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ギルスを仲間に 1

 6人は銭湯を出て町外れのギルスの店へと向かった。


 さきほど襲撃を受けたばかりなのでルーは探知盤を持って歩いている。幸いにも反応は無かったが。


 しばらくしてギルスの店へとついた。ドアを開けるとカランコロンというドアチャイムが迎えてくれたが、店主はコチラを見るなり不機嫌そうだった。


「よう、いらっしゃい。赤髪の勇者」


「だからその呼び名はやめてくれ」


 アシノは額に手を当てて言った。そしてその隣にムツヤは立ち、カバンから重そうな麻袋を取り出しカウンターにドンッと置いた。


「なんだコレ…… ってまさか!?」


「そうだ、お前が言った100万バレシだ」


 ギルスは麻袋を開けて中身を確認する。確かに金貨が山程詰まっていた。


「何だ、本当に用意したのか? あんたの貯金か?」


「いや、私の金は魔人を倒すためにほとんど使っちまった。コレは翼竜を倒して手に入れた」


「翼竜だと!? いや、勇者なら簡単か……」


 そこまで聞いて、気まずそうにアシノは打ち明ける。


「あー、そのだな…… 私は事情があって勇者としての力や技術ってのは全部失ったんだ。倒したのはほぼムツヤが1人でだ」


「本当なのか?」


「あぁ、本当だ」


 ギルスは頭を抱える、全てが信じられない話だが、現実に起きているのだから信じるほか無い。だが頭が追いついていないのだ。


「分かった、いくつか質問をさせてくれ」


 ギルスは店を閉めて自分が納得できるまで何度も質問をした、それに対してムツヤ達は包み隠さず全てを話す。


 アシノの能力のこと、ヨーリィの生い立ち、ムツヤの昔話を補完しながらもう1度おさらいもした。


「あーもう、信じられねぇが信じるしかねぇじゃねぇか!」


 枯れ葉に変わるヨーリィやムツヤが次々取り出す裏の道具を見てギルスは叫んだ。


「もう分かった、金も用意されちまったし、道具の研究をしてやるよ」


「本当でずか!?」


 ムツヤはパァーッと明るくなり、他の仲間もほっと胸を撫で下ろした。


「それに、俺もやっぱ研究が好きだしな」


 ちょっと照れてギルスは言う。ルーはニヤニヤとそれを見逃さない。


「あらー、ギルス満更でもない感じじゃない?」


「う、うるせぇ」


 -とにもかくにもギルスが仲間になった!-


 ギルスはムツヤ達に連れられて冒険者ギルドへと連れられた。アシノが受付に話をしてギルドマスターのトウヨウへ面会を取り付けた。


 7人はギルドの応接室へ通され、扉を開けるとトウヨウが座って待っている。


「ギルスか、久しいな」


 ポリポリと頭をかいてバツが悪そうにギルスは返事をした。


「いやぁー、まさか冒険者ギルドに加入することになるとは思いませんでしたよ。トウヨウさ…… いえ、ギルドマスターとお呼びしたほうが良いですかね」


「あぁ、ギルドマスターと呼んでくれ」


 散々誘いを断っていたが、過去のことはお互い水に流すようだ。アシノは椅子が足りないのでトウヨウの隣にドカッと座った。


「それで、ギルスを仲間にしたわけだが、どうするんだじいちゃん」


「あぁ、そうだな。本来であれば研究はルーが使っていたギルドの研究室で行ってもらいたいのだが、他の研究員や冒険者に気づかれる可能性がある」


「っと言うことは、また離れの訓練所生活ですか?」


 ルーはいつになく真面目な顔をして言う、トウヨウはうむと頷いた。


「申し訳ないが、護衛は自分達で行いながら研究を行ってもらいたい」


「こりゃ店は長期休業だな、まぁ金は沢山貰ったんで生活には困りませんがね」


 ギルスはハハハと笑いながら言った。モモとユモトは今度こそ自分達が守らなければと覚悟を決める。


「了解、そんじゃ帰るか」


 受付嬢がお茶を用意する前に話はまとまった。アシノ以外は全員トウヨウに軽く1礼して部屋を出る。


「アシノ」


 最後にアシノが扉を閉めようとした瞬間トウヨウが呼び止めた。アシノは振り返らないまま動きを止める。


「最近のお前は生き生きとしているように見える、私はそれが嬉しい」


「気のせいじゃねーの?」


 トウヨウの顔を見ずにアシノはバタンと扉を閉めた。途中すれ違った受付嬢は「もう終わっちゃったんですか!?」とお茶を持ったまま驚く。


 せっかく淹れてもらったお茶を飲まないのは失礼なので、ギルドの待機所でお茶を頂いてから帰ることにする。


「ねぇねぇアシノ、さっき最後ギルドマスターと何か話してなかった?」


「別に、何も」


 アシノは素っ気なく答えた。


 ギルスを連れて訓練所もとい家に戻る。


「それじゃあ僕、何か簡単に作ってきますね」


「私も手伝うぞ」


 帰るなりユモトとモモは台所へと消えた。残ったムツヤ達は探知盤についてギルスに説明をする。


「この探知盤なんだけどねー、この歯車で調整が出来て、魔力の波長を合わせるともっと遠くまで見渡せるの。その調整したやつはキエーウに持っていかれちゃったんだけどね」


 ルーは探知盤をギルスに渡す。ギルスは下から覗き込んだり、横の歯車をクルクルと回したりと軽くいじってみた。


「なるほどね、こりゃ複雑な魔道具だ。鑑定の道具は一式持ってきたから、研究室とやらで見てみるよ」


 それからは、知りうる限りの裏の道具と効果をムツヤはカバンから現物を取り出しながら説明する。しばらくそうしていると、ユモトとモモが食堂に戻ってきた。


「お待たせしました、ご飯ができましたよー」


 簡単に作ると言っていた割には豪華な昼ごはんが出てくる。よくこの短時間で作ったなと皆で感心した。


「ありがとう! それじゃ食べましょう、いっただきまーす!」


 取りとめのない話をしながら食事を済ますと、早速ムツヤとギルスとルーは地下の研究室へと行った。他の皆は警戒と訓練をする。


「ようこそ、私の研究室へ!」


 ルーは手をバッと広げて言った。


 機材は倒れて棚は漁られてお世辞にも綺麗とは言えない場所だったが。


「それじゃあこの探知盤って奴を調べてみたいんだが、ムツヤくん、予備ってあるかい?」


 椅子に座り、ギルスは言うとムツヤは頷いてカバンから探知盤をもう1つ取り出した。


「これ、たくさんあるんで」


「そりゃ頼もしい。それじゃ1つ分解して調べても大丈夫だな、悪いけどそれ研究用に分解させてもらってもいいかい?」


「はい、どうぞ」


 ムツヤは探知盤を1つギルスへ手渡した。「ありがとう」と言ってギルスはそれを受け取る。


「それじゃあ俺はルーと一緒にコレの研究をするから、ムツヤくんに聞きたいことが出来るまで外で好きにしてて良いよ」


 それを聞いてルーはニヤニヤとした。


「あらー? 私と地下室で2人っきりになりたいの?」


「アホか、ただ助手が欲しいだけだ」


 助手と言われてルーは悔しがる。


「ちーがーうー! 助手はギルスの方でしょ!?」


「いいや、お前だ」


「やー!!!」


 騒がしい2人に苦笑いをしてムツヤは研究室を後にした。

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