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いわゆる日常生活 1

 ユモトの朝は早い、誰よりも早く目を覚ますとうーんと唸って背伸びをする。


 寝間着から部屋着に着替えてエプロンを身につけた。向かう場所は台所だ。


 鼻歌交じりに葉っぱをちぎり、ほぐした油漬けの魚の身を散らしてサラダを作る。


 次はスライスした食パンをレンジで軽く温め、その間にフライパンにベーコンを並べ、上に卵を落としベーコンエッグを作った。


 昨日仕込んでおいた野菜と豆のスープも火にかければごきげんな朝飯の完成だ。後は盛り付けてみんなを起こしに行くだけである。


「おはよう、すまないなユモト」


「おはようございます。好きでやっている事ですから」


 ユモトはモモに笑顔で返した、そのままムツヤ達を起こしにユモトは廊下を歩く。


 まずはアシノの部屋をノックする。


「アシノさーん、朝ごはんが出来ましたよー」


 少し遅れて「わかったー」と返事があった。


 部屋の中でアシノは寝間着のローブが崩れたまま、肩を出したまま眠そうに目をこすっていた。


「ムツヤさん、ヨーリィちゃん、おはようございまーす」


 何度ノックをしてもムツヤは起きなかった。仕方がないので失礼しますと言ってドアを開ける。


 ベッドの上ではムツヤとヨーリィが向かい合って寝ていた。そのヨーリィの表情はすっかり安心しきっているように見えて、まるで本当の兄妹の様だった。


 ユモトがトントンと肩を叩いてムツヤを起こそうとした時にそれは起きる。


「んー? ヨーリィおいでー」


 寝ぼけているムツヤがユモトの肩に手を回してガッチリと抱きしめたのだ。ベッドに倒れ込むようにユモトは引き寄せられた。


「な、なな、なにしゅているんですかムツヤさん!」


 ユモトを抱きしめたままムツヤは眠る。隣を見るとバッチリと目を覚ましたヨーリィの紫色の瞳がこちらを見ていた。


「おはようございます、ユモトお兄ちゃん」


「ヨーリィちゃん、た、助けて!」


 ヨーリィはひんやりとした右手をムツヤの頬に当てた。その冷たさからかムツヤはうーんと言いながら目を覚ます。


「ゆ、ユモトさん!? 何してるんですか?」


「それはこっちのセリフですよ!!」


「ムツヤ、お前は何か一騒動起こさないと起きられないのか?」


 騒がしいので様子を見に来たアシノは呆れて言う。そこでムツヤは自分が何かしてしまった事を理解した。


「あー! ユモトさんすいませんすいません!!」


 ペコペコとムツヤは謝るが、それに対して赤面しながらもユモトは「いえ、お気になさらず」と言って逃げるように部屋を出た。


 後は地下室で寝ているルーを起こしに行くだけだ、何度か扉をノックして呼びかけても反応がない。


「入りますよールーさん」


 地下の一角にあるベッドで寝ているんだろうと思い、そこまでユモトは歩くと布団にくるまっているルーが居た。


「起きて下さーいルーさん」


 そう言ってルーの肩を軽くポンポンと叩く、すると彼女は上半身をむくりと起こす。


 そして、ユモトは「あああああ!!!」と叫んだ。


「おはようユモトちゃん」


 ルーのローブははだけており、着ていると言うより羽織っていると言ったほうが合っている。正面から見ると小柄な割に大きな胸があらわになりそうな状態だ。


「あら、いやーん、えっちー」


 こんな状況下にも関わらずルーはニヤリと笑ってからかう感じに言った。


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(イラスト:有機ひややっこ先生)


 ユモトは「すいません」と謝って部屋から飛び出る。階段を急いで上り、軽く息が切れる。


 ただ朝食の為にみんなを起こしただけなのに何故こんなに疲れるんだろうとユモトは思っていた。


 慌ただしい朝だったが、ようやく全員が揃って食事を迎えられそうだ。みんな席に着くとそれぞれ祈りを捧げる者、そのまま食べ始める者と分かれる。


「このスープ美味しい!! ユモトちゃん私の嫁にならない!?」


「だから、よ、嫁ってなんですか!! 僕は男ですよ!」


「えー、でもユモトちゃんは良いお嫁さんになると思うよー?」


 そう言ってルーはケラケラと笑った。その隣でアシノがため息を付いてユモトに言う。


「ユモト、こんな変人の言うことは気にするな。というかいちいち真に受けていたら心が持たないぞ」


「変人ってなによ!」


 うーと言ってルーはむくれた。そんな様子を尻目にモモはまたユモトの手料理を食べて敗北感を味わっていた。


「このパーティのごはん担当はユモトちゃんかな? ねぇムツヤっち?」


「うーんそうでずねー、でもそれじゃユモトさんが大変じゃないでずかね?」


「それでしたら、交代制で私も作りましょうか? ユモトほど美味しくは無いかもしれませんが」


 モモは自ら名乗り出たが、言葉尻の方は自信をなくして小さな声になっていく。


「そ、そんな事無いですよモモさん!」


 慌ててユモトはモモにフォローを入れておく。


「俺、モモさんの料理も好きなんで楽しみです!」


 ムツヤが笑顔を作って言うと、モモは「あ、あう……」と小さく言って下を向いてしまった。


 ヨーリィはマイペースに真顔のままもしゃもしゃと朝食を食べている。


「ごちそうさまでした」


 皆が食べ終わるとユモトは食器を片付け始める。モモも「私も手伝おう」と皿を洗った。


「皆この後はどうするんだ?」


 アシノが尋ねると皆は思い思いに返事をする。


「私は新しい剣を使いこなせるよう特訓をしようと思っています」


 食器を洗い終えたモモは、腰に携えた剣を触りながら言った。


「僕も家事が何もなければ魔法の練習をしたいです。やはり数年使っていなかったのでまだ馴染まない部分があるので」


 早くムツヤさんに恩返しがしたいとユモトは決心し、杖をギュッと握りしめる。


「それじゃ私は2人の特訓のお手伝いをしようかな」


 ルーがにこにこ笑って言うと2人は「よろしくお願いします」と言って軽く頭を下げた。


「俺はサズァン様から言われた通り、この板で裏の道具の位置を見つけようと思います」


 ムツヤはカバンからガラス板を取り出して言った。するとルーがまた騒ぎ出す。


「えぇー!? 昨日サズァン様が来てたの!? 私も邪神様に合ってみたかった!」


「ま、まぁまた会えると思いますよ」


 物凄く悔しがっているルーにムツヤは若干戸惑いながら言った。


「私はお兄ちゃんのお手伝いか、お姉ちゃん達の特訓のお手伝いをします」


「ヨーリィ、俺の方は大丈夫だがら、モモさんとユモトさんの特訓のお手伝いをしてあげて」


 ムツヤはそう言ってヨーリィの頭を撫でた。「んっ」と小さい声を出したのは了解したという意味だろう。


「私もビンのフタでも飛ばしながら訓練でも見ていてやるかな、技術は失ったが知識だけは一応あるんでね」


 自虐気味にアシノは言った。これで全員の今日の予定は決まったみたいだ。

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