話の後すぐにムツヤ達には長らく使われていなかった街外れにある2階建ての建物を与えられた。
かつては冒険者ギルドで使われていたらしいが、今は空き家になっているらしい。
ここでムツヤ達は今日から一緒に生活をする。キエーウの襲撃や拉致から身を守る為に、なるべく一緒に行動出来るようにという配慮だ。
それともう1つ、人目の少ないこの空き家であれば裏の道具での戦いで誰かを巻き込むことも、目撃される可能性も減らせるという事もあった。
ムツヤ達と勇者アシノ、そしてそこにはもう1人。
子供のようだが、少し不健康そうな白い肌と、対照的に黒色の魔術師のローブを身にまとっている。そして立派な胸の二つの塊。
そう、ムツヤ達が冒険者としてやっていけるか試験をした女『ルー』だ。
建物を開けるとホコリとカビが混じったジメッとした臭いが鼻を突いた。思わずムツヤは顔をしかめる。
このパーティの最初の任務はこの建物の掃除だった。
「ホコリくせーな。おいムツヤ、何か掃除に役立つ道具は無いのか?」
アシノは眉をひそめてムツヤに聞いてみる。
うーんと考えた後にそうだとムツヤはカバンから臭いが消える球を取り出し、それを玄関先に投げ込んでみるとそこを中心に風が起こり辺りの臭いを消していく。
「すごい、これが裏の道具なのね!」
興奮気味にルーは言った。だがアシノは不満そうだ。
「なんだよ、臭いは確かに消えたけど、汚れは取れないのかよ」
「すいまぜん」
ムツヤは頭をかきながらそう謝った。仕方がありませんねとモモが言葉を出す。
「我々で掃除をするしか無さそうですね」
「あ、ムツヤさん。お掃除の道具とか、作業着みたいなものってありますか?」
ユモトはムツヤに聞いてみた、するとムツヤはありますよーと、とんでもないものを取り出す。
黒を基調として白いフリフリとエプロンが付いたそれは誰がどう見てもメイド服だ。
「お掃除する時にはこれを着るんですよね、外の世界の本で読みました!」
唖然とする女性陣を尻目にムツヤは手品のように次々と色々なサイズのメイド服を取り出し始めた。
「私は外でこの武器を使う練習するからパスだ!!」
颯爽と勇者は逃げ出した! ムツヤはメイド服を持ってユモトに近付く。
「こ、この服は女性用なので!! 僕はこのままで良いですよ!」
もっともらしい理由でユモトはメイド服から逃げた、次にムツヤが近付いたのはヨーリィだった。
「お兄ちゃんがお望みとあらば」
小さいメイド服を身にあてがってサイズを見てみる。どうやらヨーリィにはピッタリのようだ。
「うー、服汚したくないし…… それに裏ダンジョンのメイド服には興味が……」
己の探究心に負けてルーはメイド服を手にとった、残るはモモだけ。
「わ、私は、私はこのままで充分ですから!!」
「まぁまぁそう言わずに、一緒にメイド服の世界に入ろうじゃない」
ルーはそう言ってモモにメイド服を近付けた。
「モモさんが嫌なら残念ですけど…… 迷惑でしたか?」
ムツヤは捨てられた子犬みたいな顔をして言った。モモはこの顔にものすごく弱いのだ。
「わかりました、わかりましたよもう!」
それからしばらくして全員の着替えが終わる。ユモトはいつものローブの前に肩掛けの青いエプロンを付け、頭には三角巾を巻いていた。
ヨーリィはトコトコと恥じらいもなくムツヤ達の元に歩いてきた。長い黒髪と白い肌がメイド服の白黒と絶妙に合っている。
「どうですか? お兄ちゃん」
「すごく良く似合っでるよ」
笑顔でムツヤが言うが照れるでも喜ぶでもなしに「そうですか」と抑揚のない声でヨーリィは言うだけだった。
ルーはセミロングの銀髪とメイド服の取り合わせで絵本に出てくる主人公の女の子のようだ。
「何かこのメイド服着ると無性に掃除がしたくなるんだけど、そういう効果でもあるの?」
「それはわからないでずね」
モモは扉から顔だけをちょこんと出してムツヤを見ている。
「あ、あの、あの絶対に笑わないで下さいよ!?」
「大丈夫でずって」
「絶対ですからね!」
そう言ってモモは姿を表した、モジモジと恥じらいながら下を向いている。
栗色の髪はいつものように後ろで一本に束ねていた。
「なーんだ、似合ってますよ可愛いじゃないですか!」
「かっか、かわっ」
モモは顔から湯気が出そうだった。