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裏の道具を装備していくかい? 1

「何か私にも使える裏の道具はないのですか?」


 モモはムツヤとルーに問いかける。うーんと唸ってルーは考えていた。


「モモちゃんは魔力がそこまで無いけど、剣の腕と力はあるから、魔力を消費しない道具を持つのが良いと思う。そんないい感じの剣はある? ムツヤっち?」


「うーんと、あっ、ありました!」


そう言ってムツヤはカバンから一振りの剣を取り出した。剣の鞘の精巧な作りを見るだけで上等な物だという事がわかる。


 ムツヤは剣を鞘から抜いた。その刀身は諸刃の剣で武器鑑定の専門家でもないモモが見ても業物だと分かる1品だった。


「この剣って手入れじなぐても刃こぼれしないんで便利なんでずよ」


 ムツヤは剣を鞘に収めてモモへと手渡す。本当に自分に扱いこなせるのか不安だったがモモはその剣を手に取る。


「ムツヤ殿、お預かりします」 


「試し切りでもしてみたら?」


 ルーは軽いノリで精霊を召喚した。


 精霊は自分から動くことは無かったが、どっしりと構えたそれに傷を付けるのは誰が見ても難しいと思えるものだった。


「わかりました、では」


 剣を構えてモモはその精霊に向かって切り込んだ。


 そして、モモは驚く。ほとんど何の抵抗も無く精霊を真っ二つに切り裂いてしまったからだ。見ていた皆もおーっと驚きの声を出す。


「これは……」


 モモは剣の素晴らしさに感心すると共に少し恐怖心を抱いた。こんな強力な剣を自分は扱いこなせるのかと。そして出した結論は……


「ムツヤ殿、この剣は大切に使わせて頂きます」


 モモはそう言って剣を収めた。この剣を扱うのに相応しい自分になる事を誓って。


「わがりましだ! それとこっちの盾もどうぞ」


 ムツヤは青銅色の盾を取り出して言った。さっきの精巧な作りの剣から比べるとだいぶ骨董品のような物だった。


「この盾はどんな攻撃をされても平気なんですよ。試しに…… モモさんそこの金づちで思い切り盾を殴ってみて下さい」


 モモは困惑した。ムツヤの事を疑うわけではないが、骨董品の様な盾を思い切り殴りつけて万が一の事があったらと心配をする。


「本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫でずよ」


 不安がるモモにムツヤは笑顔で返事をした。それならばとムツヤを信じてモモは盾を構えるムツヤを力いっぱい金づちで殴った。


  それは不思議な感覚だった。思い切り盾を殴ったはずなのにモモの手に衝撃は無く、音も無い。


「この盾ってどんなに強く殴られても大丈夫なんですよ」


 ヘラヘラとムツヤは笑っていたが、ルーが大声を出した。


「あー!!! それってもしかして『無力化の盾』じゃないの!?」


「無力?」


 ムツヤは首を傾げてそう口にした、ルーはムツヤの腕を引き寄せて盾を間近で眺める。


 その際、腕にルーの柔らかな胸がメイド服越しに思い切り当たっており、ムツヤはそちらに驚く。


「無力化の盾ってのは、伝説の盾でどんな衝撃も吸収してしまうのよ!!」


「伝説? いやこれも沢山落ちてましたけど……」


 ムツヤは盾を持つことをあまり好まなかったので、今まで興味を持つことがなかった。


「む、ムツヤっち!! 私にも1枚研究用に頂戴!!」


「あっはい」


 興奮するルーにムツヤはカバンから取り出した無力化の盾を手渡す。


「ありがとー!! ムツヤだーいすき!」


 テンションが上りきってしまったのか、盾を受け取ったルーはお礼を言ってムツヤに抱きついた。またムツヤの顔がだらしなくデレデレとし始める。


「る、ルー殿? ちょっと興奮し過ぎでは!?」


 心の奥底で何だかモヤモヤする感情を感じながらモモは興奮しきったルーを制止した。


「あーごめんごめん、ついね」


 口ではごめんと言いつつも、ルーは悪びれた素振りが無く、ムツヤをパッと離してニコニコとしている。


「後はモモちゃん用の鎧があったら出してよムツヤっち」


 ルーはおちゃらけた感じで言った。何かを口にする度にせわしなく動くのでメイド服のスカートがひらひらと舞っていた。


「魔力が減らない鎧だとこれはどうですか?」


 ムツヤが取り出したのは立派な鎧だ。


「何これ、魔法で凄い強化されてるじゃない!! こんな見事な強化は見たこと無いわ!」


 どうやらルーが興奮する程度には凄いものらしい、モモはその鎧を手にとってみる。


 まるで羽のような軽さのそれは「本当に攻撃が防げるのか?」と逆に不安になるほどだ。


「ありがとうございますムツヤ殿」


「どういたしまして」


 2人はお互いに1礼した。モモはこの貰った道具でムツヤを、仲間たちを守ると心に固く誓った。


