ヨーリィは表情一つ変えずに仰向けの状態で、上半身だけが床に転がっていた。
「申し訳ありません、あの魔法の中に紛れて攻撃用の魔法も打ち出されていたようです」
ムツヤがヨーリィを抱きかかえて魔力を注入している後ろで、モモは失礼しますと言いアシノとルーの頭をハリセンで引っ叩く。
アシノはまた無言で立ち上がり、オホンと軽く咳払いをしたが、自身の醜態を晒したせいか顔が赤くなっている。
そしてルーは正気に戻ったはずなのに叫び声を上げた。
「あー!!! 地下は、地下の私の道具ちゃん達は無事なの!?」
全員に緊張が走る。ルーが一番先に階段を駆け降りてまた大きな叫び声を上げた。
「ない、ないなーい!!! 私の裏の道具が無い!! ついでに私の着替えも無くなってる!! パンツ盗まれた!」
ムツヤ達も階段を降りて地下へ向かうと、そこは無残に荒らされており、裏の道具と勘違いされたのかルーの着替えの服まで持っていかれたようだ。
「やられた」
アシノは頭を抱えて短く一言だけ言った。暗く荒れた地下室に数秒沈黙が流れる。
「申し訳ありません、家を守ることが出来ませんでした」
「僕もっ! 僕も守らなくちゃいけないのに…… すみませんでした」
モモが頭を下げると、それに続いてユモトも謝罪をする。
「いや、良いんだ。むしろ謝るのは私達の方だ。奴らを取り逃したせいでお前達を危険な目に合わせてしまった」
気を使ってアシノが言った言葉だが、モモは自分の無力さが余計に情けなくなり唇をかみしめていた。
自分は強い戦士だと思っていたのに何の力にもなれず、身の安全を心配される事が恥ずかしい。ユモトも同じような感情がこみ上げている。
「はいはい、反省会は後で! ムツヤっち、探知盤を出して!」
ルーに言われてハッとしたムツヤは急いで探知盤を出す。魔力を込めてそれを起動させると二人は覗き込んだ。
「あー…… 改良してない探知盤だからそう遠くまで見えないわね、もうアイツ等は探索できる外に行っちゃったわ」
アシノは腕を組んで目をつぶり、何かを考える。
アシノは皆を家の居間に集めた。
机の上には探知盤とユモトが淹れた全員分のお茶がある。
「私は正直、キエーウ相手ならばもっと楽に戦いが出来ると思っていた」
気まずそうにアシノ以外は誰一人として話をしない。あのルーですら真剣な顔をして聞きながら何かを考えている。
「申し訳ありません!! 私の力及ばずでっ!」
モモはそう言って頭を下げるが、それに対してアシノは首を横に振った。
「違う、お前たちは悪くない。悪いのは状況を甘く見ていた私だ。まさか昨日の今日でここまで執拗に裏の道具を狙って…… 本拠地にわざわざ攻めてくるとは思わなかった」
お茶を一口すすり、アシノは続けて言う。
「アイツ達の行動には焦りも見える、恐らく立て続けにまた襲ってくるだろう」
「うーん、流石に毎日来られたら私も消耗がキビシーかも」
ルーは右手で頬杖してどことない宙を見上げた。
「そこで、だ。こっちも道具を扱うプロを仲間にしたいと思う。それで対抗する何かを見つけたい。じいちゃん…… ギルドマスターには明日私から話す」
「なーにー? 道具の研究者は私だけじゃ不満ってわけ?」
そっぽを向いてルーは不機嫌そうな顔をする、アシノは「はぁ」とため息をついてルーをなだめる。
「お前は戦いに専念して、できればユモトとモモの教育も急いで頼みたい。魔道具の研究はこの一件が落ち着いたらゆっくりと地下室に籠もってすれば良いだろう?」
「それもそうだけどさー」
ルーはむくれている、そしてそのままアシノに尋ねた。
「そこまで言うならちゃんとしたプロがいるっていうの? 今ギルドに居る人達は確かに優秀だけど、正直王都の研究員と比べたら足元にも及ばないわよ」
アシノはまたお茶を飲みながらルーの話を聞いていた、そしてカップを置くと話し始める。
「その王都の研究員様に頼むんだよ、『元』だけどな」
ルーの顔がピクッと動いてアシノをジーッと見つめた。
「ギルス?」
聞き覚えのある名前が出てきてモモとムツヤも思わず反応した。会話に置いてけぼりだったモモが口を開く。
「あの、ギルスって言うと街の武器屋の……?」
「あぁ、知っているのか。そうだ、あの変わり者ギルスだ」
「ギルスさんなら知っています!」
ムツヤも声を出した、それに対しアシノは「そうか」と短く返すだけだ。
「とにかく今日はもう休もう、明日にならないと始まらない。見張りは私がやる」
「んーん、アシノも休んでいていいよ。私、夜の方が元気だし、それに探知盤使えるの今の所ムツヤっちと私だけだから」
それならばと、全員その言葉に甘える形で休息を取ることにした。
それぞれが部屋に戻ったが、思うように眠れず物思いにふける。