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イタガ攻防戦 5

 アシノ達がトロールと戦っている時と同じ頃、ムツヤもトロールの群れと遭遇していた。


「ぐおおおおおお!!!!」


 1匹のトロールが叫び声を上げながら棍棒を振り上げて走り寄ってくる。


 青い鎧を身にまとったムツヤは一瞬で距離を詰めて右手でトロールの腹を力いっぱい殴った。


「ぐぷっ」と妙な声を出してトロールは吹き飛び、木に激突し、絶命する。木はメキメキと音を立てて折れる。


 混乱するトロール達をよそに、ムツヤは次の1匹に走り、飛び蹴りを食らわせた。他のトロールを巻き込みながら吹っ飛んでいく。


 トロールがムツヤを囲み始める。剣を抜いて1匹の首を刎ねたかと思うと、そのまま回転し次の1匹の腹を切り裂き、飛び上がってトロールを縦に真っ二つにする。


 ムツヤの中に高揚感が溢れ出てくる。人目を気にせず思う存分戦える喜びが記憶の底から戻ってきたのだ。


 背後を取った敵を足払いし、宙に浮かすとそのままサマーソルトキックを繰り出し、天高くトロールを打ち上げた。


 他のトロールとの戦いでも剣で切る以外に何十匹も宙に打ち上げ、アシノや街の冒険者達が目撃したのはそれだ。


 ムツヤの居る方角は月明かりを背にしているため、より一層目立つそれは街の冒険者をどよめかせた。


「おい、森ン中で何が起こってんだ?」


 トロールを4人がかりで仕留めた冒険者が肩で息をしながら言った。


「知らねぇよ、それよりまだ来んぞ!!」


 街の高台から戦いを眺め、指揮を取っていたクーラと治安維持部隊長も困惑をしている。


「クーラさん、あれは一体……」


「私にもわかりません」


 森の中でトロールを殲滅したムツヤが、更に街へ向かうトロールを駆逐していた頃。また別の出来事が起きる。


 森の奥から羽の生えた人影が真っ直ぐに街へ向かって飛んできた。


 するとトロールは一旦街から引いてその人影へ向かって集まり始める。


「皆さん、戦いは楽しんで頂けたかな?」


 声を大きく拡散させる魔法を使っているのか、その声は戦う者たち全てに聞こえた。


「ドエロスミス将軍!!」


 ルーは忘れもしない昨日出会った魔人へ魔法で増幅させた大声で言った。周りも「ドエロスミス将軍?」と首を傾げている。


「我が名は『ギュウドー』新たに生まれた魔人です。どうかお見知りおきを、と言っても次があるかはわかりませんがね」


「ドエロスミス将軍、降りてきて戦いなさい!!」


「えぇい、うるさいぞお前!!」


 ギュウドーが頭にきて槍を投げるが、とっさに前に出たモモが無力化の盾でそれを弾く。


 弾かれた槍は持ち主の手へと戻っていった。


「私の目的は……」

 そこまで言いかけた所で、トロール達が騒がしくしているのに気付き、ギュウドーは後ろを見る。


 青い鎧を来た人間が次々にトロールを倒しながらこちらへ走ってきた。そして次の瞬間。


 飛び上がって。


「ふべらっ」


 ムツヤにはたき落とされたギュウドーは地面に激突した。凄まじい音と土煙が上がる。


 変装をしたムツヤは空中で剣を抜いて一直線に降下した。


 また土煙が上がり、それが収まると人影が2つ見えてくる。


「やりますねぇ」


 槍で攻撃を受け止めてギュウドーとムツヤはつばぜり合いをしていた。


 トロールがぐるりと2人を囲み、ギュウドーは飛び上がりムツヤと距離を取る。


「やれ」


 ギュウドーがそう言うと一斉にトロールがムツヤに襲いかかった。


 剣で次々に襲いかかるそれを切り捨て、1匹の足を掴むとグルグルと回して他のトロールを巻き込みながら投げる。


「誰だか知らんが、アイツの援護に入るぞ!」


 誰もがその非現実的な戦いを見ていたが、アシノの号令で我に返った。


 冒険者と治安維持部隊はトロールの群れに矢と魔法を打ち込む、剣士や槍使い達は周りにチラホラと居るトロールを囲んで戦う。


 しばらくするとトロールは殆ど殲滅されていた。


「やはりトロールだけではあなた相手には荷が重かったようですね」


 言ってギュウドーは地上に降りた。その時、名声が欲しい冒険者の1人が走り、切りかかる。


 手のひらでその剣を受け止めると、冒険者を遠くに蹴り飛ばした。


 ムツヤが軽々と戦っていたから弱そうに見えたのだろうが、相手は魔人だ。


「少し腕試しでもしてみますか」


 槍を構えてムツヤと対峙するギュウドー。ムツヤも剣を構えて戦いに備える。


 周りにはトロールの死体、冒険者と治安維持部隊は遠くからその様子を固唾を飲んで見守ることしかできなかった。


 先に仕掛けたのはムツヤだった。走りながら剣を右下に構えてギュウドー目掛けて振り上げる。


 槍でそれを受け止めたギュウドーは3メートルぐらい後ろに押し出された。


 その後ニヤリと笑う。


 円状に槍をくるくると振り回すと、レーザー状の弾が発射された。


 ムツヤはそれをかわしながら反撃のチャンスを見つけようとしていた。ギュウドーはレーザー弾に混じって突貫をしてくる。


 手と足に防御の魔法を張ったムツヤもレーザー弾を手で弾き、足で弾き、距離を詰めた。


 2人の槍と剣がぶつかると凄まじい音がした。そして目にも止まらぬスピードで切り合いを始める。


 周りはどうにかしてムツヤの援護に入ろうとしていたが、次元の違う戦いにどうしたら良いのか分からずにいた。


 その瞬間、ムツヤは剣で受け止めた槍を左手で掴み、右手で思い切りギュウドーを殴った。槍を手放してそのまま吹き飛ぶ。


「っち、まだ体が馴染んでいないみたいですね。今日の所は引き上げましょう、さようなら」


 ギュウドーはそう言って一気に空高く飛んで、街とは反対の方向へ去っていった。


「か、勝ったの? 私達」


 ルーはペタリとその場に座って言う。そしてどこからともなく歓声があがった。


 そして皆の関心はトロールの群れと魔人から謎の青い鎧を着た男に向けられる。


 何人かの冒険者が駆け寄ったが、風のような速さでムツヤは森の中へと消えていった。


 イタガ防衛戦は重傷者は何名か出たが、死人は出ずに済んだ。


 本来なら勝利を喜ぶべきなのだろうが、皆あの謎の青い鎧を着た男の事が脳裏にちらついて離れない。


 魔人の復活と青い鎧の男、謎が残ったままこの戦いは終わった。

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