「まさか……迷い木の怪物か?」
「いえ、この辺りでは絶滅したはずです」
ムツヤは1人で会話に置いていかれていた。迷い木の怪物とは何なのだろうか、それを察したモモが説明をする。
「迷い木の怪物というのは人を森の中で迷わせ、弱った所を襲う魔物です」
「それってどうすれば良いんですか?」
すっかり元気が無くなってしまったユモトが震えた声で答えた。
「結界を破るか、迷い木の怪物を倒すかしか道はありません」
とんでもない事になってしまったとユモトは青ざめていた。
迷い木の怪物の結界は自分の実力では破る自信も無いし、A級クラスの魔物
である迷い木の怪物と戦うのなんて自分達では無謀だと思っていた。
打つ手なしだ。
「まだ迷い木の怪物と決まったわけではない、ここで休憩を取ってもう一度歩いてみよう」
モモはそう提案をして3人は昼食を取ることにした。少しでもお礼がしたいとユモトが持ってきてくれた弁当を3人で食べる。
本当であれば楽しい昼食になるはずだったのだが、ユモトは青ざめた顔でうつむいており、モモも難しい顔をしたままだ。それとは対照的にムツヤはあっけらかんとしていた。
「このお弁当美味しいでずね、これって何ですか?」
「あっ、えと、ハンバーグです」
「すげー美味いじゃないですか、本当作ってきてくれてありがどうございます」
「あっえっ、ありがとうございます」
ムツヤは無理に場を盛り上げようとしているのではなく、純粋に弁当を味わって感想を言っている。
それを見てモモはふふっと笑う。ムツヤ殿が入ればまぁ何とかなるだろうと思い食材へ感謝の言葉を言い弁当を食べ始めた。
料理の腕前でユモトに負けたことがちょっとショックだったがやけに美味い弁当だ。
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弁当を食べ終えた3人は色々な方角に歩いた。
途中に目印を付けて歩いてもまたその場所へ戻されてしまう。何らかの攻撃を受けていることは間違いない。
森の中を歩いていたユモトはすっかり疲れてフラフラとしていた。
「すみません、僕のせいでこんな……」
「大丈夫だ、迷い木の怪物はこちらが死ぬ寸前になるまで襲ってこないのだろう? 今日は野宿にしよう」
「はい……」
ユモトは申し訳無さと不甲斐なさでまた泣きそうになる。任せてくださいと言ったのに結界に気付かなかっただなんてと。
「腹減りましたね」
とりあえず木を集めて寝床を作った後にムツヤはポツリとそう言った。
今日の依頼は簡単に終わるだろうとユモトの弁当以外に食料は持ってきてこなかった。ムツヤのカバン以外には。
「その辺で動物でも居れば狩りが出来ますが、鳥の1羽も居ないですね」
「あ、あの、ムツヤさん! これは僕の責任です、どうしても食べ物が見つからなかったら僕を…… 僕を……」
息を吸い直してユモトは続けた。
「僕を食べて下さいムツヤさん!」
ムツヤとモモは首をかしげて『この子はいったい何を言っているんだろう』と思った。その時にムツヤのペンダントが光りだす。
「ムツヤー、大変そうね」
褐色の肌と露出の多い服。裏ダンジョンの主であるサズァンだ。
「な、だ、誰ですか!? それより何事ですか!?」
ユモトは突然の出来事にうろたえたが、ムツヤとモモは慣れたもので普通に挨拶をする。
「はじめましてー、っていうか本当に女の子にしか見えないわね。私はサズァン、裏ダンジョンの管理者よ」
「あっ、えっ、裏ダンジョン?」
状況がまだ飲み込めていないユモトとそれを見てクスクスと笑うサズァン。
「ねぇ、ムツヤ? ユモトには本当のことを言っても良いんじゃない? 状況が状況だし、あっいけないまた魔力が消えちゃう。バイバイムツヤ、モモもムツヤのことよろしくねー」
サズァンは嵐のようにやってきて去っていった、モモは何かを考えて決心する。
「ムツヤ殿、ユモトにはやはり本当のことを話されたほうが良いのではないでしょうか」
このメンバーで冒険者として旅することになるならば早く伝えておいたほうが良いし、何より今は緊急事態だ。ムツヤは話を切り出す。
「そうですね、ユモトさん、実はですね……」