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飲みに行こう 2

「ありがとうございます」


 ヨーリィは手からじんわりとした温かい魔力が体にみなぎっていくのを感じていた。


 ムツヤからの魔力を受け取ると頭の奥底に沈んでいる何かが戻ってくるような気がする。


「ちょっと横になってもいいがな」


 ムツヤはベッドに腰掛けたまま上半身だけを倒して左腕を頭の上に投げ出した、完全に寝るための体制だ。


「お兄ちゃんは横になってお休みになられても大丈夫です、私も魔力を頂いたら休ませて頂くので」


ムツヤの手に柔らかなヨーリィの手の感触が伝わる。


 少し体温が低いのか握った感じはひんやりと冷たかった。


 マヨイギの魔力も優しさを感じたが、それとは別の何かをムツヤからは感じる。


 いつの間にかムツヤは眠ってしまっていた。目を覚ますと眼前には真っ白な肌の少女。


 ムツヤはヨーリィと向かい合って眠っていたようだ、手を握ったままヨーリィはスゥスゥと寝息をたてている。


 そろそろ手を離しても大丈夫だろうかとムツヤは恐る恐る手を離してみた。


 ヨーリィは枯れ葉になってしまうことも、目を覚ます事も無い。


 窓から外を見てみる、太陽は真っ赤になりすっかり夕暮れ時だ、そろそろ良い時間かなと思い、ムツヤはヨーリィを起こすことにする。


「ヨーリィ、そろそろ起きて」


 ムツヤはヨーリィの肩を触ってゆさゆさと揺さぶり起こそうとする。少女は薄っすらと目を開けてうーんと唸ってムツヤを見つめた。


「申し訳ありません、すっかり寝てしまいました」


「いいや、大丈夫だよ」


 ムツヤはニッコリと笑って言う、ヨーリィの口調以外はまるで本当の仲の良い兄妹のようだ。


「そろそろモモさんも待ってるかもしれないから行こう」


「了解いたしました」


 部屋を出てロビーへと向かう、そこではモモが紅茶を飲みながら2人を待っていた。


「いやー、お待たせしましたモモさん」


 ムツヤは手を降って声を掛けるとモモもニッコリと微笑み返す。


「いえ、私も今来たばかりです。それでは行きましょうか」


 そう言ってモモは紅茶を飲み干すと3人で夕暮れの街に出掛ける。


 そこは昼間とはまた少し違う街が顔を覗かせていた。それは冒険者のギルドも同じだった。


 ひと仕事を終えた冒険者たちがチラホラと酒を飲んでいる。


 そのギルドの食堂の中ではユモトが待っておりムツヤ達を見つけるとサッと立ち上がり軽く手を降った。


 宿屋でモモはムツヤのカバンから取り出した上物の服に着替えていた。


 口では乗り気でなかったが青色のドレスを着て少し嬉しそうだ。


 ムツヤは2人とは違い黒のTシャツに青色のジーンズの様な生地のズボンというラフな格好だ。


 手を振るユモトはさっきまで着ていた例のローブを身にまとっている。


「あれ、ユモトさん。そのお洋服っておせんたぐしたんじゃ?」


 ムツヤは疑問に思っていたことを聞いてみる。するとユモトはにっこりと笑って答えてくれた。


「はい、この服は水で洗った後に魔力を通すと一瞬で乾いてくれるんです」


 へぇーとムツヤとモモは関心した。まじまじと服を見られるとユモトは照れて、そんな事より何かお料理を頼みましょうと取っておいた席に座る。


「料理は適当に何品か頼もう、それと…… そうだな、私はウィスキーを飲もう」


「モモさん結構強いお酒を飲むんですね。あ、僕はワインにしようかな」


 ニコニコとユモトは笑顔を作って言った。楽しそうなユモトを見てモモも思わず笑みがこぼれる。


「俺はですねー…… お酒って初めてで何を頼んだら良いのか」


「ムツヤさんって苦手な物とかありますか?」


「そうですね、苦いものはダメなんですよ」


 ユモトは「そうですねー」と言いながらメニューを眺めた。


「それだったらこのコーヒーのお酒をミルクで割ったカクテルなんてどうですか?」


「コーヒーって苦いんじゃなかったでしたっけ?」


「そんな事ないですよ! 甘くて美味しいお酒になるんです」


「うーん、じゃあそれで」


「私もお兄ちゃんと同じのが良いです」


 ヨーリィがそう言うとユモトはうーんと困った顔になってしまう。


「ヨーリィちゃん、子供はお酒を飲んじゃダメなんだ」


「ユモトお姉ちゃん、私はお姉ちゃんよりも長く生きています」


 全員がえぇー!? っと驚いた。だが確か森を抜ける時にヨーリィの過去について軽く質問をした時、自分は奴隷だったと言っていた。


 奴隷制があった頃から生きていると考えれば自分達よりも年上だ。


「そ、そっかー、あとお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど……」


「ですがギルドは子供に酒を提供してくれません、見た目がこれで身分証も無いとなると……」


「ヨーリィちゃん。ジュースで大丈夫かな? オレンジジュース! 美味しいよ?」


「じゃあそれで」


 表情を変えないままヨーリィは言った。ユモトは申し訳なさそうにごめんねと言った後にハッと気付く。


「年上って事はヨーリィさんって言わないとダメでしたか!?」


「いいえ、その辺りは気にせず今までどおりでお願いします」


「とりあえず注文をしてしまおう」


 モモはそう言って店員を呼んだ、しばらくすると「お待たせいたしましたー」と先に飲み物と軽いつまみが届けられる。


「それじゃあ乾杯しましょうか!」


「ふふっユモト、何だか今日はいきいきとしてるな」


 モモの言う通り、いつもは控えめなユモトのが今日はやたらと積極的だ。言われてユモトは顔を赤くして言った。


「あの、僕って3年ぐらい病気で寝ていたんで、仲間とこうしてお酒を飲むって初めてなんですよ」


「それじゃあ俺といっしょですね」


 ムツヤも酒を仲間と飲むのは初めてだ。


 拾った外の世界の本でこういう事があることだけは知っていたが、実際に飲むとなると感慨深く、一歩夢に近付いた気がする。


「初めてにしてはやけに酒に詳しかった気がするが」


「お父さんがよくお酒を飲んでいたのでそれで知識だけは……」


「なるほどな、とりあえず乾杯をしてから話をしようか。ユモト頼んだ」


 分かりましたと言ってユモトが高くワイングラスを上げる。それに合わせて皆もそれぞれグラスを高く上げた。


「では、かんぱーい!」


 カチンカチンとグラス同士がぶつかり小気味よい音を立てた。ムツヤは恐る恐るコーヒーミルクを飲んでみる。


「あっ、あまぐでおいしい! ユモトさん美味しいですよこれ!」


「ははは、よかったですね」


 そう言ってユモトは上品にワインを飲んだ。モモはウィスキーをクイクイと飲み、ヨーリィはちびちびとオレンジジュースを飲む。


「これも美味しいですよ」


 ムツヤはおつまみとして出てきたサラミを食べる、ユモトもチーズに手を伸ばした。

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