「あぁー、生き返るわぁー」
女湯は人がおらず貸切状態だ。湯に浸かったルーは開口一番に言うと、アシノは隣にちゃぷんと入って呆れていた。
「ババ臭いぞルー」
「ババ臭いって何よー」
モモとヨーリィもトプンと湯に入ると、じんわりとした温かさが身に染み渡る。
「っくー…… でも本当に、良いものですね」
「でしょー? お風呂来てやっぱ正解だったって!」
ルーはぐっと親指を立てて、チャプチャプと半泳ぎでモモの正面にやってくる、そしておもむろに。
「ふんっ」
両手で胸をわしづかみにした、突然のことに驚くモモ。
「ふみゃっ、ん、な、何をするのですか!!」
わさわさと揉まれて変な声が出た、ルーはニヤリと笑う。
「お主、なかなか良いモノを持っておるのう」
「気を付けろー、そいつセクハラ大好きだから」
アシノは面倒くさそうに言う。モモは腕で胸を隠してしまった。
「隠さなくても大丈夫よモモちゃん、映像化したあかつきには謎の光が守ってくれるから」
「まーた何を意味分からないこと言ってんだ、おとなしく風呂ぐらい入れ」
ルーの暴走はまだまだ続く、次の標的はヨーリィだ。
「ヨーリィちゃんはツルッツルね、肌がよ、肌!! そしてこっちはまだ成長中って感じがしてなんとも」
ヨーリィを後ろから抱きしめてルーは言う。抱きしめられている本人は顔色1つ変えずにいたが。
「いい加減にせい!!」
「あばし!!」
アシノのチョップを食らってルーは湯に沈む。
「それにそんなでかい声で騒いでたら男湯に聞こえんぞ」
それを聞いてモモはあわあわと湯で赤くなった顔を更に赤くしていた。
一方コチラは男湯、客はちらほら居たが、視線がユモトに集まっているのは気のせいだろうか。
ユモトは気まずそうにお湯に浸かっている。その最中先程の会話が女湯の方から壁一枚隔てて聞こえてきた。
「あ、あの、あっちの方凄そうですね」
もじもじとしてユモトが言う、顔を赤くして恥じらっている姿は美少女のようだ。
「みんな楽しそうで良いんじゃないですかねー」
初めて入る大きな風呂にムツヤは満足そうだったが、そのゆったりとした時間をぶち壊す声が脱衣所の方から聞こえてきた。
「てめぇ、泥棒かー!!!」
番台は警戒していた、この道50年の感が告げている。あの男は何かやると。
ムツヤ達が浴場に入った後にやってきた男、どう見ても不審だ。番頭は目の端でその男の行動を見ていた。
男は周囲を警戒しながら客の荷物に手を伸ばす。
「てめぇ、泥棒かー!!!」
その瞬間、番頭は足元から桶を取り出してブゥンと投げる。
まっすぐに飛んだそれは男の顎にぶち当たり、男は客のカバンを掴んだまま床に倒れる。
「男の人呼んでぇー!! 誰か男の人呼んでぇー!!!」
番頭はそう叫びながら男を取り押さえようとする。その声を聞いてムツヤは脱衣所に走った。
「ムツヤさん!! せめて、せめてタオル巻いて下さいタオル!!」
ユモトの叫びも虚しく、ムツヤは全裸で脱衣所に出る。そこには自分のかばんを持ちながら立ち上がりかけた男が。
「あ、俺のカバン!」
まずいと男は逃げようとするが、出口には番台が桶を両手に持って恐ろしい顔で立っている。
無理、勝てない。
そうだと男は赤いのれんをくぐって女湯へ逃げ込んだ。窓から逃げるなり、人質を取るなりすれば良いと。
「待て!!」
「ムツヤさんそっちはだめぇ!!!」
「お、お客さん!? ちょっ、お客さんが待って!!」
