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絆 1

「しっかし、どうするか。流石に見殺しにするわけにはいかないしな」


 ノエウとナリアを眺めてアシノは言った。そして諭すようにノエウに語りかける。


「ノエウ、お前1人だけなら逃してやれる。でもそのアラクネ…… ナリアも一緒にはいけない」


「ど、ど、どうして?」


「いいか、ナリアは人の形をしているが、魔物なんだ。お前に助けられて懐いたっていうが、生きるために利用されているだけかもしれないんだ。ナリアには感情がないかもしれない」


「ち、ちがう、ナリアは優しい。今までいきて、いちばんやさしくしてくれた、俺をバカにしないで一緒にいてくれた」


 ノエウはそう言って譲らなかった、アシノもルーも困り果ててしまった。


「行動によって相手が感じた感情が、相手にとっての真実。かぁー、どうしたら良いかしら」


 そんな時だった、ムツヤのペンダントが紫色に光り、邪神サズァンの幻影が映し出される。


「呼ばれてなくても飛び出す邪神、サズァン参上!!!」


「サズァン様!?」


「あ、あなたが邪神様!?」


 サズァンを初めて見たルーは驚いて目を丸くした。


「な、な、なんだ?」


 ノエウもびっくりしてそれを見つめる。


「いやー、はじめましてのお顔が多いわね。まぁ時間が無いからとっとと済ますわよ」


 そう言って咳払いをしておちゃらけた雰囲気を消してサズァンは言った。


「ノエウ、そしてナリア。あなた達が望むのであれば私の住む裏の世界へ連れて行ってあげるわ」


「う、うら?」


 ノエウが言うと朗らかに笑いサズァンは言う。


「簡単に言えば誰にも邪魔されずにナリアと一緒に暮らせるところよ」


「ナリアと?」


 ノエウは信じられないといった顔をしている。


「まー、結界が弱くなってるから人間1人とモンスター1体ぐらいならこっちに招き入れられるってところね」


「お、おれ、ナリアと一緒にいられるならどこでもいい」


「よっし、じゃあ決まりね」


 サズァンが言うとノエウとナリアの足元に穴が空いてそこに落ちていった。


「うわあああああああああ!!!!!」


 ノエウの悲鳴が聞こえなくなった頃に穴は閉じた、そしておもむろにアシノが言う。


「邪神のアンタが何でこんな事をするんだ?」


「あらー私の天敵の勇者さん。私は私のしたい事をしているだけよ。それが邪神だから!!」


「邪神様!! 私も裏の世界を見てみたいです!!!」


 興奮気味にルーは言うとサズァンはクスクスと笑った。


「裏の世界なんてただの田舎よ? でもまぁ、裏の道具の回収が終わったら連れてってあげるわ。それじゃあね」


 そう言ってサズァンは消えていく。




 ムツヤ達はアラクネ討伐を依頼したアサヒの村へ戻らずにそのまま東へ向かう。


 ユモトが「報告をしなくて良いのですか?」と聞いたが、アシノは「放っとけ」と言っていた。


 また道中青い石を埋めて、ムツヤ達は東の街を目指す。


「今度行く街は『イタガ』って言って私の育った街なんだー、久しぶりに帰るから楽しみー!」


「へぇー、そうなんですね」


 野営の準備中ルーが笑顔ではしゃぎながら言うとユモトは相槌を打った。


 パチパチと燃える焚き火を囲んでムツヤ達は何気ない話をする。


 次の日になり、一行はイタガの街を目指す。前衛のモモとユモトは修行の成果が出ているようで、軽やかにモンスターを片付けていく。


 そうしている内に遠くに街が見えた。


「あー、あれあれ!! 懐かしー!」


「嬉しそうですねルー殿」


 ニコリと笑ってモモは言う、ルーは身長の低さも相まってはしゃぐ子供のようだった。


 しばらく歩き、ルーは街の目の前に来るとそこら中を見て言う。


「うんうん、どこも変わってない。忙しかったから1年ぶりかなー。私の実家に案内するわ」


 街を歩きながらルーは知り合いに片っ端から挨拶をして回った。そして街の奥の大きな建物へ向かって歩いて足を止めた。


「ここって……」


 ユモトは建物の看板の文字を読んで思わず言葉に詰まってしまう。


「そう、ここが私の実家よ!!」


 看板には『イタガ孤児院』と書かれていた。


「私ね、この門の所に捨てられてたんだって!!」


 笑顔で物凄く重い話を始めて、いつも表情の変わらないヨーリィと事情を知っているアシノ以外はみんな呆然としていた。


「そ、それは……」


 モモは何か言葉を探したが、なんと言えば良いのかわからない。


「あぁ、孤児院育ちだから可愛そうだとか、そういうのは思わなくて大丈夫だからね。気を使われるとこっちもどうして良いかわからないし」


 ルーはくるりと身を返して孤児院を見上げた。


「ここには先生もいるし、ここにいる子はみんな私の姉弟なの」


「あー、ルーお姉ちゃんだー」


 1人の子供がルーを指差してこちらへ走ってくる。


「おー、ターロ元気にしてた? ちょっと大きくなったんじゃない?」


「誰かと思えば、おかえりなさいルー」


「カゾノ先生!!」


 ルーが先生と呼んだ相手は初老の女性だ。ムツヤ達は言葉を交わしたわけでも無いのに慈悲深い優しさが伝わってきた。


「そちらは旅のお仲間かしら?」


「そう、みんな元気よく挨拶して!」


 ルーに言われてみな簡単に挨拶をする。


「ムツヤ・バックカントリーです、こんにちは!」


「モモと申します」


「あ、えっと、ユモト・サンドパイルです」


「ヨーリィです」


 みんなが挨拶を終えた頃に気まずそうに頭をかいてアシノは言った。


「アシノ・イオノンです」


「あら、その赤い髪とお名前……。 もしかして勇者アシノ様ですか?」


「えっと、まぁ、そんな感じです」


 アシノは顔を赤らめて視線を外して言う。


「すげー!! 勇者だ!! みんなー勇者が来たぞー!!」


 ターロと呼ばれていた男の子は孤児院の中に入ってみんなを呼び出していた。それを見てアシノは頭を抱える。

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