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襲撃者 3

「なんていうか、人を殺しかけちゃっで、それを一度は助げだけど結局は死刑になるって考えるどなんで言っていいか……」


 ムツヤはたどたどしく言った後、そこでハッとしてモモを見て続ける。


「あ、いや、もちろんアイツは罪もないオーグの人達を殺した悪人ですがらそうなるのは当然だと思います」


 死刑がどういう事かは本で知っていた。モモもなんと言えば良いのかわからない。


 ただ一言目を閉じて思いついた言葉を出す。


「お優しいのですねムツヤ殿は」


 そんなしんみりとしてしまった空気の中で、今まで散々ムツヤに突っかかってきたバラが気まずそうに近付いてきた。


「えーっとあんた、改めて俺は礼を言うよ。それと今まで悪く言って本当にすまなかった。だけど、あんたに恩義を感じるから、これはあんたを心配して言いたいんだが」


 バツが悪そうに頭をかいた後、言葉を続けた。


「あんたのそれは優しいっていうんじゃなくて『甘い』って言うんだ。世の中には情けをかける必要もないどうしようもない悪人もいるんだ」


 ムツヤは黙ってバラの言葉に頷く。次はモモに対しての詫びの言葉だった。


「モモも散々悪く言って本当に悪かった、言い訳だがおふくろ殺された怒りを俺はどうしたら良いのかわからなかったんだ」


「バラわかっている」


 モモは笑ってバラの事を許した。仕方がない。


 あのような事が起きてしまったのであれば誰だって乱心してしまうと。


 その後もオーク達はちらほらとムツヤに礼を言いに来る。


 大体は村の脅威を捕まえてくれてありがとう、薬で助けてくれてありがとうという内容だったが、何故かムツヤはそれら全ての言葉を喜んで受け取ることが出来なかった。


 そこから一段落して、葬儀が始まることになった。遺体の腐敗が進んで来ているために慌ただしいがやむを得ずだ。


「本当に良いのですか?」


 モモは犯人が捕まり、約束通りムツヤを街まで案内すると提案したが、ムツヤはそれを辞退する。


「お葬式が終わっでがらにしましょう、俺も参加しまず」


 モモは一言ありがとうございますと言う。そのありがとうには実に色々な意味が込められていた。


 村の中心で棺に入れられた二人が並んでいる、バラの母親ともう一人の犠牲者のオーク。オーク達は花を入れ、涙を流し、祈りを捧げる。


「オーク達は死後に良き戦士とそれを支えた者はロトントという楽園に行けると言われている。あの二人ならばきっと大丈夫でしょう」


「そうですか」


 ムツヤは見よう見まねで花を手向けて、祈りを捧げた。


 棺は閉められ、村の埋葬状へと運ばれて穴に入れられる。


 全員が泣いていた。見知らぬオークの事なのにそれを見てムツヤも涙を流した。


 棺に冷たい土が掛けられて、段々と見えなくなり、穴があった場所は小さい山が出来る。


 何だかムツヤは悲しくもあり、怖くもあった。


 周りの雰囲気に影響され悲しいという気持ちもあるが、初めて参加した葬儀で、生き物が死ぬということの悲しさ無情さを現実のものとして体験した恐怖もある。


 葬儀を終える頃には日が沈み、出発はまた明日にしようとモモから言われる。


 ムツヤは頷いて了承する。そしてムツヤはモモから目線を外して遠くの夕焼けを見た。


「俺、外の世界に来だら、楽しいごとがたぐさん待っでいると思っでいだんですけど、外の世界も大変なんですね」


 モモは何も言えなくなってしまう。


 閉ざされた世界から来た純粋で真っ直ぐなムツヤを、勘違いで自分達の問題に巻き込んで。


 その上厚かましくも助けを求めた結果、この様な事を言わせてしまった自分が恥ずかしくて、情けなくて、とにかくムツヤに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「ムツヤ殿…… 本当に申し訳ない! こんな事に巻き込んでしまったこと、もうどう詫ていいのやら!」


「いえ、良いんです。俺が夢を見すぎでいだのだと思います。それにやっぱバラさんの言う通りずっと田舎で人と関わらながっだので考えが甘いのがもしれません」


 なんて言えば良いのだろう、モモは必死に言葉を出す。これ以上ムツヤに悲しんでほしくない。


「それでも! ムツヤ殿にとっては、たまった話では無いと思いますが…… 私はムツヤ殿に会えて本当に良かった、心から感謝している」


 その言葉を聞いて、ムツヤは胸のあたりからじんわりと心地よさが広がり、その波紋が顔まで来た時に何故かまた涙が出てしまった。


「あ、あれ、何で……」


「今度は私に恩返しをさせてください、ムツヤ殿がこの世界で楽しい事を見つけられる、夢を叶えるお手伝いをさせてはもらえぬか!」


 ふぅと息を吐いて涙を拭い、ムツヤは背を向けたまま笑顔を作ってから振り返りモモに言う。


「ありがどうございます。大丈夫です、俺はこの世界で絶対にハーレムを作ってみせます」


 しまったとモモは思う。ムツヤの夢はハーレムを作ることだったと今の今まで忘れていた。


「い、いやしかしムツヤ殿ハーレムってのはちょっと流石に……」


「わがっでいます、厳しい夢だってのは知っています。ですが俺は絶対に諦めません、どんな困難な道だろうと夢を叶えます!!」


 そして最高の笑顔でムツヤは言う。


「ですからモモさん、俺がハーレムを作る手伝いをお願いします!」


「あ、えっ、あー……」


 夕焼けを浴びながらキラキラした笑顔で悪意なくゲスな事を言う男に対し、モモは……


「はい……」


 こう返事をするしか無かった。

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