヤ達は探知盤の石を埋める使命がある。
「ルー、いつでも帰ってきてね」
「うん、それじゃあね先生!!」
孤児院の先生であるカゾノと子供たちに見送られ街を後にした。
日が暮れる頃には次の街に着くはずだ。途中で探知盤の石を1つ埋めてそのまま休憩を取る。
「次の街ってどんな所なんですか?」
「そうだな、でかい宿場町だな」
アシノはサンドイッチを食べながらムツヤの質問に適当に答えた。
そんな、やっと一息つけたと思っていたときだ。ムツヤの連絡石からギルスの声が聞こえる。
「ムツヤくん!! 裏の道具持ちが近づいている、戦闘準備をしてくれ!!」
ルーは探知盤を取り出して画面を見ると、8時の方向に赤い点が1つ見えた。
「わがりました、ありがとうございます」
ムツヤは魔剣のレプリカをしまい、本物の魔剣『ムゲンジゴク』を取り出す。
ユモトとモモは手早く片付けをし、戦闘に備える。
爽やかな青空と静けさが、今は打って変わって不気味に感じられた。