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青い鎧の冒険者

「目標の消失を確認、我々の勝利だ!」


 治安維持部隊の隊長が言うと疲れからか、しゃがみ込む者や武器をしまって街へ戻ろうとする者ばかりだった。


 トロールとの戦いを終え、魔人を退けたのだから勝利を喜ぶ歓声の1つでも上がるべきなのだろうが、別に思うことがある。


 あの青い鎧を着た人物は何だったのだろうと。



「ムツヤと合流して街へ戻るぞ」


 座り込んでいるルーに手を差し伸べてアシノは言った。


「えぇ、そうね」


 手を握り、ルーは立ち上がる。パンパンと服の汚れを軽く落とすとふぅーっとため息を吐いた。


 ムツヤは森の奥で着替えをしている。イタガ攻防戦の功労者は月明かりに照らされてまたパンツ一丁になった。


 いつもの服を身にまとった後、森の中で待っているとアシノ達がやってきた。


「ムツヤ殿、良かったご無事で……」


 1番心配していたモモはそう言って安堵する。


「はい、モモさん達も怪我をしてないみたいで良かったです」


「長くなる話は後でだ。早く戻らないと怪しまれる」


「そうですね」


 割って入ったアシノにムツヤが返事をした。そしてカバンに鎧とテントをしまって街へと急ぐ。




 街の中へ入るとどこの家も店も明かりが付いていて賑やかだった。飲食店は街を守った英雄たちにねぎらいの料理と酒を出すことに大忙しだ。


 ムツヤ達は冒険者ギルドへと向かう。ギルドマスターから聞かれる事は大体想像できたが、アシノは仲間がボロを出さないかだけが心配だった。


「始めに言っておくぞ、私達は全員トロールと戦っていた。話は私に合わせてくれ」


 小声でアシノが耳打ちすると全員がうなずいた。冒険者ギルドへ入ると夜中だと言うのに随分な賑やかさだ。


「あ、お待ちしていましたアシノ様! クーラ様がお待ちしておりますのでこちらへどうぞ」


 受付嬢はアシノの顔を見るなり近づいて声をかけた。


「はい、わかりました」


 ムツヤ達は奥の部屋へと通される。そこにはこの街の冒険者ギルドのマスター、クーラと幹部たちが神妙な面持ちで待っていた。


「アシノ様、この度は街をお救い頂きありがとうございます」


「いいえ、皆が一丸となって戦ったからです。私は大したことはしていません」


「いえいえ、またご謙遜を」


 そんな会話をしている間もクーラは心が別の場所にある。


「それで…… お尋ねしたいことがあるのですが」


 来たかとアシノは思う。


「あの魔人と対峙していた人物に何か心当たりはございませんか?」


「いいえ、私も知りません」


「そうですか……」


 ため息と共にクーラはうつむいた。


「魔人の出現と、謎のあの青い鎧の戦士、一体何が起こっているのでしょうかね」


「そうですね、私も何か情報を掴めたらご連絡します」


「お願いします勇者アシノ様、そして仲間の皆様」


 座ったまま軽くクーラは頭を下げる。


「仲間の皆もトロールと戦って疲労しています。今日の所はこの辺で失礼します」


「えぇ、この度は本当にありがとうございました」


 ムツヤ達は何とか誤魔化して早めに部屋を出ることができた。


「ねぇ、頼みたいことがあるの、ちょっと」


 ルーはギルドを出るなり言いにくそうに言った。


「みんな疲れているところ悪いんだけど、孤児院の様子が気になって……」


 ルーは皆の顔を見る。疲れているのは分かっていた、自分自身も宿屋で思い切り寝たい気持ちもある。


「何だそんな事か、私は別に構わないぞ」


「俺も大丈夫ですよ」


「私も平気です」


「僕も心配ですので行きましょう」


「私はお兄ちゃんお姉ちゃんに付いていく」


 皆の優しい言葉に思わず涙が出そうになるが、ルーはこらえて笑顔を作った。


「みんな、本当にありがとう」


 しばらく歩くとムツヤ達一行は孤児院へ着く。


「ルー!!!」


 敷地内へ入るとルーの育ての親であるカゾノが走り寄ってきた。


「ルー、大丈夫? 怪我はない?」


「もー、私は立派な冒険者よ? トロールも魔人もけちょんけちょんなんだから!」


「本当に良かった……」


 カゾノはルーを抱きしめていた。きっと物凄く心配をしていたのだろう。


「ちょっと、先生恥ずかしいって、皆が見てる、見てるから!!」


 頬を赤らめてルーが言うと皆は笑いだしていた。


 騒ぎを聞きつけて子供たちも窓からムツヤ達を見始めた。


「あー、ルーお姉ちゃんと勇者様だ!!!」


「ユモトお姉ちゃん達もいるー!!」


「だから僕は男だって」と言うが子供たちは聞いちゃいない。ゾロゾロと外に出てムツヤ達を囲んだ。


「トロールと魔人が来たって言ってたけど本当だったの?」


「勇者様がやっつけてくれたんでしょ!?」


「すごく怖かったよぉ……」


 子供たちは一斉に話し出して収集がつかなくなってしまった。そこでふとルーは思い立ってカゾノに話をする。


「カゾノ先生、この間のお肉はまだ残ってる?」


「えぇ、まだたくさんあるわ」


 それを聞くとルーはニヤリと笑って宣言した。


「よーし、皆で戦勝祝いのバーベキューとしましょう。やらいでか!!」




 それから30分もしない内にバーベキューの準備が出来た。


 ルーの急な思い付きにムツヤ達も孤児院の人間も振り回されたが嫌な気分はしない。


「よーし、それじゃあ勝利を祝ってー…… かんぱーい!!!」


「かんぱーい!!」


 ルーが乾杯の音頭を取ると、皆で飲み物を高く掲げる。


 ワイワイと楽しく食事をし、腹がいい感じに膨れた頃。ムツヤは少し離れた場所で座っていた。


「ムツヤ殿、お隣いいですか?」


 モモは優しい笑顔を作って言う。


「えぇ、どうぞ」


「それじゃ失礼しますね」


 2人でパチパチと燃え上がる炎を見ていた。隣に座ったというのにしばらくモモは無言だ。


 しかし、気まずさは感じず、ただこうしている事に少し幸せを感じられた。


 そんな2人の良い雰囲気を完全にぶち壊す者がやってきた。

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