「いいですよ」
ムツヤは少しも渋らずに快くそれをユモトへと渡した、不安そうな顔をしてユモトは青い液体が入ったビンを眺める。
中々飲もうとしないのでしびれを切らしたゴラテがビンのフタを開けてやり、飲むように促した。
ユモトはその桃色の唇をビンにあててゆっくりゆっくりと中身を飲み干した。
それは不思議な感覚だった、体の中心から手足の末端までじんわり温かい何かが広がっていく感じ。
体を縛っていた縄が解けるような、頭のモヤが消え去るようなそんな清涼感があった。
「どうした、大丈夫かユモト?」
ゴラテはユモトの顔を覗き込んだ、じわっと目を開けたユモトは……
「パ、パ、パピャロンロン!!!」
ベッドの上に立ち上がってそう叫んだ、ゴラテとモモはそれを見て固まる。
ムツヤとモモは薬の副作用で叫ぶことを知っていたので動じなかったが。叫んだ後、ユモトはゆっくりとベッドにしゃがみ込んで言う。
「父さん、父さん!! もう体のどこも痛くないし、咳も出ないよ」
そう言った後ユモトは泣いていた、それを見てゴラテの目からも涙が溢れる。
「本当か、本当なんだな!?」
ベッドから降りたユモトはにっこりと笑った、そんなユモトをゴラテは抱きしめた。
「よかった、本当に良かった……」
ベッドから降りて立ち上がることもやっとだったユモトが何の苦労もなく地に足をつけて立っている。
それだけでもうゴラテは充分だった。しばらく親子の感動的な場面が続くが、ユモトはくるりと振り返って深く頭を下げた。
「ムツヤさん本当にありがとうございます、僕なんかの為に親御様の形見の薬を……」
「ムヅヤアアア!!! アリガドヨオオオ!!!」
ゴラテは泣きじゃくって何を言っているのかもはや分からなかったが感謝の言葉を何度も口にする。
全員が落ち着いた頃に改めて話が先に進んだ、ゴラテは自分の部屋でギルドへの推薦状を急いで書いてくると言った。
ユモトは寝間着から普段着に着替えたいと言い、その間モモとムツヤは客間に通されて、ユモトの淹れてくれた紅茶を飲んでいた。
口に入れると何かの果実の香りがふわりとする。
着替えたユモトは緑色のTシャツに黒色のズボンを履いていた。可愛らしい顔立ちには少し不似合いだが、慣れてくると気にならなくなる不思議な服装だ。
「ムツヤさん、あんな貴重なお薬を本当にありがとうございます」
塔の中に行けば1日で30本も手に入る代物なのに何度もありがとうと感謝されるとムツヤの良心が少し痛む。
「この御恩は一生忘れません、お礼に僕に出来ることだったら何でもします」
モモはハッとした、この状況はまずい。またムツヤがハーレムを作ると言うのだろうと思い、急いで紅茶のカップを置いてムツヤの口を塞ぐ準備をする。
「それじゃあユモトさん、僕のハー」
間一髪で間に合った、そしてムツヤに耳打ちをした。
「ムツヤ殿、急にハーレムと言ってはいけないと言ったではないですか!」
「あ、そうでした」
ユモトは可愛らしく首をかしげて何を言いかけたのだろうと思う。
「えーっと、ユモトさんは冒険者なのだろうか?」
モモが代わりに話を進めていく。
「えぇ、病気になる前は冒険者でした。あと僕のことは『ユモト』って呼んでもらって敬語も大丈夫ですよ」
「そうか、じゃあユモト。私とムツヤ殿は冒険者の仕事を何も知らないのだ。しばらく冒険者について教えてもらえるとありがたいのだが」
「それならお安い御用です! 是非一緒に依頼をこなしましょう!」
「ムツヤと一緒なら俺も安心してユモトを任せられる」
会話が聞こえていたのだろうか、ゴラテがやってきてそう言った。
「はい、これで夢に一歩近づきました」
近づいた夢とは冒険者になることだろうか、それともハーレムを作ることだろうか、いや、おそらく両方だろうとモモは考える。
「こいつ、腕力は無いが魔法は得意なんだ。上級の魔法も使える自慢の息子だ」
今ゴラテが何かとんでもない事を言ったのを二人は聞き逃さなかった。
「自慢の……息子?」
「あぁ、お前達もユモトが女だと思ってたのか。こいつは死んだ嫁にそっくりでよ、よく女に間違われるが息子だよ」
二人の驚いた声と共に、またムツヤのハーレムが遠ざかっていく気がした。