目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
むかしばなし 2

 冒険者たちをつるで絞め殺し、杭を心臓に打ち付け、風の魔法で顔を吹き飛ばし殺す。


 そのまま村へと下り、男や女や子供関係なく衝動に導かれるまま全員をありとあらゆる方法で殺した。


 こんな奴らがヨーリィを苦しめ、挙句の果てには殺したのかと思うとどうしようもないドス黒い感情が渦巻いてしまう。


 マヨイギは全員の亡骸を土の上に置いて養分と魔力を吸い上げ、たった1人の半死半生の少女の為に魔法を使う準備をした。


「っ、ああああ!!!!」


 薬になる自分の腹わたも切り取り少女の風穴にねじ込み、そして魔法を使う。


 結果から言えば少女は生き返ったが、代償として感情が希薄になってしまった。ヨーリィは動く、動くが、生きているかと言われれば答えられない。


 昔のような笑顔を見せることが無くなってしまい、定期的に魔力を注入しないと体が枯れ葉になり散り去ってしまう体になった。




「ヨーリィ!! もういい、もういいの!!!」


 マヨイギがそう言うとヨーリィはピタリと止まった。


「それで、あなた達の狙いは私でしょ?」


「えーっと、俺はこの森から出られればそれで良いんだけども」


「は?」


 怪物は拍子抜けして間抜けな声が出る。


 てっきり新米冒険者のフリをして自分を狩りに来た熟練の冒険者だと思い、結界まで作って殺そうとしたのだが、それは勘違いだったらしい。


「ムツヤ殿、その怪物は売ればおそらく良い値段になりますが…… まぁ私達が倒したなんて言ったら当然信じてもらえないでしょうね」


 モモは進言するもムツヤは両腕を組んでうーんと考えていた。そんな時にムツヤのペンダントが光り、裏ダンジョンの主サズァンが出てきた。


「ムツヤー心配したのよ? 結界に邪魔されてて!!」


「サズァン様!?」


 怪物はぽかんとしていたが、お構いなしにサズァンは続ける。


「私ね、いい取引を思いついちゃったのムツヤ! その怪物は私の世界で預かるわ! 私の開いた結界の隙間は魔物か道具なんかの生きていない物しか通ることが出来ないんだけど、そこの怪物だったらこっちで保護してあげるわ!」


 状況を飲み込めない怪物だが、話している相手は自分より遥かに格上の存在だということは理解できた。


「あなた、ムツヤを殺そうとしたことは水に流してあげる。その代わりヨーリィって子の主人をムツヤにしてあげなさい。そうすればあなたは冒険者に襲われない世界で生きることが出来るわ」


マヨイギは考えていた。自分はどうなろうと構わないが、ヨーリィだけが心配だった。そこにダメ押しでサズァンが誘惑をする。


「その子、ムツヤの魔力を注入し続けたら感情を取り戻せるかもしれないわよ? っていうか後1分ぐらいしか持たないから早く決めちゃって」


マヨイギの心は揺らいだ、ヨーリィが人らしい生活を出来るのであれば任せても構わないが、昨日今日会った人間に託すことはどうしても渋ってしまう。


「私がこの方に付いていけば、マヨイギ様の身の安全は保証されるのですね?」


 横からヨーリィが口を挟むと、サズァンは親指を立てて「オールオッケー!」と言い放った。


「どうか、マヨイギ様をよろしくおねがいします」


「ちょっ、ちょっと待って」


 マヨイギはそう言ったのだが……


「ちょっと待てなーい」


 サズァンが空間を開くと、暗闇の中にマヨイギは「あああああぁぁぁ」と絶叫をしながら吸い込まれていった。 


「本当にマヨイギ様は無事なのですか?」


「任せなさい! あ、それじゃまたねー」


 今回もまた嵐のように来て去っていったサズァン。4人は取り残されて気まずい雰囲気になる。


「あ、あのー、ヨーリィさんですか? よろしくおねがいします」


 意外にもずっと黙っていたユモトが1番最初に言葉を出した。


 するとヨーリィはペコリと頭を下げて「よろしくおねがいします」と言い、その後ムツヤの目の前へと行く。


「あなたが新しい主人、ですね」


「えーっと、はい、そうみたいですね。俺は『ムツヤ・バックカントリー』って言います」


「ご主人様敬語はいりません。私はヨーリィと申します。よろしくおねがいします」


 こうしてムツヤには半分死んでいるらしい少女が仲間に加わった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?