「お次はユモトちゃんの番だねー」


 ツーサイドアップにした銀色の髪をたなびかせてルーはけらけらと笑った。


「僕は男なのでちゃん付けは…… やめてください」


 ユモトは右手を軽く握って口元に当てながら言った。その仕草からは男っぽい感じが伝わってこない。


「ごめんごめん、でもユモトちゃんの服って『ゴイチ一族の服』でしょ?」


「はい、僕もその血を受け継いでいますから」


「そう言えばそうだったな」


 ルーとユモトとアシノの間で話が進み、ムツヤとモモは蚊帳の外だった。


「ゴイチ一族って何ですか?」


 ムツヤが疑問を口にすると、モモもずっと聞いてみたかったことを話してみる。


「そうだ。その服は母上の形見で、着ていると魔法の威力が上がるとは聞いていたが、それ以上の事は知らなかったな」


「そうですね」と言ってユモトはうーんと目を閉じてどこから説明するかを悩んでいた。


「ゴイチ一族ってのはね、簡単に言ってしまえば有名な魔法使いの一族なのよね」


 ユモトの代わりにルーが説明を始める。だがこの世界で生きていたはずのモモはその一族の名前を聞いたことがなかった。


「そうなのですか、知りませんでした」


「仕方ないですよ、ゴイチ一族よりも有名な魔法使いの一族なんて沢山いますから」


 少し照れた顔をしてユモトは続ける。


「それにゴイチの一族は、何ていうか…… シャイな人達が多くて表舞台に立ちたがらないんですよ」


 なるほどなと、モモはユモトを見て思った。確かにユモトが有名な魔法使いの一族だと自慢している姿は想像が出来ない。


「それで、ユモトちゃんが着ている服はゴイチの一族が着ると魔力のコントロールがしやすくなるってわけ」


「そうなんです、それと……」


 1つ間をおいて恥ずかしそうにユモトは話し始める。


「これはお母さんの形見ですから…… 恥ずかしいですけど着ていると安心するんです」


 ユモトは照れながらニコッと笑って言った。


 白を基調として、胴回りや袖に青色や金色でアクセントを付けたそのローブは機能性の良さもあるが、それ以上にユモトの精神面で必要なものなのだと全員が理解した。


「それだったら、ローブの下に何かを着ておいた方が良いんじゃない?」


「それだったらこれはどうですか?」


 ムツヤが取り出したのはパッとしない鎖帷子だった。


「おっ、これも魔法でかなり強化されてるわね! これ着たほうが良いわよユモトちゃん!」


 ルーの助言を聞き入れてユモトはムツヤから鎖帷子を受け取る。体力のないユモトにも羽のように軽いそれであれば負担にはならないだろう。


 と、これでユモトの防具の選定は終わるはずだったが。


「あ、そうだ。魔法使いの衣装があったので、一応出してみますね」


 ユモトは何となく嫌な予感がしていた。ムツヤがカバンに手を突っ込んで取り出したそれは。


「あったあった」


 白い布地に胸の部分はピンク色。すこし胸元がはだけており、ヘソは丸出しになるだろうという着丈だった。


 ふわっと広がっているスカートはフリフリとしている。それに合わせるように白いニーソックス。先端がハート型になっている杖のおまけ付きだ。


「これが魔法使いの服?」


 顔を傾けているルーの頭の中にはクエスチョンマークが出ている。


「なっ、よく分かりませんけどこれ女の子用じゃないですか!」


 流石にユモトも大きな声が出てしまった。


「別の世界の魔法使いの服なのかもしれないわね。って事で」


 ユモトは後ずさりをしていたが、ニコニコと笑顔を作って衣装を持ったルーが近付いてくる。


「着てみよっか?」


「い、嫌ですよ!!」


 普段は皆に合わせて大人しい性格のユモトも、こればかりは断固拒否していた。


「それに、使い心地を試すならルーさんが着れば良いじゃないですか!」


 もっともな意見を言うが、それはどうやらルーの耳には入っていかないらしい。


 ルーに手を握られてユモトは別室へと連れて行かれる。


 ムツヤに助けを求める目をしたが、いってらっしゃいと手を振るだけだった。


 そして待つこと少々、ルーが部屋から出てきてグッと親指を立てる。


「こんな格好で皆の前になんて出られませんよ!!」


「大丈夫だって、安心してよー。似合ってるからヘーキヘーキ」


 ユモトは顔だけをこちらに覗かせていた。その頭にはティアラが乗っていた。


「こんな、これじゃ女装じゃないですか!」


 顔を真っ赤にしてユモトは言った。そんなユモトの肩をルーはパンパンと叩いて言う。


「これは実験なんだから、この服とユモトちゃんがいつも着ている服のどちらが魔法を使う時に向いているかの」


 「うぅ……」とユモトは下を向いてうなり、もうどうにでもなれと扉からバッと飛び出した。

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