アシノはすっかり孤児院の子供に囲まれていた。
「すげー本物だ!!」
「カッコいい!!」
アシノは照れて顔が赤くなっている。ルーはそれをニヤニヤして見ていた。
「勇者様だったら山賊も倒してくれるんじゃない?」
「そーだ、勇者様だもん」
「山賊?」
アシノは子供たちが言った山賊という言葉が気になり聞き返す。すると子供たちの代わりに孤児院の先生であるカゾノが答えた。
「最近、この付近で山賊が荷馬車を襲う事件が多発しているのです」
「なるほど」
確かに街に活気が無かったなとアシノが納得すると、カゾノは続けて言う。
「荷馬車が襲われるという噂のせいで行商人自体がこの街にあまり寄り付かないようになっていまして……」
「あの、治安維持部隊は何もしていないんですか?」
ユモトが言うとカゾノは首横にを振った。
「警備と巡回は良くやってくれているのですが、捕まえることができないそうで……」
「それじゃあ私達で山賊を捕まえてやるわよ!!!」
ルーがまた勝手なことを言い出す。
「ルーお姉ちゃんが!?」
「すごーい!」
子供たちは喜んで言った。アシノは「また勝手に決めやがって」と言ったが、この状況を見過ごすわけにもいかない。
「それと、みんなご飯にしましょう。ごはんごはんー」
少し痩せ気味な子供たちを見てルーは言うが、カゾノは申し訳無さそうな顔をした。
「今は孤児院も貧しくて、本当は皆さんにおもてなしをしたいのですが……」
「なに言ってんの先生! ごちそうするのは私達の方だから!」
そう言って振り返りルーはウィンクをし、ムツヤ達はうなずく。
アシノは1人浮かない顔をし、ルーに耳打ちした。
「ごちそうするって言ったって…… 食材はムツヤのカバンの中にはたくさんあるが、怪しまれないか?」
「大丈夫大丈夫ヘーキヘーキ」
ルーは余裕そうに言うと、皆に聞こえる大きな声で話す。
「それじゃ私達は山で何か食べられそうなものを持ってくるから待っててねー」
子供たちの元気な「はーい」という声が聞こえた。そしてルーは先頭だって歩いて街から少し離れた人目のつかない場所で立ち止まった。
「みんな、急に決めちゃってゴメンね」
ルーの初めて見せた寂しげな顔に一同は軽く驚いた。
「いいえ、僕達もお昼ごはんまだですし大丈夫ですよ!」
「ユモトの言う通りです。狩りには自信があります」
ルーは泣きそうな顔を作って言った。
「おぉー!!! 心の友よー!!!」
「はいはい、茶番はやめだ。狩りをしなくてもムツヤのカバンの中に山で取れる食い物ぐらい何か入っているだろ」
それもそうかと全員納得をする。
「それじゃムツヤっち美味しいもの出して!!」
「美味しいものって言ったら…… あ、そうだ」
そう言ってムツヤは大きな肉塊を取り出す。
「それって何の肉だ?」
訝しげにアシノは尋ねる。
「えーっと、この間倒した翼竜の肉です」
あの時少しだけ肉を取っておいたのだ。あっけらかんと答えるムツヤにアシノは頭を抱えた。
「お前な、翼竜の肉なんて高級食材出してどうすんだよ…… ついその辺に翼竜がいましたって言うのか?」
アシノから責められるムツヤをルーはかばった。
「肉なんて焼けば一緒よ! わかりゃしないわ!!」
「他にも塔の食べられる魔物の肉があります」
「あーわかった、もうそれでいい。そんで付け合せはどうするんだ? 肉だけってんじゃ味気ないだろ」
旅の食事のためにニンジンやじゃがいも玉ねぎといった食材はカバンに詰めてあるが、いきなりそれらを持っていったら怪しまれてしまう。
残りの食材を街の店で買いたいところだが、商品の入荷が無いからだろうか、高額な上に少量しか売っていなかった。
「山菜を集めるのも手ですが、時間が掛かりますね」
ユモトが言うとルーは腕を組んで考える。その隣でムツヤが思い出したかのようにカバンに手を入れて物を取り出す。
「そうだ、俺が小さい頃に集めていたこれとか食べられるかも知れません」
手に握られていたのは祖父に教わった食べられるキノコと山菜だった。
「でかした、ムツヤっち!!」
ルーは嬉しさのあまり、ムツヤに抱きつく。
「る、ルー殿!!」
「あぁ、ゴメンゴメン。嬉しくってついね」
孤児院から持ってきたカゴに食材を詰めてムツヤ達は帰った。
「まぁ、こんなに」
先生はたくさんの食材に驚きの声を上げる。
「ルー姉ちゃんすげー!!」
「このルーお姉ちゃんと勇者アシノにかかればちょろいもんよ!」
両手を腰に当ててルーは胸を張る。ムツヤ達は孤児院の台所を借りて調理を始めた。
「それじゃあ早速料理をしますね」
そう言ってユモトは山菜の下処理を始めた。なれた手付きで筋や硬い部分を剥ぎ、水につけてアク抜きをする。
モモや孤児院の女中もそれを手伝う。アシノとルーは外でバーベキューの準備をしていた。
「よーし、みんなで枝拾い競争よー!!」
「はーい!」
流石にルーは子供の扱いに慣れている。ヨーリィとムツヤは肉塊をナイフで小さく切り始めた。
外のコンロに火が灯り、その上に網が置かれる。子供たちは待ちきれない様子だ。
「ねぇ、アシノ。お肉がたくさんあるし街の人も呼びたいんだけど」
「勝手にしろ」
「やったー!! みんなー、街のお友達も連れてきなさーい」
返事をすると子供たちは元気よく走り出していった。