翼竜を倒し、6人はスーナの街へ戻っていた。山道を超えた疲れからか、ヘトヘトで門をくぐり冒険者ギルドを目指す。
受付嬢にアシノは翼竜討伐達成と、2匹いた事を報告している間、残りのみなはギルドの椅子でぐったりとしていた。
「うううーん!! 疲れたもぉー!!」
ルーは大きく背伸びをして言った。同調するようにユモトも頷く。
「疲れましたね……」
足をバタバタさせてルーは駄々をこねる。
「すっごいキツかった!!! もうすっごいキツかった!!!!」
「本当、山道は普段慣れているとはいえ、大変でした」
モモもうんうんと頷くが、それに対してルーはブンブンと首を振る。
「ちーがーうーでーしょー? 山道なんかより翼竜とのあの激しい戦い、私なんて食べられそうになったんだから!!」
ハッとモモは気付く、うっかりしていた。
翼竜はアシノとルーが主戦力として戦って、自分達はサポートをしていたという事に話を合わせようと言うことになっていたのだ。
「そ、そうでしたね、私達と違ってルー殿とアシノ殿は前線で翼竜と戦っておられたのだからさぞかしお疲れのはず」
モモは嘘が下手だった。大きな声で周りに聞こえるように、だが早口気味、そして棒読みで話す。
そんな話を聞いていたのかいないのか、そうだと突然ルーは立ち上がって目を輝かせて言う。
「ねぇねぇ! 皆でこの後お風呂入ってさっぱりしていきましょうよ!! この時間なら空いてるし!」
今は朝方なので、近くの銭湯はあまり客のいない時間帯だ。確かに、数日風呂にも入らず歩き回った疲れも汚れも落としたいとモモも思った。
「騒がしいやつだな」
アシノは報告を終えて面倒くさそうに帰ってくる。
「アシノ、お風呂行くわよ!」
あーっとアシノも少し考えた。ルーにしては悪くない提案だ。
「だけど着替えねーだろ」
「その辺は大丈夫でしょ、ねー? ムツヤっち?」
「えっ? あっ、はい」
半分寝ていたムツヤは我に返って返事をする。
「よーし、決まり銭湯へゴー! イこうぜ☆銭湯!!!」
ルーはノリノリで言って拳を天高く突き上げた。
ムツヤのカバンを借りて女性陣はギルドの小さい会議室に集まった。
「よーし、何か服出ろ服出ろ」
ルーはそう言いながらカバンに手を突っ込む。すると手に布の感触がする。
「よーし、これよ!」
ルーは上質なブラウスを手に入れた。こんな調子でポンポンと適当に服を出していく。
「こんなもんかしら、後は好きなもの持ってってー」
机の上には服の山が出来ていた。それではと、モモはゴソゴソと自分の体に合いそうな服を選ぶ。
「私の服は大丈夫です、魔力で出来ていますから」
ヨーリィはそう言うが、ふるふるとルーは首を横に振った。
「脱いだ瞬間枯れ葉に変わっちゃったら見てる人びっくりするでしょ? ヨーリィちゃんはここで着替えていってね」
ノリと勢いで銭湯へ行こうと言ったのかと思ったが、ちゃんとそこら辺は考えてんだなとアシノは感心する。
「なんならー? 私が選んであげようか?」
「私はどれを着ればいいのかわからないので、お願いします」
目を輝かせてどれにしようかなーとルーはヨーリィの服を選ぶ。ふとアシノはある事に気付いた。
「なぁ、これってムツヤが集めたわけだよな」
「ムツヤっちじゃなきゃ誰が集めるってのよ」
面倒くさそうにルーは答えた。
アシノはもう一度質問をする。下着を片手に持って。
「ってことは、その…… コレなんかもムツヤが集めたって事か?」
ちょうど服を見繕って、自分のサイズに合いそうな下着を手に持っていたモモはかぁーっと赤面していった。
「あなたのような勘のいい勇者は嫌いよ、細かいことは気にしないの!!! 勇者でしょ!?」
あわあわあわとモモは下着を落としそうになっている。
「まぁー…… アイツのことだから目についたもん全部拾っただけだとは思うし、別にその辺は気にしないけどよ」
うんうんと頷いてモモは下着を握りしめた。
女性陣は自分の荷物入れに服を仕舞い、残りはムツヤのカバンに詰め込んで部屋を出てくる。
一番最後に出てきたヨーリィは普段の黒い服ではなく、白を基調としたドレスを着ていたのが新鮮だ。
「おまたせ。お前たちの分は適当に選んどいたぞ」
そう言ってアシノはムツヤとユモトに折りたたんだ服を渡す。
「あ、助かります! ありがとうございます」
「ありがとうございまず」
「よーし、お風呂にいっくぞー!」
ルーはノリノリで言う、アシノは呆れた風を装っていたが、内心楽しみではあった。
ムツヤ達は冒険者ギルドを出て銭湯へと向かった。賑やかな中央通りを抜けて
「昔はよくお父さんと一緒に行っていたんで、何だか懐かしいです」
ユモトは眩しい笑顔で楽しそうに言う。
「私も何度か行ったことはあったが、久しぶりだな」
モモも大きな風呂は久しぶりなので楽しみだった。銭湯へつくとのれんを開けて中へ入る。
「いらっしゃい、おぉ、勇者様じゃねぇか」
番台の老けた男がアシノを見るなり言った。少し照れてアシノは返す。
「いや、勇者様はやめてくれ」
「大人5人と子供1人ねー」
ルーはそう言って全員分の金を置く。はいはいと番台の男はそれを数える。
「確かに、左が男湯で右が女湯ね」
ぞろぞろと歩いていくムツヤ達を見て「ん?」と番台の男は首をかしげて、慌てた。
「ちょっとちょっと、お嬢ちゃん!? そっちは男湯だって!!」
あー…… と女性陣は声を出した、他の客も思わず何事かとユモトを見て視線が集まる。ユモトは顔を赤くして言う。
「あ、あの、僕は男です!! えーっと、ゴラテって人覚えていませんか? その息子で……」
うーんと番台の男は考え込んで、おぉっと手を叩く。
「あぁ、ゴラテさんの!! 確かに亡くなった嫁さんそっくりだわ! いや、悪ぃな、お嬢さんにしか見えなくってなぁ……」
「いえ、いいんです。慣れてますから……」
そんなやり取りがあり、男湯の脱衣場にムツヤとユモトが入る。客は少なかったが、ユモトを見るなり皆ギョッとした顔をしている。
「あ、あの、僕なんていうか、来ちゃいけなかったんじゃないかなーって……」
ユモトはもじもじとしてムツヤに言う。
「いや、ユモトさん男ですじ、女の人のお風呂行ったらまずいですよ」
「そ、そりゃそうですけど!!」
「ははは、大丈夫ですよー。ここに服入れればいいんですか?」
ムツヤは笑っていたが、ユモトはうーんと唸っていた。
「そうです、そこに服を入れるんですが」
ムツヤはさっさと服を脱ぎ始めた、それに習いユモトももぞもぞと服を脱ぎ始める。客の視線が集まっているのは気のせいだろうか。
ローブを脱ぐと雪のように白くきめ細やかな肌があらわになる、黒いインナーとのコントラストが相まってそれはより映えた。
ユモトはインナーと下着に手をかける。
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象は、哺乳綱ゾウ目ゾウ科の総称だ。我々の世界でもアジアゾウとアフリカゾウ、それとマルミミゾウの、2属3種がおり、これらは現生最大の陸生哺乳類である。
そしてムツヤ達の住む異世界でも生息が確認された。