他人との関わりがなく、他の種族を初めて見たムツヤには毛嫌いという感情がわからないが。
「突然でした、今日の昼間の事です。人間の仕業というのも斬られた本人や目撃者から聞いたのだから間違いない」
怒りを込めてモモは続けて言う。
「私の妹も半殺しにされた。故に自分たちで警備をしていたのです」
話を聞く限り、オークと人間の間には深い溝があるようだった。
数秒の沈黙の後に何かをためらっていたモモは意を決してすがりつくように言った。
「その……ムツヤ殿! もしも貴方に情けがあるのであれば…… 先程勘違いで襲った事を承知の上で恥を忍んで言う! さっきの治癒魔法で私の妹、いや、私の同胞たちを治してはくれないか!?」
ムツヤは頭を下げるモモを見て「えっ」と声を出した。
「私達の村には治癒術を使える者がいない。それに街へ行って呼ぶにも行って帰って2,3日は掛かってしまう」
モモはさらに頭を深く下げて懇願をした。
しかし、ムツヤは苦い顔をして視線を左下に移す。
「すみません、俺って自分の傷を治す魔法しか使えないんですよ」
もし自分がオーク達の傷を治す魔法を使えるのであれば喜んで治すだろう。
だが、ムツヤは自分の傷を治す魔法しか知らない。
その事は祖父のタカクの怪我を治そうとしても出来なかった事で知っている。
「アレほどの治癒術が出来るのに他人は治せないのか!?」
モモは手を犠牲にしてまで自分を助けれくれた男が、オークを助けない為に嘘を付いているとは思えなかった。
けれども、あれ程までに見事な治癒術を使えるのに他人は治せないという話も信じることが出来ない。
目の前の男を信用しても良いと思いかけていた心に疑問がひと雫垂れ落ちて黒く混ざる。
「す、すみません。あ、でも、オークに効くかわからないですけど傷が治る薬ならたくさんあるんでそれを分けましょうか?」
代替案を持ち掛けたムツヤだったが、モモの顔は暗く沈んでいる。
「気持ちはありがたいのだが、深い傷で回復の薬だけではどうにもならぬ状態なのだ」
「あーでもコレ、俺が腕取れた時にもくっつけて飲んだら治ったんで、もしかしたら大丈夫かもしれませんよ」
聞き間違えたのだろうか、信じられないとモモはムツヤの顔を見直して瞳を小さくする、そんな馬鹿な話は普段だったら信じないだろうが。
「そんな薬が本当に?」