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剣を握る資格は 2

 モモとムツヤの2人は森を出て家へと帰った。


 家の前ではユモトとヨーリィが修行をしている。


「あ、おかえりなさい」


 ユモトは笑顔で2人を迎えた。そんなユモトにヨーリィはタッと近づいて首元に木の杭を向ける。


「ユモトお姉ちゃん、訓練中に気を抜かない」


「あー、ごめんね、でもお姉ちゃんじゃないからね?」


 いつも見ているようなやり取りをモモは笑って見ていた。そして家に入り、居間へと向かう。


「おー、若人諸君おデートはどうだったかな?」


 居間ではルーがソファに寝転がりながら探知盤を眺めていたが、視線を逸して2人に声を掛ける。


「る、ルー殿、別にデートというわけでは!! ただの散歩です」


「さーんぽにしてはー? ちょっと遅かったんじゃない?」


 ルーは相変わらずニヤニヤとして言った。


「その辺にしておけ」


 アシノはルーの頭を押さえつけると、ルーは「ふべちっ」と変な声を上げる。


「ギルスの姿が見えませんが」


「ギルスなら地下でけんきゅーちゅー、私はきゅうけーちゅー」


 クッキーをモゴモゴと食べながらルーは話した。そして飲み込むとソファから立ち上がりうーんと背伸びをする。


「モモちゃん、次は私とおデートするわよ!! 特訓よ特訓!!」


 ルーは意味ありげにウィンクをして、モモは何かを悟り返事をした。


「わかりました、よろしくお願いします」


 ルーとモモは外へ出て、部屋にはムツヤとアシノの2人きりになる。


 気まずい沈黙がしばらく続いたが、ムツヤがそれを破った。


「アシノさん、その……」


「なんだ?」


 ソファに座って紅茶を飲みながらアシノは答える。


「その、えっと」


「ハッキリと言え」


 ムツヤは固唾を飲んで絞り出すように言った。


「アシノさんは…… 人を…… 斬ったことがありますか?」


「あぁ、あるぞ」


 さも当たり前のようにアシノは言う。


 ムツヤは質問をしたは良いが、それ以上何を言えば良いのかわからなくなってしまい、言葉に詰まる。


「斬ったことも、首を飛ばしたこともある」


 紅茶を飲みながら、まるで何気ない日常会話のようにアシノは話し続けた。


「山賊や狂人、腕試しで私に挑んできた奴。まぁ色々いたわな」


 茶菓子のクッキーに手を付け、サクサクとアシノは食べている。


「初めて斬ったのは強盗団だな、ちょうどお前と同じぐらいの年の頃かな」


 アシノはムツヤに根掘り葉掘り聞かれたわけでもないのに、聞きたかったことをほぼ全て話してくれた。


「その、初めて人を斬った時って…… アシノさんはどんな気持ちになりましたか?」


 そう恐る恐る聞くと、アシノは急にハッハッハと笑い始め、ムツヤは驚く。


「いやー、新米の冒険者ってよくその質問するんだよな」


 一通り笑い終わるとアシノはさっきまでのそっけない態度ではなく、ムツヤの方を向いて話し始めた。


「初めて斬ったのはさっきも言った通り強盗団だ。偶然だったんだが、滞在していた村に強盗団が来てな、その下っ端が襲いかかってきたから斬り伏せたよ」


 そこまで言ってアシノは紅茶を一口飲む。


「そん時は私も必死だったから、その後も村の警備隊と一緒に戦って3人は斬り殺した。戦ってる間は特に何も思わなかったよ」


 アシノはふぅーっとため息を吐く。


 ムツヤは真剣にアシノの言葉を聞くだけでなく、一挙一動を見つめていた。


「それで、後になって強盗団の死体を村外れの1箇所に集めたんだ。その時、もちろん私が殺した奴もいてな、それを見た時は……」


「正直、怖くなった」


 寂しげな目をしてアシノは言う。


「もちろん村の奴らにも警備隊にも感謝され、英雄扱いされ、冒険者の先輩からも『初めてで3人も仕留めるなんて上出来だ』って褒められたよ。でも素直に嬉しくはなれなかった」


 アシノは軽く苦笑いをする。そんなアシノの表情をムツヤは初めて見た。


「一段落してもその夜は眠れなかった。魔物じゃない、人と命のやり取りをした興奮と恐怖、斬った感触と血しぶきが上がる光景が頭にこびりついて忘れられなかった」


「アシノさん……」


「だが、降りかかる火の粉は払わなけりゃならない。それに、覚悟を決めて敵を殺さなきゃ…… 自分や仲間が死ぬことになる」


 最後の言い方にムツヤは何か引っかかるものをを覚える。


「自分や、仲間がですか?」


「あぁ、長く冒険者をやってると、な」


 フッと寂しげに笑ってアシノは話す。


「昨日まで一緒に旅して、酒のんで。なんなら朝飯も一緒に食った奴と突然、二度と話せなくなるんだ」


 ムツヤの頭には、モモやユモト、ヨーリィ、ルーの顔が思い浮かんだ。


「人殺しになれとは言わない、だが、剣を持つ以上覚悟はしておけ」


 そこまで言うとアシノは立ち上がった。


「ふん、説教なんて慣れないことしちまったな、私は部屋で昼寝でもするわ」


 アシノはそう言ってムツヤに背を向けて軽く右手を上げた。その背中にムツヤは声を掛ける。


「あの、アシノさん!!」


 返事もせずアシノは立ち止まった。


「その、ありがとうございました!」


 アシノは振り返らず右手を軽く上げて、そのまま居間を出ていってしまう。


 ムツヤは外に出てみる。モモはルーの出した精霊を相手に戦い。ユモトは雷の魔法でヨーリィと戦っていた。


「おー、ムツヤっちー! お話終わったー?」


 ルーはふざけている様に見えてすべてお見通しだったらしい。「はい」とムツヤは返事をする。


「何かムツヤっちイケメンになった? 顔がシュッとして凛々しくなったっていうか?」


 ルーは下からムツヤを覗き込みながら言った。


「まぁいいわ、みんなー休憩よー休憩ー」


 ルーが言うと皆戦いをやめてふぅと一息つく。そんな1人ひとりをムツヤはじっと見める。


「あらー、ムツヤっち私のことじっと見てどうしたの? 惚れちゃった?」


「ルー殿……」


「やだ、モモちゃん嫉妬してる! 禁断の三角関係!?」


「しっ、嫉妬って何ですかルー殿!!」


 わいわいとふざけるルーと顔を赤くしているモモを見てムツヤはハハハと笑った。


「賑やかですね」


 ユモトはムツヤに近づいて言う。ヨーリィは我関せずといった感じで家の中へと、トテトテ歩いて帰る。


「えぇ、本当楽しいです」


 ムツヤは言って一瞬目を閉じた。こんな日常を守るためだったら自分は、皆を守るために剣を握ろうと。


 そう思っていた。

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