ムツヤは赤いのれんをくぐった、一糸まとわぬムツヤはそのまま浴場へと逃げる男を追いかける。
男が浴場の扉を開けた所でムツヤは飛び付いて押さえつけ、そのまま滑って浴場の床に突っ伏した。
「捕まえたぞ!! お前はキエーウか!? カバンを返せ!!」
男は背中のムツヤを睨むがハッと殺気を感じて前を見る。
「ムーツーヤー?」
「あら、いやん、エッチぃ!!」
「ムムムムムツヤ殿!!!」
正面から桶と悲鳴が飛んでくる。ムツヤと男はそれぞれクリティカルヒットを喰らい、撃沈した。
【緊急クエスト泥棒を捕まえろ!】 -犠牲者1人-
ムツヤのカバンを盗もうとした男は治安維持部隊に引き渡された。
ムツヤも女湯に素っ裸で入り込んだが、状況が状況であったのと、身内だけだった為お咎めなしだった。
湯あたりでなく、クリティカルヒットした桶で伸びてしまったムツヤは着替え終わったアシノとヨーリィに手足を持たれて脱衣所に放り投げこまれた。
「じゃあユモト、後は頼んだ」
「た、頼んだって…… 大丈夫なんですかムツヤさん」
「大丈夫だろ、多分」
ユモトは申し訳程度に腰にタオルを巻かれたまま気絶しているムツヤを引きずって長椅子に寝かせて体を拭いた。
「うぅーん……」
拭き終わる頃にムツヤは目を覚ました、とりあえずユモトはホッとする。
「あっ、ユモトさん!」
「良かったぁ……」
「カバンは大丈夫ですか!?」
「はい、カバンは無事ですし、盗もうとした男は逮捕されていきました」
ムツヤも良かったとホッとする。そして着替えて脱衣所を出た。
「おーっす変態」
ジト目でムツヤを見つめてアシノは言う。
「あ、アシノ殿!? あの状況下では仕方が無かったと思います!」
慌ててモモはムツヤを庇う。ルーはプンプンと怒っていた。
「キエーウがまさか銭湯の女湯にまで入ってくる変態だとは思わなかったわ」
「まぁ、どこから付けられていたか知らんが、これからはもっと用心しねーとダメだな」
アシノは少し浮かれていたと反省をした。相手も必死だ、いつも気は抜けないと。
「まーいいわ、ほら、皆!! 銭湯って言ったら牛乳よ牛乳!!」
そう言ってルーは売店へと向かう。
「皆は普通の牛乳とコーヒー牛乳とフルーツ牛乳のどれがお好み?」
「私はコーヒー」
「えっと、私は普通ので」
アシノとモモはそれぞれ牛乳の瓶を手に取った。氷の魔法でキンキンに冷えてやがり、火照った体には気持ちが良い。
「僕はフルーツにしようかなー」
「俺もそれ飲んでみたいです」
「私はお兄ちゃんと一緒で良い」
3人は同じフルーツ牛乳を手に取った。
「へい、番頭さん! 6本分頂戴!」
「ありがとうございます」
ルーは会計を済ませるとビンのフタを開けてムツヤに説明する。
「良い? ムツヤっち、この銭湯の牛乳飲みには厳しい掟があるの」
「掟…… ですか?」
ムツヤは神妙な顔になり、ルーを見つめる。
すると、おもむろに腰に手を当ててコーヒー牛乳をゴクゴクと一気飲みし始めた。
「っぷはー!! さいっこう! こうして飲むのよ」
「なるほど……」
真似をして腰に手を当ててフルーツ牛乳を一気に飲み干そうとする。が、途中でむせてムツヤは咳き込んだ。
「大丈夫ですかムツヤ殿!?」
咳が止まったムツヤの鼻からは逆流した牛乳が一筋流れていた。
「ちゃららーん、鼻から牛乳!!!」
ルーはムツヤを指差して笑う。