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絆 4

 朝日が上り、ムツヤ達は目を覚ます。ユモトは皆より先に起きて朝食の準備を手伝っていた。


 子供たちと賑やかな朝食を済ますとムツヤ達はこの街の冒険者ギルドへ向かう。情報を集めるためだ。


「勇者アシノ様!! よかったー、これで山賊もやっと退治されますね」


 受付嬢はそう言って胸を撫で下ろした、アシノはふと疑問に思った事を聞いてみる。


「治安維持部隊も冒険者も捜索しているのに何故山賊は見つからないのですか?」


 アシノの言葉に受付嬢はため息を漏らした。


「えぇ、手がかりが全くないのです。唯一わかっていることは襲われるのは決まって夜ということと、大男たちの集団に襲われるという事だけです」


「なるほど……」


 アシノはあごに手を当ててふーむと考える。


「荷馬車を1台手配して頂くことはできますか? 我々が囮になってみましょう」


 そう言われると受付嬢の顔はパァーッと明るくなり、嬉しそうに返事をした。


「かしこまりました、すぐに手配します。皆さん囮作戦は嫌がっていたのですが、勇者アシノ様が囮であれば安心です」


 少し時間が経った後に1台の荷馬車が用意される。


「騎手を危険に巻き込みたくない、誰か馬を扱ったことがある奴はいるか?」


 アシノが言うとモモがひょっこり手を上げた。


「何度か荷馬車は扱ったことがありますので、私に任せて下さい」


「そうか、それなら任せる。私達は荷台に隠れて山賊の襲撃を待つぞ。出発は日が落ちてからだ、今のうちに休んでおけ」


 今はまだ太陽が上空で眩しく辺りを照らしている。ムツヤ達はそれぞれ昼寝をしたり、子供たちと遊んだりと穏やかな時間を過ごしていた。


 そして、日が落ち、作戦が始まる。モモは荷馬車を操り、ムツヤ達は荷台に隠れていた。


 村を出発し、ここからは気の抜けない状況だ。ムツヤは探知スキルを使い周りに人影が居ないか警戒をしている。


 ユモトは杖を握りしめ、ルーは気楽そうに手を頭の後ろで組んで寝転がっていた。


 しばらくして、ムツヤがハッと目を開けた。


「この先に大きな生き物が集まっています」


「ようやくおでましか」


 アシノはワインボトルを強く握る。


 道に人影が現れてモモは馬車を止めた。無言のままフードを深く被るその人影達は、棍棒を片手に持ち、こちらへと歩いてくる。


 パァンパァンとアシノの打つワインボトルのフタが頭に直撃し、1人が怯む。それを合図に荷台からムツヤ達が飛び降り、モモも馬から降りて剣を構えた。


 ユモトが魔法の照明弾を打ち上げて辺りを照らす。その光に照らし出されたのは大男達だった。ムツヤが飛び出し1人を蹴り倒すとフードが脱げて顔があらわになる。


 それを見て全員が驚いた。


 人の顔ではなく、その顔は曲がった鼻と大きな目のトロールだ。


 別のトロールはモモを襲うが、自慢の一撃を無力化の盾でいともたやすく受け止められるとギョッとした顔をした。


 ニッと笑ってモモは剣を横に振ると、血を吹き出してトロールは倒れる。


 ヨーリィはトロールの懐に潜り込み、木の杭を投げつけ撹乱している。そこへユモトとルーの魔法とアシノのワインボトルのフタが無数に降り注いだ。


 ひとまず周辺のトロールは殲滅することができた、一息ついてアシノは喋りだす。


「まさかトロールがこんな風に人を襲うなんてな」


「えぇ、考えられないわ」


 ルーも冷や汗がながれそうになりながら答えた。


「えーっと、この人達は亜人じゃないんですか?」


「違う、魔物だ。知能は無いし人を襲う」


 ムツヤの問にアシノは短く言葉を返す。


「だから、こんなふうに待ち伏せて襲うなんてできないはずよ」


 ルーが補足を入れるとユモトがもしかしてと声を上げた。


「もしかして、キエーウの持つ裏の道具の仕業ですか?」


 ユモトが言うとアシノは考えて返事をする。


「いや、彼奴等は人間至上主義を唱えている奴らだ。亜人を襲わせるならまだしも、人間の荷馬車も被害にあっている。それにムツヤ、魔物を操る裏の道具はあるのか?」


「いえ、俺が知っているだけでは混乱させて暴れさせる杖ぐらいしか知りません」


 全員が地面に転がるトロールを見て何かを考えるが、何も答えが出てこない。


「モンスターを操って襲わせるなんて、よっぽど飼いならした魔物か魔人ぐらいしかできないはずよ」


「御名答」


 空から突然声が響き、何かが降ってきた。それは槍だった。


 槍はムツヤですら反応できない速度でルーを貫いた。ルーは白目をむいて口から血を流す。


 ムツヤは飛び出してルーの元へと向かう。その最中カバンから回復薬を2本取り出した。


 ルーに刺さる槍を放り投げると鮮血が溢れ出た、口に回復薬をあてて飲ませながら貫かれた胸にも薬をかける。


 ムツヤに抱えられぐったりとしていたルーだが、ゆっくりと目を開けた。


「え、私、何が起きたの……」


 本人は何が起きたのか理解していないらしい。ムツヤとルー以外の皆は武器を構えて空を見上げる。


「裏の道具は流石ですね、致命傷も、いとも簡単に治してしまう」


 男は背中から生える羽を使い宙に浮かんでいる。


 ルーが立ち上がるとムツヤは剣を抜いて飛び上がり、振り上げた。しかしそれは容易く避けられムツヤは地面に落下していく。


「お前は何者だ」


 アシノが言うとうーんと男は何かを考え、話し始める。


「私は生まれたばかりの魔人です。名前もありません」


「魔人だと!?」


 アシノの目の色が変わる、ムツヤ以外の皆に緊張が走った。


「名前がないってどういう事だ!」


 ムツヤは魔人ということよりもそっちにツッコミを入れた。


「魔人は突如生まれる者、親も親族もいませんので」


「じゃあ名前を考えてあげましょうか? アンタ変態っぽいわね」


 ルーは、はだけた胸元を抑えながら言った。


「なっ、変態?」


 男はたじろぐ。


「とりあえずスミス辺りで良いんじゃないのか?」


 アシノは興味がなさそうに言う。


「トロールを操っていたし、格好も何か将軍っぽいです」


 ユモトは何気なしに言った。


「うーん、それじゃみんなの意見を合わせて…… あなたの狙いは何?『ドエロスミス将軍』」


「何だその名前は!!!」


 ドエロスミス将軍と名付けられた魔人は雄叫びを上げた。

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